Yahoo!ニュース

米朝軍事衝突は避けられないか!

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
何を考える?金正恩委員長とトランプ大統領

北朝鮮が今朝(29日)、西部の平安南道・北倉周辺から北東に向けて弾道ミサイルを発射したが、失敗したようだ。 

発射地点の平安南道からは過去には2015年3月に南浦からスッカドCが2発、そして昨年も3月に粛川からノドンが2発発射されている。

ノドンは午前5時55分に発射された1発目が朝鮮半島を横断し、800km飛び、日本の防空識別区域(JADIZ)内に落下している。午前6時17分に発射されたもう1発は17km上空でレーダーから消えたため空中爆破の可能性が指摘されていた。一日に2発発射されていることから今後もう一発発射されるかどうか注目される。

発射されたミサイルの種類はまだ正確にはわかってないが、今年2月に成功したSLBM(潜水艦弾道ミサイル)の地上改良型「北星2型」か、3月に日本の排他的経済水域に3発着水したスカッド改良型ER、もしくは準中距離弾道ミサイルIRBMの可能性が指摘されている。 

米政府関係者は失敗したミサイルは中距離弾道ミサイル「KN-17」と推定しているが、「KN-17」は液体燃料を使う1段式の新型対艦ミサイル(ASBM)と言われている。「KN-17」ならば、北朝鮮は3月22日、4月5日、4月16日にも3回立て続けに発射して、いずれも失敗している。

「KN-17」のこれまでの発射場所は日本海に面した咸鏡南道・新浦だった。日本海に面した東部での発射は失敗しても海に落下するため試験ケースが多いが、西部からの北東に向けての発射は陸を横断するので相当な自信がなければ発射できない。それが今回も失敗したということになる。

北朝鮮は米原子力空母「カールヴィンン」を一発で撃沈、水葬すると威嚇しているが、仮にこの「KN-17」が北朝鮮版「空母キラー」だとしても、北朝鮮はまだ開発に成功していないことになる。ということはまだ実戦配備できる段階にはないということだ。

今回のミサイル発射がこれまでになく深刻なのは、ティラーソン米国務長官が国連安保理15か国の閣僚(外相)会議を主導し、北朝鮮の核とミサイル開発を止めるため国際協調を呼びかけた直後に行われたことだ。国連安保理が圧力、制裁を強めようが、北朝鮮は今後もミサイル開発の継続を宣言したことに等しい。また、米原子力空母「カールヴィンソン」が朝鮮半島近海に接近したタイミングに合わせて発射していることから米軍の軍事的圧力にも屈しないとの意思表示であることも明白だ。

トランプ大統領もティラーソン国務長官も北朝鮮の核・ミサイル問題を一義的には平和的に外交的に解決する方針を掲げている。国連安保理に協調を求めたのもそのためである。

(参考資料:「1994年の米朝開戦危機」はどうやって回避されたのか? カーター元大統領の「訪朝報告」

トランプ政権は平和的に外交的に解決するには何よりも核とミサイル開発に執着する金正恩政権に核とミサイルを放棄しなければ、北朝鮮の安全保障も経済も将来も担保されないことを痛感させるため国際社会が一丸となって制裁と圧力を強化する必要があると北朝鮮の友好国である中国をはじめ各国に協力を呼び掛けている。そして、北朝鮮が考えを改めるならば、即ち非核化に応じるならば、米朝であれ、6か国協議であれ、話し合いの場を設けて、北朝鮮と交渉の用意があるというのがトランプ政権の対北政策の基調である。

換言するならば、北朝鮮を国際的に包囲し、兵糧攻めにして、弱体化させ、最後は白旗を上げ、降伏させるのが狙いのようだ。仮に北朝鮮が抵抗して、米国のレッドラインであるICBMを発射した場合は躊躇うことなく軍事力を行使する構えだ。米中首脳会談も、ホワイトハウスでの米上院議員全員への異例のブリーフィングも、国連安保理理事国閣僚会議の招集もそのための布石でもある。

(参考資料:北朝鮮に対する米軍の先制攻撃はいつでも可能な状態

要は、北朝鮮が核とミサイルの鎧を脱がない限り対話には一切応じない→北朝鮮を武装解除させるため外圧と制裁を徹底的に強め、北朝鮮をギブアップさせる→それでも抵抗し、ミサイル発射や核実験を強行するならば、軍事力で決着を付けるというのがトランプ陣営の戦術ある。

一方の北朝鮮はどうか?

トランプ政権の本気度を見せつけられても軍事パレードを行い、「全面戦争には全面戦争で、核戦争には核戦争で応じる」と強弁し、対抗手段として過去最大の砲撃訓練を実施し、さらに国連決議違反である弾道ミサイルをおかまいなしに発射したりしているところをみると、一歩も引き下がる気配はない。平和的、外交的解決が容易でないことがわかる。

米国にレッドラインがあるならば、北朝鮮にもレッドラインがある。北朝鮮にとってのレッドラインは「人民の生存権」と「国家の自主権」のようだ。兵糧攻めは人民の生存権を脅かし、核とミサイルの放棄要求は国家の主権である自主権と自衛権の侵害と北朝鮮は捉えている。「自主権を失った国家と民族は生きていても、死んだも同然だ」というのが口癖ならば、兵糧攻めであれ、軍事力行使であれ、座して死を待つよりも、余力のある段階で乾坤一擲打って出るかもしれない。

核は「民族の生命であり、国家の宝である」と考えている北朝鮮にそれに見合うだけの見返りや代償なしで放棄させるのは至難の業である。

トランプ大統領はロイターとのインタビュー(27日)で北朝鮮と「大きな紛争になる可能性がある」と語っていたが、核の武装解除を求める米国と核保有の認知を求める北朝鮮の立場は水と油で、現状では軍事衝突は避けられそうにもない。

(参考資料:衝撃の米国の対北朝鮮開戦シナリオ 

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

「辺真一のマル秘レポート」

税込550円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

テレビ、ラジオ、新聞、雑誌ではなかなか語ることのできない日本を取り巻く国際情勢、特に日中、日露、日韓、日朝関係を軸とするアジア情勢、さらには朝鮮半島の動向に関する知られざる情報を提供し、かつ日本の安全、平和の観点から論じます。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

辺真一の最近の記事