解説一審で有罪でも検察にとって控訴の判断に傾きやすかったのは、遺族の懸命な署名活動による後押しに加え、いままさに法務省が危険運転致死傷罪の成立要件を緩和する方向で議論を進めているところであり、今後の同種事件に対する刑事処分の指針となるような重要な判例になる事案といえるからでしょう。 検察がいったんは石橋を叩いて過失運転致死罪での起訴にとどめたものの、(1)「制御困難な高速度運転」に加え、(2)右折車を妨害する目的で危険な速度で接近したという「妨害運転」にもあたるとして、二重の意味で危険運転致死罪が成立するという主張に転じ、異例の訴因変更に及んだのに対し、地裁ですら少なくとも(1)を認めた上で危険運転致死罪にあたると判断しました。 あともう一押しの立証によって、(2)の認定に加え、事案の実態に即したより重い量刑を得られる可能性が高いと考えられる点も、控訴の判断に影響を与えたものと思われます。
コメンテータープロフィール
1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。