作家という職業をAIに奪われる危機感はない――「兼業作家」の予測する、「物語が必要とされる」時代の到来 #昭和98年
昭和から令和にかけて、日本人の職業は大きく変化した。PCの普及で消滅した職業があるように、AIによって今後さらに多くの職業がなくなると言われている。AIが小説を書き、森鴎外や夏目漱石の新作も登場する……? 作家とIT企業役員との二足のわらじを履く上田岳弘(44)は、クリエーターの未来を悲観しない。むしろ「物語が必要とされる」時代が来ると予測する。(取材・文:山野井春絵/撮影:殿村誠士/Yahoo!ニュース オリジナル特集編集部)
「0.05%の確率で助かります」っていうボタンは、誰も押さない
2013年のデビュー以来10年で、三島由紀夫賞、芥川龍之介賞、川端康成文学賞など、日本を代表する文芸賞を次々と受賞し注目を集める作家、上田岳弘。上田は大学を卒業後、IT企業の立ち上げに参加、現在も同企業の役員を務める兼業作家だ。 作家を目指そうと思ったのは、小学生のとき。その理由が、なんともユニークだ。 「4人きょうだいなので、早く自立しなければという思いが強かったんでしょうね。小学生の頃から『何がお金になるんだろう』とつねに考えていました。当時、『はなきんデータランド』っていうバラエティ番組があって。いろんなものをランキングする内容だったんですけど、本のランキングで、『この作家の印税はいくらです』とかやっていて、あ、本を書けば食っていけるのかな、と思ったんです。つまり最初に意識した職業が作家だったんです。だって、すでに字は書けるじゃないですか。職業として成り立つぞ、これはアリだな、と。今考えればだいぶん浅はかなんですが(笑)」 作家になる志を抱いて、早稲田大学法学部に進学。就職活動の時期になり、いよいよ執筆を開始する。4年生のとき、初めて文芸誌に応募すると、最終選考に残った。手応えを感じ、就職せずにアルバイトをしながら執筆を続けることを決めた。
デビューしたのは、その10年後。 「僕がデビューした新潮新人賞の応募作品数は2000くらい。2000分の1の確率って、もう変でしょう。『0.05%の確率で助かります』っていうボタンは、誰も押さないですよね。それを押し続けている人しかデビューできないと考えると、まあ、なかなかしんどい」 そう笑う上田も、作家の夢を諦めようと思ったことがある。思いがけず参加することになったIT企業の役員になり、目の前の仕事に忙殺される日々が何年も続いてもいた。 「仕事が少し落ち着いてからまた書き始めました。30歳になるかならないかくらいの頃ですね、もう、なんかどっちでもいいやと思い始めました。僕は書くべきだと感じるものを書きたいように書いているだけであって、これを結果として評価するかどうかはそちらの仕事です、みたいに切り分けて考えると、だいぶ楽にはなりましたね」