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なぜ今「仮装身分捜査」なのか 「だまされたふり作戦」から「雇われたふり作戦」への転換のワケ #専門家のまとめ

多田文明詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト
(写真:イメージマート)

政府は、闇バイト募集による強盗や詐欺事件が多発する状況を受けて、ようやく「仮装身分捜査」の実施を早期に行うことを決定しました。捜査員が身分を隠して闇バイトの応募者になりきり、犯罪グループに接触する「雇われたふり作戦」に、一定の犯罪抑止の効果があると見込まれています。警察による「だまされたふり作戦」から、なぜ今、この捜査方法への転換が必要なのでしょうか。当時から特殊詐欺対策を見続けてきた観点から解説します。

ココがポイント

「闇バイト」が絡んだ強盗などの事件防止に向けた緊急対策を決定した(中略)「仮装身分捜査」の早期の実施を明記
出典:毎日新聞 2024/12/17(火)

10代の姉と弟が「闇バイト詐欺」に勧誘するリクルーター役(中略)辞退しようとすると、「損害賠償を請求する」と脅迫された
出典:読売新聞オンライン 2024/12/17(火)

暴力団が特殊詐欺などの資金獲得活動(中略)「匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)」を活用しているとみて全容解明を進める
出典:読売新聞オンライン 2024/12/17(火)

東京・狛江市で当時90歳の女性が死亡した強盗致死事件(中略)東京地裁立川支部は16日、加藤被告に求刑通り無期懲役の判決
出典:日テレNEWS NNN 2024/12/16(月)

エキスパートの補足・見解

2009年頃から「だまされたふり作戦」という、市民に被害者のフリをしてもらい家にお金を取りにきた「受け子」を警察が捕まえる手法が始まりました。これは犯罪者側からのアプローチを待つという受け身の作戦です。それに対して「雇われたふり作戦」は、捜査員が身分を隠して犯罪グループに近づく、犯人逮捕に向けた積極的な手法になります。犯罪グループの側も捜査員かもしれないと疑心暗鬼になり、闇バイト募集もしづらくなるはずです。

だまされたふり作戦が始まった頃も市民の安全をどう守るのかが懸念されましたが、お金をだまし取ることを目的にした詐欺グループゆえに、身に危険が及ぶ可能性は少ないと考えられました。

しかしこのところ組織的強盗グループによる殺人事件も起きて、詐欺などの電話がかかってきた人の情報が知られることで、身の危険もありうる非常事態となり、新たな捜査手法が求められていました。そのなかで被害者ではなく加害者のフリをする作戦の必要性が出てきたわけです。2009年と同じように、応募者になりすました「捜査員」の身の安全をいかに守るのかなど、実効性ある仮装身分捜査に向けて詰めていくべき課題は多くあります。

詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト

2001年~02年まで、誘われたらついていく雑誌連載を担当。潜入は100ヶ所以上。20年の取材経験から、あらゆる詐欺・悪質商法の実態に精通。「ついていったらこうなった」(彩図社)は番組化し、特番で第8弾まで放送。多数のテレビ番組に出演している。 旧統一教会の元信者だった経験をもとに、教団の問題だけでなく世の中で行われる騙しの手口をいち早く見抜き、被害防止のための講演、講座も行う。2017年~2018年に消費者庁「若者の消費者被害の心理的要因からの分析に係る検討会」の委員を務める。近著に『信じる者は、ダマされる。~元統一教会信者だから書けた「マインドコントロール」の手口』(清談社Publico)

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