「僕には才能がない」ロッテ・澤村拓一35歳が語る“常に逆境”の野球人生
澤村拓一は逆境に強く、己の信念をボールに乗せて投げるピッチャーだ。 読売ジャイアンツ時代の2020年、開幕から不振が続き、一度は現役生活の終わりを覚悟した。それでも移籍した千葉ロッテマリーンズで輝きを放ち、2021年からは2シーズン、MLBのボストン・レッドソックスで活躍。そして今年3年ぶりにロッテに戻ってきた。スケールアップした澤村の実像に迫る。(取材・文:二宮寿朗/撮影:倉増崇史/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
自分の周りにイエスマンはいらない
威風堂々──。 メジャーリーグから千葉ロッテに帰還した澤村拓一には、その表現が実によく似合う。一球一球に魂を込めた真っ向勝負。一切混じり気のない「ド」がつくほどの迫力をボールに乗せて。 頼れる剛腕が登場すると、スタジアムは一気に盛り上がりを見せる。2005年以来となるリーグ制覇に向けて、澤村が欠かせないキーマンであることは言うまでもない。 「優勝したいというよりは、目の前の試合に勝っていきたい。一試合、一試合を継続すること。積み重ねですね。だから3連戦を2勝1敗でいいとか、1勝2敗でも大丈夫だとか、そんなことを考えているようではダメです」 澤村は言葉もストレートだ。アメリカでの2年間が彼に心の変化をもたらせた。 「向こうで生活して、人に対しても、起きた物事に対しても許せるようになった。それが自分のなかでは大きかったです。自分の育った環境によってつくられた常識って結局は偏見の集まりじゃないかって。そう思えるようになってからは、物事を柔軟に見られるようになった。そこから精神的な余裕が出てきましたね」
心の余裕はピッチングにも反映される。試合で示せばいいという環境は、不器用な男にとって居心地が良かった。 澤村がかねてメジャーリーグに憧れを抱いていたのは事実だ。とはいえ2020年10月に海外FA権を取得した際、海を渡ることが決してマストではなかったという。 「今、振り返ってみると必ずしも行きたいというわけではなかった。アメリカに行くか、ここ(ロッテ)に残るかとなったときに、信頼する自分の古い友人たちから『チャンスがあるんだったら絶対に行ったほうがいい』と言われたんです」 澤村は本音をぶつけてくれる古くからの友人を大切にしてきた。信頼する人の言葉には耳を傾ける。「友達は少ないですよ」と語るものの、それだけ古くからの友人と濃密な付き合いをしてきたからだといえる。自分の背中を押す決め手の一つになったのだ。 「自分の周りにイエスマンはいらないです。いいことは、みんな言ってくれるじゃないですか。これは僕の信条なんですけど、自分のことにハイハイとうなずいて相づちを打ってくれる人よりも、ダメなときにダメって言ってくれる人間を大切にしている。そういう人を自分の右側に置いています。自分の古くからの友達は確実にそうですね」 澤村は言葉に力を込めた。