『今際の国のアリス』2期で義足でアクションに挑んだ恒松祐里 「本番で極限になると急に体が動きました」
Netflixでまたも世界的ヒットとなった『今際の国のアリス』のシーズン2。異世界の東京で生きるか死ぬかの理不尽な“げぇむ”が繰り広げられる中、新キャラクターの1人で恒松祐里が出演している。義足で弓矢を武器に戦い、生き残るためには手段を選ばない女子高生・ヘイヤ役で、激しいアクションにも挑戦。一方、11日スタートのドラマ『リバーサルオーケストラ』では社交的で明るい女子大生に。『全裸監督 シーズン2』や『おかえりモネ』などに続いて役幅をさらに広げている。スイッチの切り替えの話は実に女優らしいものだった。
弱さを隠して強くなっていくのは共感しました
――『今際の国のアリス』シーズン2のヘイヤ役は、2年前のオーディションで決まったそうですが、その時点で原作を読み込んでいたんですか?
恒松 原作も読んでドラマのシーズン1も観て、万全の状態で臨みました。原作のヘイヤはとても力強くて、生命力が半端ない。同時に、その裏側では誰にも言わない悲しさ、辛さを乗り越えてきている。その複雑なところに惹かれて「この役は絶対に獲りたい!」と、たくさん練習していきました。
――確かに、女優さんに「演じてみたい」と思わせそうな役ですね。
恒松 弱さを覆い隠して、より強くなっていくような役ですけど、私も中学生や高校生の頃、悲しいことがあっても人に言わないで、強くあろうとしていたんです。だから、共感できる部分もありました。
――祐里さんは何と戦っていたんですか?
恒松 飼っていた猫が亡くなっても泣かないとか(笑)、悲しみを人に見せないのが強さだと思っていた時期がありました。
役として恨みや怒りを手紙に書きました
――オーディションでは、どの辺のシーンを演じたんですか?
恒松 ヘイヤのお母さんは不倫相手と旅行中に、事故で亡くなっているんですね。ヘイヤ自身は母親の愛をすごく求めていたのに、与えられなかった。それが悔しくて、自分が反抗的になったのも母親のせいにしている。“かまゆで”というげぇむの中で1人になったとき、そんな母親に対する恨みや怒りを口に出しながらサバイブしていくシーンがありました。あとは、山﨑賢人さんが演じるアリスに初めて会ったシーンです。「完璧にヘイヤになりきってやるぞ!」という気持ちでした。
――佐藤信介監督は「求めていたヘイヤ像をはみ出すパワーがありました」とコメントされています。相当な勢いだったんでしょうね。
恒松 自分ではわかりませんけど、確かオーディション前に、ヘイヤとして亡くなったお母さんに対する恨み辛みを手紙に書いて、ポケットに入れて行きました。台本に書いてあったことではないんですけど、そうやって気持ちを作り込んでいったのを爆発させられたのかなと思います。
――イチ女性として、ヘイヤの強さに惹かれる部分もありました?
恒松 そうですね。もともとヘイヤはギャルで、人の不幸なんてどうでもいいと、自分のことしか考えない女の子だったんです。今際の国に入って生きることに貪欲になって、かまゆでに生き残って過去の自分と決別しました。未来に踏み出して生きていく力は、すごく魅力に感じます。素直でないところも何だかんだかわいいですし、全部含めて、とても愛おしいキャラクターでした。
生き残らなければと思ったら運動神経も上がって
――そんなヘイヤ役に自分がハマる感覚もありました?
恒松 オーディションで手応えは感じました。私の中にヘイヤ的なものもあるんでしょうけど、役にすごくパワーがあるので、彼女を演じているときは自分も強くなれました。アクションも恒松祐里として練習しているとうまくいかなかったことが、本番でヘイヤになるとスルッとできたり。
――役に入り込んで感情が同化するのはわかりますけど、身体能力まで上がるものですか(笑)?
恒松 謎ですけどね(笑)。ヘイヤの力もありつつ、今際の国の極限状態の中で生き残らないといけないので、運動神経もちょっと上がるのかなと思います。
――確かに人間、生きるか死ぬかとなったら、思わぬ力が出るかもしれませんね。それだけ役に入っていた、ということでもあるんでしょうけど。
恒松 いつもは自分が役に寄り添っていくのが、ヘイヤは強すぎて自分が引っ張られる感じがしました。彼女になるスイッチが入ると、CPが上がるようなところがあって。
――劇中のヘイヤとしての写真でも、すごく鋭い目つきをしています。
恒松 鋭くしようとは思っていませんでした。撮影中に撮ってもらったので、「今から戦うぞ」みたいな顔になっていたんだと思います。
前例のない動き方を何回も練習しました
――ヘイヤはかまゆでを経て左足が義足になりました。
恒松 義足と弓矢で今際の国を生き残ってきました。現場では緑のストッキングを履いて、膝下から義足の形の器具を付けていて。試写を観たら、その緑の部分をCGでひとつひとつ消す作業をしてもらっていました。
――ブルーバックと同じ原理ですね。
恒松 アクションは特殊で大変でした。弓を持っているので左手も使えないし、そういう状況はアクション部の方も初めてだったみたいで、義足だとどんな動きができるのか、考えていただきながら撮っていきました。柔らかい仮義足と弓を使って練習したり。
――義足のアクションでは、どんなことを意識したんですか?
恒松 いろいろありました。寝るのも膝下の義足が地面に当たるから、脚を全部下ろせないし、でんぐり返しも左足からは上がれなくて。
――かなり練習したんですか?
恒松 必要な筋肉を付けるための基礎練習から、右足と左足を交互にケンケンで部屋の端から端まで行ったり。シーンの振付も覚えて、ワイヤーを使ったキックは何回も練習させてもらいました。
――相当ハードだったような?
恒松 慣れてないことをやらないといけなくて、難しかったです。私はダンスやバレエをやっていたので柔軟性はあるんですけど、筋肉があまりなくて。他の作品のアクションでも、体がグニャンとなってしまうことが多いんです。そういうところを1から直していただいて、カッコ良く見えるコツを教わりました。
過去を捨てて歩き出す力強さを意識して
――撮影でも体を張ったわけですよね?
恒松 かまゆでのシーンはドームが倒壊した設定で、瓦礫のセットも作ってくださって。その中で、かまゆでというだけあって熱い温泉みたいになったところに水が溜まっていて、そこをパーッと泳いだりしました。植物化した渋谷の109前の大きな戦いでも、その場その場を何とか生き残ろうというお芝居をしました。
――頭を悩ますところもありました?
恒松 すごく辛い部分もある役でしたけど、一緒にサバイブする仲間のアグニがいて。お互い孤独な人間で、2人の間には特別な絆があって、ヘイヤにとっては今際の国で新しく家族ができた感じでした。それからは心も平穏になって、「生きてやるぞ!」という気持ちに満ち溢れていました。
――演出的に何か指示は受けました?
恒松 ヘイヤは未来に生きるキャラクターだと、衣装合わせのときに言われました。先ほどお話ししたように、かまゆでで生き残ってからは、過去の自分を捨てて未来に向けて歩き出す力強さを意識しました。
応援する妹の役は明るさ全開でいけたら
――一方、ドラマ『リバーサルオーケストラ』では門脇麦さんが演じる主人公・谷岡初音の妹の奏奈役。社交的で明るい女子大生ということで、こちらは素に近い感じですか?
恒松 私に似ている要素もあると思います。まだ社会人経験がないので幼さもあって、だからこそ年上の人でも分け隔てなく、みんなと友だちみたいになれて。陽全開でガンガンいきたいなと思っています。
――しっかり者で料理上手、という設定もあります。
恒松 私は料理はあまりできないので、盛り付けているシーンしかないかもしれませんけど(笑)、奏奈ちゃんの作る料理がお姉ちゃんをちょっと助けたりもします。オーケストラを応援するチアリーダーみたいな役どころなので、視聴者の方々と同じような立ち位置だと思うんですね。皆さんと一緒に、このオーケストラが大きくなっていくのを見守っていきたいです。
――演技力に定評のある門脇麦さんとは、初共演でしたっけ?
恒松 ちゃんとご一緒するのは初めてです。妹役ということで、門脇さんの作品を最近たくさん観ています。クセのある役もたくさんやられていますけど、今回は根が明るくてやさしいお姉ちゃんなので、どういうお芝居で来るんだろうとワクワクしていました。絶対普通には来ない感じがするので(笑)、二人暮らしの家のシーンとか楽しみです。
日常的に海外ドラマを観て育ちました
――役幅がますます広がっていますが、今はご自分でも良い状況に感じていますか?
恒松 去年はいろいろな作品に出させていただいたなと、すごく思います。夏には2回目の舞台で初めてのストレートプレイの『ザ・ウェルキン』があったり。13人の女優の1人として、いろいろな世代の先輩方のお芝居を間近で拝見して、たくさん学びがありました。
――新たな何かが開けたりもしましたか?
恒松 舞台のお芝居はとても楽しくて、またやりたいと思いました。子どもの頃からレッスンでも、同じシーンを何回もやって深めていく作業が好きだったので。稽古場で年齢差は関係なく、みんなで「ああしよう。こうしよう」とお話しできたのはすごく有意義でした。人の人生を表現するってどういうことなのか、より深く考えるきっかけになりました。
――今、自分の中で課題にしていることもありますか?
恒松 英語を頑張りたいです。英語でのお芝居に特化したスクールに通っていて、いつかお仕事に活かせたらと思っています。
――海外進出を見据えているんですか?
恒松 それもありますし、普通に外国の方とお話ししたり、字幕なしで映画を観られるようになりたくて。私は子どもの頃から海外ドラマを観て育って、日常の中にあるものだったんです。漠然と「こういう作品に出られたらいいな」と考えてはいました。
子どもの頃の夢が叶っている感じがします
――子どもの頃、どんな海外ドラマを観ていたんですか?
恒松 『クリミナル・マインド』、『BONES』、『シャーロック』とか捜査ものが多かったです。物語の展開も、その中で俳優さんたちが面白いお芝居をするのも好きでした。あと、『バーン・ノーティス』というスパイものも、毎回アクションがあってカッコ良くて。「これは楽しそう」と子ども心に思っていました。
――アクションということだと、『今際の国のアリス』で実現しましたね。
恒松 アクションがある作品は自分が出ていてもすごく楽しいですし、やり甲斐もあります。夢が叶っている感じがします。
――最近だと、どんな作品を観ていますか?
恒松 配信系の海外ドラマが多いですね。最近は『ザ・クラウン』とか今まで観てきたドラマの新シーズンが始まっていて、『キリング・イヴ』の最終シーズンもWOWOWで観ました。あとは、ティム・バートンの『ウェンズデー』とか、マーベルの新作とか、単発系だと『The Bear(一流シェフのファミリーレストラン)』というレストランが舞台のドラマも面白かったです。
――本当に海外作品をいろいろご覧になっているんですね。
恒松 日本のドラマも好きですけど、家族と一緒に観るのは今も子どもの頃と変わらず、海外ドラマが多いです。
遊び心を忘れず役を面白く演じていけたら
――今年の活動にはどんな展望がありますか?
恒松 去年はいろいろな俳優の方とお会いして、お芝居のやり方をたくさんインプットできました。学んだことを自分ならどう表現できるか、実践していきたいと思っています。
――10月に誕生日が来たら25歳ですね。
恒松 20代の後半に入ります。でも、今まで通り着実にお芝居していきたいです。
――去年公開された映画『きさらぎ駅』に続き、ドラマでも主役を張りたいというのはありますか?
恒松 ご縁があったら、また主役もやらせていただきたいですけど、与えてくださった役を面白く演じられるように頑張りたいです。最近お会いした俳優の方々は皆さん、ユーモアに溢れていて。私も遊び心を忘れずに演じていけたらと思います。
――仕事以外に取り組みたいことはないですか?
恒松 昔から物作りが好きなので、自分が作ったものを見せていく機会もあったらいいですね。今は皆さんが気軽に使えるLINEスタンプの画を描きたいなと思っています。
Profile
恒松祐里(つねまつ・ゆり)
1998年10月9日生まれ、東京都出身。
2005年にドラマ『瑠璃の島』で子役デビュー。2015年に映画『くちびるに歌を』で注目される。主な出演作はドラマ『女子高生の無駄づかい』、『全裸監督 シーズン2』、『おかえりモネ』、『ザ・トラベルナース』、映画『虹色デイズ』、『凪待ち』、『アイネクライネナハトムジーク』、『タイトル、拒絶』、『きさらぎ駅』、舞台『ザ・ウェルキン』など。配信中のドラマ『今際の国のアリス シーズン2』(Netflix)、1月11日スタートの『リバーサルオーケストラ』(日本テレビ系)に出演。
『今際の国のアリス シーズン2』
Netflixで独占配信
原作/麻生麻呂 監督/佐藤信介
出演/山﨑賢人、土屋太鳳、村上虹郎、恒松祐里、仲里依紗、山下智久ほか
『リバーサルオーケストラ』
1月11日スタート
日本テレビ系/水曜22:00~