香り付き柔軟剤の「香害」で吐き気や頭痛 医師への相談が増加
柔軟剤や合成洗剤のにおいで体調が悪くなる「香害」が近年、注目されている。当事者や消費者団体が問題視するのが香りを微小な「マイクロカプセル」に包んで長続きさせる製法だ。安全性を確認しているとするメーカーに対し、「香害」拡大の要因だとして使用中止を訴え、各地でパネル展を開くなど被害を周囲の人に知ってもらう取り組みにも力を入れている。 室内に入ってきた「香り」を外に出すためサーキュレーターを備える女性 広島市中区のアルバイト女性(60)は5年ほど前から香害に苦しむ。隣人が使う柔軟剤や洗剤のにおいで不調に陥った。2年前には洗濯物を取り入れるためベランダに出た際に意識を失い、化学物質過敏症(CS)と診断された。 今年7月に引っ越したが、近所の洗濯物や街ですれ違う人のにおいが耐えられない。職場でも客のにおいで吐き気を感じ、仕事を減らさざるを得なくなった。 香り付き柔軟剤は2000年代後半以降、ブームとなった。店頭には香りを重視する商品が多く並ぶ。23年の柔軟剤の販売金額は1216億円と15年前の2倍となった。 一方で、全国の消費生活センターへのにおいに関する相談は23年度、317件に上り、そのうち約7割が危害を受けたと申し出た。女性は「多くの人が使うからこそ被害を理解されにくい。逆に好みの問題とか、頭がおかしいとか言われる」と声を落とす。 消費者団体などでつくる「香害をなくす連絡会」や当事者の会「カナリア・ネットワーク全国」は、マイクロカプセルの使用が症状の悪化などを引き起こしていると主張する。 香料を包むカプセルは摩擦や熱により時間差で破れ、香りが持続する仕組み。カプセルがプラスチックの場合は人体への悪影響や環境汚染も懸念する。昨年1月には、約9千人の署名とともにメーカーにマイクロカプセルなどの使用中止を求めた。 実際、柔軟剤は多量のカプセルを含んでいるとの研究結果がある。早稲田大は、柔軟剤5ミリリットル中に約100万個あり、洗濯すると8割は排水に流れ、2割が服や室内に残ると推計。部屋干しすると服に付着したカプセルは床に落ちて減ったが、水洗いと比べると、欧州連合(EU)が規制するアレルゲン物質も含め、多くの種類と量の化学物質を検出したという。 同大の大河内博教授(環境化学)は「原因物質が明確な公害などと違い、微量で発症するCSは因果関係を明確にするのが難しい。現代は多くの化学物質にあふれ、例え低濃度でも、複合的な影響で発症することもありうる」と指摘する。 微小なプラスチックのカプセルは環境汚染が問題となる中、規制が強まっており、メーカーも対応を迫られる。EUは23年、分解されにくいマイクロプラスチックを加えた製品を将来的に販売禁止にする方針を決めた。 P&G、花王、ライオンの各メーカーは、カプセルの材質を明らかにしていないが、法令などを順守した上で一部製品で使っているとし「安全性や環境への影響に配慮している」などと説明。香りの感じ方には個人差があるとして使用の際には周囲への配慮も呼びかける。一方、消費者団体などは、カプセルが分解されやすい素材になっても、香りを持続させる製法をやめなければ香害はなくならないと訴える。 CS専門外来がある国立病院機構高知病院(高知市)の小倉英郎医師は、香害で体調を崩す人の相談は増えているとし「CSは誰がいつ発症するか分からず、化学物質を長く浴びるほど可能性は高まる。柔軟剤などの香り付き製品が売れるのは、それを望む消費者がいるから。まずは香りで苦しむ人がいると知ってほしい」と呼びかける。
中国新聞社