Yahoo!ニュース

金と選手と因縁が行き交う中で始まる韓国と中国のサッカー戦争

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
キム・ヨングォンなど中国でプレーする韓国人選手は多い(写真:Maurizio Borsari/アフロ)

本日9月1日からスタートするロシアW杯のアジア最終予選。韓国はイラン、ウズベキスタン、中国、カタール、シリアが属するグループA組に振り分けられた。韓国はホームに中国代表を迎えて初戦を戦う。

その韓中戦を取材するためにソウルに来ているのだが、今回招集された韓国代表メンバーリストを見て改めて感じることがある。それは海外組の多さとその特長だ。23人中、20人が海外組。Kリーグでプレーする者は3人しかない。

海外組と言うと日本では欧州組というイメージがあるが、韓国の海外組はドイツ、イングランド、オーストリアなど多岐に渡る。そんななかで最も多い国はどこか。

数年前ならJリーグ勢が最多だったが、今や韓国代表の一大勢力となっているのは中国リーグ組だ。その数は5人にもなる。

韓国人選手の中国進出は今に始まったわけではない。かつてはアン・ジョンファン、ソン・ジョングッら2002年ワールドカップ・メンバーも晩年は中国でプレーしている。ただ、多くのファンたちが中国進出を“都落ち”と見る傾向が強かった。

ところが、今は違う。キム・ヨングォン(元大宮)、チャン・ヒョンス(元FC東京)、チョン・ウヨン(元神戸)などが、かつてパク・チソンが切り開いた“Jリーグ経由欧州行き”ではなく“Jリーグ経由中国行き”を選んでいるし、ホン・ジョンホなどはドイツから中国に渡っているのだ。韓国人選手の海外進出に対する考え方が大きく変わってきているようだ。

(参考記事:夢や挑戦よりも安定と実利を選ぶ“韓国サッカー海外進出“最新事情

韓国の著名なサッカージャーナリストであるハン・ジュン氏もこう語る。

「韓国のサッカー選手たちにとって、かつては欧州舞台に進出すること自体が最も大きな夢だった。ただ、今の世代は考えが変わった。欧州に挑戦できる技量を備えていても、中東や中国など高額年俸を保障するクラブを進んで選ぶようになった」

韓国のサッカー記者やファンたちの間では、こうした状況をどこか寂しく見ているところもある。実利を追求するのは良いが、サッカー選手として頂点を目指してほしいという心理が働くのだろう。今季から欧州に渡った宇佐美貴史や浅野拓磨に韓国メディアが注目するのも、安定よりも挑戦を選ぶ姿が眩しく映るからかもしれない。

(参考記事:宇佐美貴史と浅野拓磨の欧州進出を韓国人記者はどう評価しているのか

しかも、中国に靡いているのは選手だけではない。元韓国代表コーチのパク・テハ監督が延辺富徳、かつて大宮アルディージャを率いたチャン・ウェリョン監督が重慶力帆、中国通で知られるイ・ジャンス監督が長春亜泰、そしてロンドン五輪で銅メダルに導きブラジル・ワールドカップでも韓国代表を率いたホン・ミョンボ監督が杭州緑城を指揮している。今年6月にはFCソウルのチェ・ヨンス監督が、推定年俸350万ドルという破格の条件でシーズン途中ながら江蘇蘇寧に引き抜かれた。選手だけではなく、監督やコーチまで中国に渡っているのだ。

(参考記事:“爆買い”中国マネーに侵食される韓国サッカー。「Kリーグ・エクソダス(大脱出)」の前兆か!?

こうした中で韓国は中国代表とワールドカップ最終予選を戦う。韓国と中国の過去の対戦成績は韓国の17勝1敗12分けで、韓国メディアの多くが「中国には“恐韓症”がある」とするが、昨今の中国サッカーの急成長を考えると韓国とて油断はできないだろう。

韓国代表のウリ・シュティーリケ監督も8月だけで3度も中国リーグ視察を行ったほど準備も徹底してきたという。韓国メディアは中国リーグでプレーする5人を“知中派”と呼び、対中国対策へのキーマンに上げているが、はたして…。

いずれにしても、今日から始まるロシアW杯への出場権獲得を目指した戦いは韓国と中国はもちろん、日本やアジア全体を熱くさせるだろう。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

慎武宏の最近の記事