難民であることが罪に―入管の人権侵害さらに悪化、御用学者らの改悪案が酷すぎる
迫害から逃れてきた難民や日本人と結婚しているなど自国に帰れない事情のある外国人達を、収容施設に長期拘束(=収容)している法務省・出入国在留管理局(入管)。長期拘束に抗議してハンガーストライキを行っていた被収容者を餓死させてしまう等、その非人道的な処遇が批判を呼んできたが、状況は改善されるどころか、さらに酷いものになりそうだ。法務省が立ち上げた「収容・送還に関する専門部会」では、難民認定審査中の人を強制送還したり、帰国を拒否する人に刑事罰を科すことが検討されているのだという。だが、国際社会から批判され続けてきた日本の難民への冷遇ぶりを見直さず、さらなる排除を推し進めていく法務省・入管の方針に対し、難民その他の外国人達を支援する弁護士達から批判の声が上がっている。
◯事実上、「難民であることが罰せられる」ことに
2019年6月24日、大村入国管理センター(長崎県大村市)に収容中のナイジェリア人男性が死亡した。男性は3年7ヶ月もの長期間にわたって収容されていたことへの、抗議のためにハンガーストライキの果ての餓死であった。大村入管での餓死事件や、その後も各地の収容施設での被収容者達が次々にハンガーストライキを行っていること、被収容者の自殺未遂などの自傷行為が相次いでいることに危機感を抱いた法務省・入管は、検察や入管のOB、学識経験者等からなる「収容・送還に関する専門部会」を立ち上げた(以下「専門部会」)。この専門部会には、現在の入管の在り方に批判的な弁護士も参加しているものの、割合としては、現状肯定派が圧倒的多数だ。
専門部会では、新たに「送還忌避罪」を設けて送還を拒否する場合は刑事罰を科すことで、自発的な帰国を促すことを検討している。だが、入管の統計にもあるように「送還忌避者」の約7割が難民認定申請を行ったことがある者であり、迫害の恐れがあるからこそ帰国できないのである。つまり、専門部会が検討する「送還忌避罪」は、「難民であることが罰せられる」という極めて不条理な事態を招くことになる。また、専門部会では 「難民認定申請を複数回行っている者」を送還に対象にしようという、難民条約からも国内法である入管法からも逸脱した論議も行っている*1。
◯異常に低い日本の難民認定率、見直されるべき審査体制
これに対し、「収容・送還問題を考える弁護士の会」の駒井知会弁護士は「そもそも異常に低い認定率を生み出している難民認定審査自体に見直すべきところがないか真摯に検討してほしい」「1回目の難民認定申請で、保護されるべき人々が確実に認定され、保護されるシステムが必要」と語る。確かに、日本は難民条約の締約国でありながら、迫害から逃れてきた難民を受け入れるといった条約上の義務はほとんど果たしていないに等しい。
「2018年の日本の難民認定数は1万6596人中42人で、認定率は約0.25%。他の先進国では、例えばドイツが24万5677人中5万6583人で約23%、米国が9万9394人中3万5198人で約35.4%です」(駒井弁護士)。
日本の難民冷遇ぶりの背景には、法務省・入管が「難民認定申請者達は、日本での在留や就労のため、制度を濫用している」と主張していることがあるのだろう。だが、それは偏見に満ちた決めつけではないのか。例えば、少数民族のクルド人の迫害などの人権侵害があるトルコから逃げてきた人々の難民認定率は、日本では約0%なのに対し「カナダでは約89.4%、米国では約74.5%」(駒井弁護士)とあまりに大きな違いがある。日本の難民認定審査は偏見によって歪められているのではないか。
◯EU等では長期収容自体が認められない
入管の収容施設での長期収容自体も、他の先進国の基準とかけ離れている。「収容・送還問題を考える弁護士の会」の高橋済弁護士は、こう解説する。
「日本では、退去強制令書*2が発布されたら収容するという全件収容主義をとっていますが、EU諸国では『逃亡の恐れがある場合に限定』と収容の必要性が問われますし、ドイツなどではその判断も入管ではなく、裁判所が行っています。また、収容の期限も、日本では『送還するまでの間』で無期限収容であり、2年以上の長期収容も常態化していますが、EU諸国では、3ヶ月までが主流で、米国でも原則90日までとされています」(高橋弁護士)
だが、専門部会では、収容の期限を定めることや司法に収容の判断を委ねることへの反対意見が相次いでいるという。高橋弁護士は「専門部会は非常に偏っているのでは」と、その中立性に疑問を呈する。
「そもそも、『収容の長期化の防止』という専門部会の検討課題も、ここ数年、その件数が減少している仮放免や在留特別許可を、以前のレベルに戻せば解決することです」(高橋弁護士)。
仮放免とは、就労をしない等の一定の制限を課して、収容施設の外での生活を許可するもの。また在留特別許可とは、個別の事情を鑑みて法務大臣の裁量で在留資格を与えるというもの。これらの救済措置が行われにくくなっている背景には、「東京オリンピックのための治安対策」がある。オリンピック憲章に謳われる「人権尊重」「差別の撤廃」と反する方針だ。
「オリンピックのため」難民を苦しめる日本ー過去最悪の長期拘束、7割近くが難民申請者、衰弱し自殺未遂も
https://news.yahoo.co.jp/byline/shivarei/20191029-00148618/
◯「人権後進国」化に拍車
送還忌避罪の新設や、難民認定審査中の人の強制送還など、専門部会が検討していることは、長期収容や難民条約との整合性などの現在、法務省・入管が抱える問題をさらに悪化させるだけではないか―筆者は法務省・入管へ問い合わせたが、その回答は「専門部会での議論はまだ終わっておらず、現時点での回答はできない」というものだった。
日本の「難民鎖国」ぶりは、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の年次報告でも「特に難民の庇護率が低い国」として名指しされ、長期収容についても、自由権規約委員会や拷問禁止委員会など国連の人権関連の委員会から度重なる是正勧告を受けている。これらの指摘や勧告に法務省・入管が耳を貸さず、あくまで難民の排除を推し進めていくのならば、「人権後進国」としての日本のイメージ悪化に拍車をかけることになるだろう。
(了)
*1「迫害の恐れのある者の強制送還の禁止」(ノンルフールマンの原則)は、難民条約33条、入管法53条3項で定められている。
*2 退去強制令書とは、入管が外国人に日本での在留資格を与えず、送還ないしは収容を決定した際に発布される行政文書。ただし、発布後も、個別の事情に鑑みて、収容施設からの仮放免や、在留特別許可、難民認定などの救済措置も行われる。