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奪う目をした大人たち

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
(写真:アフロ)

2018年6月12日、専修大学商学部で「マーケティングを学ぶ学生として“食品ロス”についてどう考えるか」の講義を114名に行なった。感想を書いてもらったところ、ある大学生が「奪う目」について指摘した。

技術と同じで、豊かになればなるほど、何のために始めた活動か?というのを忘れてしまうのが人間の無責任なところだと考えます。

豊かになりたくて改良を重ねたのに、いつの間にか気にしているのは他社との競争関係。

そんな奪う目をしているから、世界的な問題に発展するのだと思います。

食品の1/3が捨てられているなんて、私は平和ボケした日本人だからこそやってしまっている失態だと考えます。

出典:専修大学商学部で講義後に提出された感想文より引用

専修大学商学部での講義風景(専修大学商学研究科 商学専攻 山崎万緋氏撮影)
専修大学商学部での講義風景(専修大学商学研究科 商学専攻 山崎万緋氏撮影)

「奪う目」という表現に目を惹かれた。

「奪い合うと足りない・・・」といった表現を聞いたことがある。

と思ったら、書籍名だった(『うばい合えば足らぬ わけ合えばあまる』相田みつを著)。

強者と弱者の関係性や「奪う」という観点から感想を書いている学生が他にもいるかどうか、受講者114名のうち提出された110名の感想文を、改めてすべて目を通してみた。以下、引用文章については全て原文のままである。

欠品を起こすと小売がメーカーとの契約を「奪う」可能性がある

次の意見はバイイングパワー(販売力)を持つ小売と、彼らの指示に従う立場のメーカーとの構造について語っている。メーカーは、欠品を起こしたら、売上を失わせたことに対するお金(補償金)を払う、もしくは契約を解除される(関係性を奪われる)可能性がある。

ハンバーガーを作るのに3000L必要な事や、1日の1人あたりの食品排気量(筆者注:廃棄量)が139gといった数字による知識が分かりやすくて興味深かった。最も驚いたのはスーパーで在庫を無くしたら罰金やペナルティがあるという事。機会ロスに対してそういった罰を設けるのは正しいとは思えない。常に何千もの商品が並ぶスーパーで、毎日充分な在庫を確保することは罰を設ける程の価値があるのか。そういった環境で育った現在の消費者は、在庫があるのは当たり前で在庫切れは小売側の落ち度であると考えている。つまり、現在の日本の消費者は“贅沢”なのだ。自分が贅沢ではないと気が付いていない贅沢者が溢れかえっている日本で、食品ロスを浸透させるにはかなりの年月と労力が必要だと考えられる。消費者が食品ロスの現状と自己の日常を重ね合わせ、行動に移す。そういった取り組みを念密に考え、行わなければならない。

出典:専修大学商学部の講義、感想文

専修大学商学部での講義風景(専修大学商学研究科 商学専攻 山崎万緋氏撮影)
専修大学商学部での講義風景(専修大学商学研究科 商学専攻 山崎万緋氏撮影)

フランチャイズチェーンの本部が店舗の決定権を「奪う」

こちらは、おそらくフランチャイズチェーンの本部が販売数のノルマを課すため、店舗側が指示に従わなくてはならず、食品ロスが発生することについて。本部が売上を上げるため、店の(数量の)決定権を奪っている、とも言える。

普段自分はアルバイト先で食品の廃棄をよくしているのですが、特にそれに対する感情は特になかった。今日の講義を聞いてあの食品たちは安全係数をかけられているので、もう食べられないわけではないと聞いてとても罪悪感が湧いてきた。自分のアルバイト先は店長が商品を発注するのではなく、本部が発注して「これだけ売れ」とノルマを課してくるのだと以前社員さんに聞いたことがある。だから、売り切れなくてロスが出てしまう。これはとてももったいないことだと思う。自分は会社に意見できる立場ではないので言えませんが、改善していけば良いと思った。

出典:専修大学商学部の講義、感想文

専修大学商学部での講義風景(専修大学商学研究科 商学専攻 山崎万緋氏撮影)
専修大学商学部での講義風景(専修大学商学研究科 商学専攻 山崎万緋氏撮影)

適切な販売量の決定権を店舗から「奪う」本部

こちらはコンビニエンスストアに関して。「欠品は最も良くない」と言われ、多めに揃えておくため、廃棄が出る。適切な販売量は、その店で働く人たちが実感として持っていると思うが、彼らの決定権はここでも奪われている。

私自身コンビニでアルバイトをしており非常にたくさんの廃棄を見てきました。一人暮らしと言うこともあり、自分で買った食べ物などは極力捨てないようにはしています。あと、どうせ捨てるものならと考え廃棄を持って帰ったりもしています。フライヤーなども、1番廃棄が頻繁にあるので極力廃棄が出ないように、作り過ぎず少な過ぎずを目指して頑張っています。しかし、欠品させるのは最も良くないと言われているので、多少の廃棄が出てしまうところをその廃棄の後の処理が問題なのではないかなぁと感じました。

出典:専修大学商学部の講義、感想文

コンビニで販売期限が切れた食品の一例(筆者撮影)
コンビニで販売期限が切れた食品の一例(筆者撮影)

社会的弱者や未来の世代から食べる権利を「奪う」私たち

次の意見は海洋資源の枯渇について。東京海洋大学准教授の勝川先生の言葉を引いて、自分だけがよしとするのでなく、社会的弱者や次の世代から食べる権利を奪わないことについて述べている。

「自分が消費することで、弱者や未来の人の(食べる)権利を奪わない」という東京海洋大学の教授の言葉をきいて私たち消費者が今できること、例えば食べれる量しか買わないことや、 消費期限をみてものを買ったりなど小さいことしかできないけれど、一人一人が意識していけば徐々に結果になって行くのではないかと思った。

ありがとうございました。

出典:専修大学商学部の講義、感想文

専修大学商学部での講義風景(専修大学商学研究科 商学専攻 山崎万緋氏撮影)
専修大学商学部での講義風景(専修大学商学研究科 商学専攻 山崎万緋氏撮影)

動物の命を「奪い」捨てる私たち

こちらは動物の命を人間が奪うことについて。

食品は、作るのも加工するのにもお金がかかるし、それと共に人間のために犠牲になっている動物がたくさんいるのに、ほとんど捨てていると考えるとなんて無駄なんだろうと思いました。

出典:専修大学商学部の講義、感想文

フィリピンのお祝いで食べられる豚の丸焼き(筆者撮影)
フィリピンのお祝いで食べられる豚の丸焼き(筆者撮影)

生活困窮者から食べるものを「奪う」人たち

絶滅危惧種であるニホンウナギの資源の枯渇と、世界の貧困者から食べ物を奪うことについて。

食品ロスの現状がこんなにも酷いものだとは思わなかった。絶滅危惧種のうなぎも丑の日に合わせて作られるがその多くが捨てられていると言うニュースを見たことがあるが、もったいないの一言である。捨てている量が多いのに、世界では貧困に苦しんでいる人がいるというのも納得がいかない。海外に賞味期限切れの物しか出さないレストランがあることに驚いた。自分自身そこまで賞味期限に敏感な方ではないし、切れていても食べられると思っている派である。自分たちでできることは食べ物を残さないことが一番だと思う。出されたものは全て食べるという当たり前のことを当たり前にできるように、これから過ごしていきたい。

出典:専修大学商学部の講義、感想文

規格外など「もったいない」魚を活かして美味しく提供する居酒屋「魚治(うおはる)」の魚(筆者撮影)
規格外など「もったいない」魚を活かして美味しく提供する居酒屋「魚治(うおはる)」の魚(筆者撮影)

企業が消費者の思考力を「奪う」?

企業が消費者に買わせるためのサイクルを作っているのではないか、という意見。

講演を聞き、食品に対しての考えを改めようと思った。

自分が当たりだと思っている、食の扱い方は無知であることを知り、無駄使いが当たり前になっていると思いました。

アルバイト先での、勿体ないと思っていたロス食品は日本でみれば、家庭のロス排出量の方が多いという驚きを受けました。

この問題がある中で、企業側は商品を買ってもらい消費しまた買ってもらうために、賞味期限、消費期限を小さく表記していることも問題だと思った。

消費者に敢えて買わせる様なサイクルを作っていること、食品ロスを企業、消費者がベクトルが同じではないことが原因だと思った。

出典:専修大学商学部の講義、感想文

専修大学商学部での講義風景(専修大学商学研究科 商学専攻 山崎万緋氏撮影)
専修大学商学部での講義風景(専修大学商学研究科 商学専攻 山崎万緋氏撮影)

「奪う」の逆、「与える」について

「奪う」の逆、「与える」ことについて書いた学生もいた。

今の日本の若い世代が食品ロスを感じないのは生まれた時からある程度は恵まれているからだと思います。けど、それを理由にして食品ロスについて知らないといいはるのではなく、恵まれた環境の人が頭を使ってどうしたら食品ロスを減らせるのか取り組む事が大事かなと思います。もし、日本で本格的に食品ロスを減らす対策をするのであれば、今後の子達が絶対食品ロスの事を知らないことがないように、小学校、中学校での教育が必要なんじゃないかなと思いました。日本の歴史を学ぶのも大切ですが、日本の現状を知り悪化させず、良くしていくことが、全てに繋がるのではないのかなと思います。

考えて行動していく人が増えれば良い世の中になり食品ロスも減るんではないでしょうか。そして、私も小さい事から変えていこうと思いました。当たり前にある食べものに当たり前と思わず感謝したいと思いました。食べる事は幸せです。なので世界のみんなもそうなると幸せだと思います。

出典:専修大学商学部の講義、感想文

私はコンビニでバイトをしていた時に賞味期限切れの食料が毎日必ず廃棄処分されていたのを目の当たりにしてきました。捨てる度に勿体ないなと思っていたし、これを恵まれない子供たちにあげられたらなと何回も思いました。でも世界的、全国的に見ると想像以上に食品ロスが出ていて驚いた。

出典:専修大学商学部の講義、感想文

最近テレビでフードシェアリングの取り組みとして、TABETEというサービスがあることや子ども食堂への寄付が行われているというニュースをみました。この取り組みのように、供給する側と供給される側の両方にメリットがあることで、食品ロス削減の考えが浸透していけたらと思いました。

出典:専修大学商学部の講義、感想文

このロスをどうにか貧困地域に回すことができないのかと思いました。それをすることでゴミも減り貧困地域では栄養失調の子が減るのではないかと思いました。

出典:専修大学商学部の講義、感想文

規格外のオクラを食べてもらうために持って行った、フィリピンのアエタ族の子どもたち(筆者撮影)
規格外のオクラを食べてもらうために持って行った、フィリピンのアエタ族の子どもたち(筆者撮影)

昆虫の食料はインパクトがありました。余っているところから足りないところへいかに届けるかや、まず余らせないことが大切だなと思いました。自分ができることを実行して行きたいと思いました。

出典:専修大学商学部の講義、感想文

今回の食品ロスについての講義を聞いて、日本や世界の現在の食品ロスをしている量やそれを無くすための方策について理解することが出来ました。ただ、本当の意味で食品ロスをゼロにする事は不可能だと自分は思いました。その理由は食品ロスの方策がビジネスとして成立し、利益を生みださなければ企業や会社が実際に活動しいと思ったからです。例えば、スーパーや飲食店などが廃棄商品の無料提供をしてしまえば、コンビニが値引き販売をしないように、その廃棄商品を狙う顧客が増えてしまい、商品としての価値が下がってしまうからです。今回の講義の例で挙げられた、元気寿司のように食品ロスを無くすことによって利益が出なければ会社側としても続けることが損になってしまいやらなくなるでしょう。そのため、本当の意味で食品ロスを無くす為には、企業、消費者相互がwin-winな関係が出来るようなシステムが完璧に成立しなければゼロにはならないと思います。

出典:専修大学商学部の講義、感想文

福島県へ送る支援物資の仕分け作業をする筆者(2011年4月、知人撮影)
福島県へ送る支援物資の仕分け作業をする筆者(2011年4月、知人撮影)

私は福島県出身で震災や原発事故を直に経験しており、数年前の食べ物が手に入らなかったあの時期をふと思い出しました。水も手に入らない、お店から食べ物が消える、畑はあってもそこで育った食品に手をつけられない、といったあの日々がありました。当時まだ中学生でしたが、食べ物への有り難みが生まれた瞬間でした。なのでこの経験の記憶と今回の井出さんのお話で、今一度食べ物への考えが私の中で変わった気がします。小さなことですが、自分自身の食べ物を極力残さない、割引商品を積極的に買うなど小さなことから意識しようと思います。

出典:専修大学商学部の講義、感想文

以上、110名の感想文から、奪う・与えるの観点に関連するものを挙げてみた。

もう一度、冒頭の学生の意見を繰り返す。

『豊かになりたくて改良を重ねたのに、いつの間にか気にしているのは他社との競争関係。』

『そんな奪う目をしているから、世界的な問題に発展するのだと思います。』

大学生の指摘を真摯に受け止めたい。

参考記事:

「もうやめて新商品」バイトの女子大生が見たファストフード店の裏側

「ウェディングケーキ捨てた」コンビニや飲食店で捨てられる食べ物の実態 バイトの大学生101名に聞いた

食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

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