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「G5+日米」安倍首相はトランプに寄り添った 貿易戦争で割れるG7を写しだしたメルケルのインスタ

木村正人在英国際ジャーナリスト
雄弁にG7の状況を物語るメルケル独首相のインスタグラム(首相のアカウントより)

「米国はカモられる貯金箱」

[ロンドン発]カナダのシャルルボワで6月8、9の両日、開かれた先進7カ国(G7)首脳会議(サミット)を早めに切り上げ、米朝首脳会談の開催地シンガポールに向かったドナルド・トランプ大統領は記者会見で「わが国は皆からカモられる貯金箱みたいだ。これに終止符を打つ」と言い放ちました。

「関税なし、障壁なし、補助金もなしだ。カナダを見てみろ。我々は非常に高い関税を支払っている。270%という関税もある」

トランプ大統領はツイッターでも「カナダは牛乳に270%もの関税をかけている」と批判、このため米国の農家はカナダに牛乳を輸出するのが難しくなっていると指摘していました。

「わが国は他国に対し、米国の輸出品に公正な市場のアクセスを提供するよう求めるし、そうなることを期待している。米国の産業と労働者を本当に多くの不公正な貿易慣行から守るために必要なステップをとる」

「他国の指導者を非難しているのではなく、過去のわが国の指導者を批判しているのだ。膨大な貿易赤字を抱えている現状を招くべきだった理由は存在しない」

「最新の数字は8170億ドルの赤字だ。馬鹿げているし、受け入れられない」

雄弁なメルケルのインスタ

トランプ大統領は記者会見で「大成功」と胸を張りましたが、実際はどうだったのでしょう。ドイツのアンゲラ・メルケル首相がインスタグラムに投稿した1枚の写真がG7の対立状況を如実に物語っています。

公式アジェンダの合間を縫って行われた2日目の鳩首会議の様子です。

写真の中に写っている人物を確認しておきましょう。

メルケル首相のインスタグラムに投稿された写真を筆者加工
メルケル首相のインスタグラムに投稿された写真を筆者加工

(1)ドナルド・トランプ米大統領

(2)ジョン・ボルトン米国家安全保障担当大統領補佐官

(3)山崎和之外務審議官(経済担当)

(4)安倍晋三首相

(5)西村康稔内閣官房副長官

(6)アンゲラ・メルケル独首相

(7)エマニュエル・マクロン仏大統領

(8)テリーザ・メイ英首相

(9)ラリー・クドロー米国家経済会議(NEC)委員長

非常に興味深い写真です。安倍首相はトランプ大統領の横に陣取り、同じように腕組みしています。安倍首相の両脇に山崎和之外務審議官(経済担当)と西村康稔内閣官房副長官(筆者は直接お目にかかったことがないので100%自信はありませんが、おそらく間違いありません)。

これに対して、ドイツのアンゲラ・メルケル首相とフランスのエマニュエル・マクロン大統領がテーブルに手をついて、トランプ大統領に何かを強く訴えています。一方、トランプ大統領は木で鼻をくくったような表情をしています。

欧州連合(EU)から離脱していく英国のテリーザ・メイ首相は遠慮がちにメルケル首相とマクロン大統領の後ろからのぞき込んでいます。

貿易交渉を取り仕切っているのはラリー・クドロー米国家経済会議(NEC)委員長ですが、トランプ大統領のすぐそばには、国際法と国際機関を全く信用していないジョン・ボルトン米国家安全保障担当大統領補佐官が控えています。

安倍首相は日米同盟の結束を強調

日本は米国の貿易赤字解消と防衛力強化のため最先端のステルス戦闘機F35や無人偵察機RQ4グローバルホークの調達を進めています。トランプ大統領の「バイ・アメリカン(米国製品を買え)」に応じた安倍首相は北朝鮮に核放棄を迫る米朝首脳会談を控え、日米同盟の結束を強調しました。

実際問題、米国の貿易赤字は尋常でないレベルまで膨れ上がっています。このまま放置すると新たな金融危機、経済危機を招く恐れがあります。

下のグラフは米国勢調査局のデータから米国の貿易赤字の推移を示したものです。ベルリンの壁崩壊後、米国の貿易赤字が一気に増大したことが分かります。

画像

米国が貿易赤字になる理由はいくつもあります。

(1)国内総生産(GDP)の7割を消費が占める消費大国

(2)基軸通貨のドルは通貨高になりやすく、輸入を促進

(3)生産コストが高いため製造業の競争力が低下、輸入依存が高まる

(4)人口増と経済発展が続いているため、投資が旺盛

(5)低賃金だった中国から大量の輸入品が入ってきた

(6)北米自由貿易協定(NAFTA)で生産拠点がメキシコやカナダに移転

米国のシェールガス開発で原油輸入が劇的に減ったにもかかわらず、貿易赤字が減る気配は全く感じられません。鉄鋼・アルミニウムへの輸入関税措置を発動したトランプ大統領が危機感を抱くのも無理からぬことなのです。

「貿易戦争」は回避できるか

「世界の工場」は英国から米国へ、そして日本、次に中国に移り、貿易赤字は長期的にはドルの大幅な減価によって解消されるでしょう。それはドルが唯一の基軸通貨ではなくなることを意味しています。

中・短期的には、関税が報復関税を呼ぶ「貿易戦争」に突入すれば世界貿易に大きなブレーキがかかり、縮小に転じる恐れがあります。

日本やドイツの貿易黒字には、投資が減り、貯蓄が増える少子高齢化が密接に関係しているとはいうものの、自動車にかかる関税だけを見てみても米国は2.5%、EUは10%と大きな開きがあります。

「貿易戦争」を防ぐには、メルケル首相もマクロン大統領もトランプ大統領を非難するだけでなく、域外関税の引き下げや補助金廃止によってEUの市場開放を進めるとともに、買える米国製品を見つけて買ってやる必要があるのは言うまでもありません。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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