解説被害者からすると転売先から時計を取り戻したいと思うでしょうが、民法には「即時取得」と呼ばれる強力な規定があります。時計のような「動産」について「平穏」かつ「公然」にその支配を始めた者が「善意」で「無過失」であれば、直ちにその所有権を取得するというものです。被害品だと知らず、その点に過失もなければ、時計を買い取った者の所有物となります。 民法には被害者保護のための規定もあり、善意の第三者に対してであっても、被害から2年間に限って回復請求ができるものの、被害者には購入代金分を負担する義務がある上、盗品のほか、落とし物や忘れ物などの遺失物に限られ、だまし取られた詐取品や横流しされた横領品には適用されません。 そこで、だまし取ったり、横領したりした犯人に対して損害賠償を請求するほかないということになるので、こうした事件の捜査では、犯人の「隠し資産」の発見、押収が重要となるわけです。
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コメンテータープロフィール
1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。