見解詐欺罪の成立には、被害者を欺く意思の存在が必要ですが、証拠で立証するには、困難を伴うことも多いです。本件では、時計を預かった段階では事業を行う意思があった、という弁解を突き崩す必要があります。 同じことは、6年前のレンタル袴に関する「はれのひ」の事件でもありました。1年以上前に袴の予約を受け代金を受け取った時点で、1年後に袴をレンタルしないという意思(欺く意思)がなければ、被害者に対する詐欺罪は成立しません。 この事件では、会社の経営状態が危ないのに粉飾決算の書類を銀行に示して融資金を受けたという、銀行に対する詐欺罪で有罪とするのがやっとでした。 本件でも、客から預かった時計を勝手に売却した業務上横領罪での指名手配になっているのは、そのためです。 ただ、本件ではインターネットを使った新たな犯罪枠組みである、という性質もあるため、身柄の日本への引渡し、実態解明の必要性は高いといえます。
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コメンテータープロフィール
1969年愛知県生まれ。東京都立大学法学部卒業、博士(法学・東京都立大学)。専門は刑事法。近年は情報法や医事法にも研究対象を拡げている。著書として『放火罪の理論』(東京大学出版会・2004年)、『防犯カメラと刑事手続』(弘文堂・2012年)、『現代社会と実質的刑事法論』(成文堂・2023年)、『アメリカ刑法』(訳・レクシスネクシス・ジャパン・2008年)など。
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