将来の夢を「スポーツ選手」と書くのが嫌だった──ラグビー元日本代表・山田章仁38歳が現役を続ける理由
「グローバルで学んで、いまローカルへ戻っている」
9月に開幕するワールドカップは、フランスが舞台となる。自国開催だった4年前とは環境が大きく異なり、前回ベスト8のジャパンは対戦相手が警戒する存在だ。好成績を残すのは簡単でないが、山田は穏やかな表情を浮かべる。 「ワールドカップはスペシャルな空間です。そこでの戦いを楽しむマインドで臨んでほしいですね。ワールドカップに出てくるところはどこも強豪ですし、勝つか負けるかは運みたいなところもあります。ラグビーは楕円球を扱うスポーツですから、ボールの行方が分からないところがありますので」 山田自身も現役を続けている。 23年春に終了したリーグワン2022-23シーズンで、彼が所属する九州電力キューデンヴォルテクス(九州KV)はディビジョン3で2位となり、ディビジョン2で5位のチームとの入れ替え戦に臨んだ。2試合合計の勝ち点で上回った九州KVは、ディビジョン2昇格を決めたのだった。
「僕は福岡県北九州市の出身で、18歳まで九州で育ちました。九州にはリーグワンのチームが九州KVしかないので、少しでも盛り上げたいという気持ちがあります。15年のワールドカップは代表に選ばれて、19年は最後に落選しましたけど、それも自分のなかでは大切な経験です。恥じるところはないし、経験したことはすべて生かしたいと思っているんです」 経験を生かすとの思いは、子どもたちの未来へ結びついている。国内の強豪はもちろんオーストラリア、フランス、アメリカのクラブで感じたものを、自身のプレーを通して伝えていけたらと願う。 「僕自身がいままさに、グローバルで学んでローカルへ戻っているのですが、自分が持っているマインドに間接的にでも触れてもらって、『世界ってどんなところなんだろう』と感じてもらえたら。それによって、人生が豊かになる子どもがいるかもしれない、と思うんです」
グローバルで活躍するために「家族会議」
7月26日に38歳の誕生日を迎えた。ベテランと呼ばれる年齢になってもなお、山田はアスリートとしての闘争本能がたぎる。そこにまた、九州への愛が舞う。 「国内リーグの通算トライ数で、1位が小野澤宏時さんの109トライ、2位が北川智規さんの101トライなんです。僕はいま98トライで3位なので、何とかおふたりの記録を超えたい。というのも、九州でラグビーをやっている子どもたちって、自慢できることが少ないんです。僕自身も小学生当時に将来の夢を聞かれて、堂々とラグビー選手と書きたかったけどプロがなかったので、スポーツ選手と書いたんです。それがすごく嫌だったんですね。僕が子どもの頃はもちろん、いまでも野球とサッカーに人気で離されている印象なので、『日本で一番トライを取っている選手は九州出身なんだよ』とか、『自分と同じ中学なんだよ』とか、小さなことでもいいからニュースを届けて、子どもたちに誇りを感じてもらいたいです」