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NGT48の向かう先──Twitterで燃料投入するAKS社のガバナンス

松谷創一郎ジャーナリスト
(写真:アフロ)

 山口真帆さんなど3人がグループを卒業する結果となったNGT48問題。このまま事態は収束に向かうかと思いきや、5月24日からNGT48劇場支配人・早川麻依子氏がTwitterで情報発信を始めた。その思惑は、NGT48に残留したメンバーたちに向けられる疑惑とバッシングを緩和することだと見られる。

 だが、そのツイートには3月に発表された第三者委員会の調査報告と矛盾するものも含まれており、事態をより混迷させることに繋がっている(「NGT早川支配人 第三者委員会と食い違う投稿『火に油』と物議」『女性自身』2019年5月28日)。それは、昨年の日大アメフト部問題における記者会見での日大広報の対応を思い起こさせる。メンバーのインスタグラムへの誤爆をはじめ、もっとも事態を鎮火させたい側が逆にどんどん燃料を投入する状況が続いている。

今後のNGT48、4つの可能性

 さて、この問題についてだが、現状考えられる範囲内でNGT48の今後について考えてみよう。論理的にありうる可能性は存続か解散だが、それにも複数のパターンがありうるだろう。それぞれの可能性を考えていこう。

■可能性1:現体制のまま存続

 現在選択されているのはこれだ。山口さんなど3人は抜けたものの、現状のまま続けること。残留メンバーに疑惑が残り、地元のCMやテレビ番組などもなくなったが、劇場を中心に地道に続けることだ。

 だが、これは非常に厳しい道のりだ。たとえそれを続けたとしても、人気を回復できるのか、加えて今後NGT48に加入したいと思うひとがいるだろうか。アイドル志望の子を持つ親だったら、NGT48に入れることには絶対に反対するだろう。

■可能性2:メンバーを処分して存続

 第三者委員会の報告書では12人のメンバーが、ファンとの私的なつながりがあったとされている(p.21-22)。なかには加害者の関係者(「報告書」の「丙」)とつながりのあったメンバーも確認されている。ただし、山口さんに対する事件とのつながりは、警察の捜査も含めて認められていない(ファンとの私的なつながりは、事件への関与とイコールではない)。よって、運営会社のAKS社は12人を処分しにくい状況ではある。

 ファンの多くが期待するのはこの展開だが、現実的にはもっとも難しい選択だ。この12人との契約解除は、「事件に関わっていない」という理由で選択できない状況にある。もちろんローカルルールとして、過去には恋愛が発覚したメンバーを研究生に降格させたり、他グループに出向させたりするケースはあったので、是非はともかくそうした処分はありうるのかもしれない。ただ、調査報告書の段階で「不問にする」と発表し、山口さんなど3人が卒業したいま、AKS社がこの選択をすることは考えにくい。

■可能性3:運営権を売却して存続

 今回の一件は、AKS社のガバナンスが問われている。よって、NGT48の運営権を売却することでグループ自体の存続は、かなりクリアになると考えられる。

 ファンや関係者以外にはあまり知られていないが、6つあるAKB48グループでAKS社が運営しているのはAKB・HKT・NGTの3つだ。残るSKE・NMB・STUはべつの会社が運営しており、なかでもSKEは今年の3月にAKS社が運営権を売却したばかりだ。なので、現実的にありえない道ではない。それによって、この一件で明らかとなった杜撰な運営は改善され、現状のネガティブイメージも払拭できるだろう。

 現状、もっとも理想的なソフトランディングはこの道だろう。だが、そうしたホワイトナイト(白馬の騎士)が新潟に存在するかどうかはわからない。

■可能性4:解散

 現状もっとも可能性が高いのはこれだ。

 現在、ネットでは事件にかかわったメンバーの犯人探しと、“私刑”が横行している状況だ。なかにはメンバーを脅迫して逮捕された者もいる。こうしたことは、やはりあってはならない。それをいったん解除するには、解散がやはり現実的な策だろう。

 とは言え、この選択は加害者側やファンとの私的なつながりがなかったメンバーにもダメージとなるので、ちょっと可哀想でもある。

 以上のように考えられる可能性を示した。現在は1の状態にあるNGT48が、それを継続するか、3か4の道に進むかは今後の展開しだいとなるだろう。

不安視される残留メンバーの将来

 こうしたNGT48問題とは、一般的には芸能界という特殊な業界におけるドタバタとして捉えられている。事件内容も軽微なので、その点ではたしかに間違ってはいない。だが見方を変えると、これは若年者の搾取の問題と捉えられる。筆者が当初からもっとも問題視しているのはこの点だ。

 被害にあった山口真帆さんがグループから脱退の道を選ばざるを得なかった事態はもちろんのこと、その後混迷を深めた結果として、現在は残留する37人のメンバーの将来が不安視される。このうち12人は、第三者委員会の調査報告書でファンとの私的なつながりがあったと確認されているが、事件への関与は確認されていない。そして残る25人は、この一件にはまったく無関係だ。

 ファンの視点は、しばしば「ファンとの私的つながり」と「事件への関与」が混同されがちだが、前者は(AKB48アイドルの)文化的問題、後者は法的問題として明確に分ける必要がある。ローカルなルール(AKB48文化)とパブリックなルール(法律)は異なるからだ。

 筆者がいまとても危惧しているのは、ローカルルールでも問題化されない確実に“シロ”の25人のうち、山口さんの卒業公演でステージに立った5人と彼女を支援していたひとりを除く19人が、今後も疑いのまなざしを向け続けられることだ。

 NGT48に残留した37人(研究性も含む)のうち16人(43%)は、学齢的には高校生以下である。中学生も3人いる。なかには、AKB48のドラフト会議でNGT48に指名されて加入した者もいる。そんな彼女たちが、負のイメージを背負ってこれから芸能活動を続けていかなければならなくなる。10代半ばのちょっとした選択が、彼女たちの人生を大きく左右してしまう。それを「運が悪かった」とか「自己責任」で済ませるのは、明らかに大人として無責任だろう。

Twitterで燃料投入をする支配人

 筆者は、この件を取材する過程で多くのひととAKS社についての情報・意見交換をしている。前回の記事(「終わりが見えないNGT48問題」2019年5月18日)でも触れた人員不足は確実に指摘できるが、かならずしも悪い話ばかりが聞こえてくるわけではない。現場マネージャーのマスコミ対応は良く、私も昨年11月にAKS社のタレントにインタビューした際にそれは感じた。

 おそらく、早川支配人がTwitterを始めたのも強い善意からなるものだろう。メンバーたちが事件と無関係であると訴えたい気持ちは、よくわかる。証拠もなしに「疑わしきを罰する」ネット世論の“私刑”には、決して迎合してはならない。過熱するバッシングにも断固たる姿勢で臨むべきだろう。

 しかし、それはやはりTwitterごときで発信すべきことではない。マスコミからの取材を避け、説明責任をしっかり果たさず、一方的にツイートするだけで状況が改善されるわけはないからだ。むしろバッシングの燃料をどんどん投入しているだけになっている。同時に、そうしたAKS社の雑な姿勢が今回の事件を発生させたわけで、ガバナンスがろくに機能していないことがさらに明らかとなっている。

 そんなAKS社に言えることは、ひとつしかない。

 いい加減、ちゃんとやれ。

ジャーナリスト

まつたにそういちろう/1974年生まれ、広島市出身。専門は文化社会学、社会情報学。映画、音楽、テレビ、ファッション、スポーツ、社会現象、ネットなど、文化やメディアについて執筆。著書に『ギャルと不思議ちゃん論:女の子たちの三十年戦争』(2012年)、『SMAPはなぜ解散したのか』(2017年)、共著に『ポスト〈カワイイ〉の文化社会学』(2017年)、『文化社会学の視座』(2008年)、『どこか〈問題化〉される若者たち』(2008年)など。現在、NHKラジオ第1『Nらじ』にレギュラー出演中。中央大学大学院文学研究科社会情報学専攻博士後期課程単位取得退学。 trickflesh@gmail.com

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