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「永久円安」「永久インフレ」で経済衰退確実!なぜ日本は詰んでいるのか?

山田順作家、ジャーナリスト
植田総裁は「打つ手」がない状態(写真:つのだよしお/アフロ)

■このままでは破綻国家に転落する

 円安とインフレが続いている。もはや「永久円安」「永久インフレ」状態である。賃金が上がらないから、この状況は明らかなスタグフレーションで、景気はどんどん悪化する一方になっている。

 しかも、この状況から、日本経済が脱出する手立てはない。6月14日の日銀の政策決定会合ではっきりしたのは「なにもできない」ということだった。日銀が利上げをできず、政府が減税もできないという「八方塞がり」の状況に日本は追い込まれてしまった。

 すでに日本は詰んでいるので、このままダラダラと国債発行による金融緩和、金利抑制を続けるほかない。そうして、これまでどおりのバラマキで、政府はなんとか国民生活を救おうとするだろうが、結果は逆に出る。国民生活がさらに窮乏し、政府だけが助かるというハイパーインフレがやって来かねない。その行き着く先は、元先進国から破綻国家への転落である。

■「動かない」ではなく「動けぬ」日銀

 先の日銀の政策決定会合を前に、一部メディアや専門家は「円安、物価高をなんとかしろ。そのために金利を上げろ」と騒ぎ立てたが、日銀はほぼ動かなかった。

 日銀が決めたのは、「国債買い入れを減額する方針」で、それを次の7月の会合で具体化するということだけだった。つまり金融緩和は継続され、利上げによる「円安是正」「インフレ是正」は先送りされたのである。

 日経新聞は、この状況を見て『「動けぬ日銀」160円試す市場 円安圧力なお、視線は7月』(6月17日)という記事を出した。見出しに「動けぬ日銀」とあることが、現在の状況を象徴している。「動かない」ではなく「動けない」のだ。

 日銀の植田和男総裁は、減額の方針を決めたことについて、「金融市場における長期金利の自由な形成を促進していく」と説明した。しかし、金利を市場に任せたら大変なことが起こるので、やれるはずがない。そのため、減額の内容に関しては「相応の規模で」としか言えなかった。

 本来、円安、インフレに対処するなら、金融緩和をやめて金利を上げるべきである。しかし、国債残高が大きすぎてそれができない。現在、日銀の国債の保有残高(6月10日現在)は、約584兆円。なんと、GDP比でほぼ100%であり、FRBのアメリカ国債(財務省証券)保有額の対GDP比は約20%だから、とんでもない数字である。

 こんな状況で金利を上げれば、スタグフレーション下にある日本経済はどん底に落ちる。

■長期金利を上げた場合、なにが起こるのか?

 それでも日銀は、緩和を解除する方向に舵を切らざるをえなくなり、この3月にはYCC(イールドカーブコントロール)を撤廃し、マイナス金利政策を解除した。

 その結果、長期金利(10年物国債の利回り)がじわじわと上がって、国債の市場価格が下落。保有国債の時価評価で含み損が出るようになった。日銀は5月29日、保有国債の時価による評価損が9兆4337億円となり、3月末時点として過去最大になったことを発表した。

 こんな状況で、さらに金利を上げていけば、どうなるかは明白だろう。

 日銀は、民間銀行が日銀に預けている当座預金付利を付けているが、これを引き上げなければならない。当座預金残高は現時点で約550兆円あるので、0.25%の引き上げで約1.3兆円、0.5%で約2.6兆円、1.0%で約5.2兆円も損失が出る。

 金利上昇幅が大きければ、中央銀行が債務超過に陥る可能性も十分にありえるのだ。

 もちろん、金利上昇のダメージは、広範囲に及ぶ。国債を保有している民間銀行や保険会社は、国債価格の下落により、大幅な損失のを出し、倒産するところも出る。低金利の借金に頼って経営している企業の多くも、行き詰まる。さらに、住宅ローンを抱える家計も行き詰まり、日本の住宅ローンはノンリコースローンだけに「住宅ローン破産」も続出するだろう。もちろん、不動産も暴落する。

■金利上昇でいちばん困るのは日本政府

 それでも、金利上昇でいちばん困るのは、なんと言おうと政府である。政府は予算の財源の3割ほどを国債発行でまかなっているので、金利上昇は即座に予算逼迫となり、予算が組めなくなる可能性も出て来る。

 試算では、金利が1%ポイント上がれば、利払い費は毎年1兆円ずつ上昇する。

 財務省はすでに、長期金利の上昇を見越して、2024年度予算(3月28日成立)で、想定金利を1.1%から1.9%に引き上げ、国債費を27.0兆円と昨年度当初予算から約1.8兆円増加させた。このうち、利払い費は9.7兆円で、同じく約1.2兆円増加させている。しかし、そんな程度ですむのかどうかは誰にもわからない。

 内閣府も、想定金利による経済財政の試算を行っている。それによると、中長期の試算のうちの成長実現ケースでは、名目の長期金利が2023年度の0.6%から2028年度に1.5%に上がり、この際の利払い費は11.5兆円となるとしている。

 これは、あくまでも成長実現ケースである。もはや成長が望めない日本経済で、金利1.5%は無理筋ではないか。

 なにより、このまま国債発行を続けていけば、国債の格下げが起こる。現在、日本国債の格付けは、S&Pが「A +」、ムーディーズが「A1」と、先進国と比べると圧倒的に低い。もし、格下げされたら「ジャンク債」となり、ほぼ誰も買わなくなる。買うのは日銀だけとなってしまう。

■円安の本当の原因は国債の大量発行

「円安の原因は日米の金利差」と、メディアも専門家も盛んに言っているが、元を正せば長年にわたる放漫財政にある。つまり、国債の大量発行である。それをアベノミクスが加速させ、限度を超えてしまった。

 なにしろ、安倍晋三元首相は、「日銀は政府の子会社」と言い、中央銀行の独立性をないがしろにした。財政法第5条は、日銀引き受けによる国債発行を禁止している(市中消化の原則)。しかし、安倍・黒田コンビが始めた異次元緩和は、いったん市中を通したとはいえ、日銀が引き受けるのを前提としているので、これは禁じ手の「財政ファイナンス」である。

 日銀が国債を直接引き受ければ、金利を気にすることなく、政府はいくらでも国債を発行することができる。まさに「打ち出の小槌」を手に入れたのと同じで、政府は国債を発行しまくり、2012年末から2023年末までの11年間で371兆円も積み上げてしまった。日本政府は「国債依存症」になり、借金を借金と思わない政治家は「お花畑症候群」にかかってしまった。

 この間、マネタリーベース(マネーストック)は拡大し続け、日米で比較すると、日本はアメリカの約2.5倍もの紙幣を発行した。2012年当時、ドル円は約83円だったが、いまや約158円(6月18日)。円がドルの約2.5倍も発行されるのだから、安くなるのは当然の成り行きだ。

■投機筋と言っても合理的な市場プレーヤー

「歴史的な円安」の真因が、「日米の金利差」だけではないことを、投機筋はみな知っている。外から日本を観察すれば、日本が手詰まりなことは手に取るようにわかる。だから、円安を仕掛ける。

 投機筋などと言っているが、世界の為替取引のうち実需取引は2割程度で、投機取引の方が圧倒的に多い。したがって、投機筋と言っても、合理的な市場取引のプレーヤーだ。メディアは、まるで日本が投機筋に狙われた被害者のにように言うが、その認識は間違っている。

 誰だって、ドルを上回る量で発行され続けている円を持とうなどとは思わないだろう。

 ただし、金利差が大きいので、円で借金してドルに替えて投資する「キャリートレード」を行う。これをやっているのは海外だけではない。日本の投機筋もやっている。一般国民の一部も、円を捨てドル投資にシフトしている。

■投機筋に「どうぞ」と日銀が“お墨付き”

 こうした流れのなか、まずかったのは日銀の植田和男総裁の数々の発言だ。なぜなら、就任以来、投機筋に「どうぞ円安を進めてください」と言ってきたのと同じだからだ。

 極め付けは、4月26日の政策決定会合後の記者会見だった。ここで植田総裁は、「(円安によって)基調的な物価動向に大きな影響が生じれば、政策の判断材料になる」と言い、続けて「円安による基調的な物価への影響は無視できる範囲か」という質問に「はい」と答えてしまった。

 円安が進み物価が上がっても「無視できる」と言うことは、日銀が「円安を放置する」というメッセージを市場に送ったことになる。植田総裁は、「どうぞ円安で儲けてください」と言ったのも同然なのだ。

 案の定、この後、円安はいっそう進んだ。

 財務省による為替介入も行われたが、その効果は一瞬にすぎなかった。もちろん、キャリートレードは加速した。キャリートレードでは最初に円を借りるので、これを返すときに借りた時点より円高になっていると損をしてしまう。しかし、植田発言により、その可能性はほぼなくなった。こんな、必ず儲かる取引はありえない。

 なにしろ、一国の中央銀行が“お墨付き”をくれたのである。投機筋ばかりか、海外でドルを稼いだ日本企業も、ドルを円転するはずがない。

■企業と同じで「倒産処理」が必要

 この期に及んで、「財務省悪玉論」「財務真理教」などの言説が横行し、「国の借金は国民の資産」「国債は国内で消化されているから財政破綻しない」「もっと財政出動をしろ」「骨太の方針にプライマリーバランスを明記する必要はない」などという主張があるのには、驚くほかない。

 さらに驚くのは、こんな状況で、与野党とも政治家たちが、危機に言及せず、政争を繰り広げていることだ。解散総選挙が近いとして、選挙運動も始まっている。

 しかし、彼らは、こんな行き詰まった国をいったいどうしようというのか? 単に、政治家を続けることが目的なのか?

 たとえ与野党が逆転して、政権交代が起こっても、政治家がやることはほぼ同じだ。国民生活のためと言って、補助金を出したり、現金支給をしたり、優遇措置を講じたりするだけ。その財源は国債だから、状況はさらに悪化する。

 本当にやるべきは、超緊縮だ。政治家と公務員を大幅にリストラする。金利上昇に耐えられない企業を市場から退出させる。年金などの福祉予算を大幅に削るなど、痛みを伴う“ハードランディング”である。人口減に合わせて社会経済をダウンサイジングすることだ。こうすると、日本経済はいったんどん底に落ちるが、そこから再生する。企業もそうだが、「倒産処理」をしなければ、再生しない。

 しかし、こんなことが、いまの政治家にできるはずがない。

■国民が目覚める「終末の日」がやって来る

 結局、財源を国債に求めるという政治は、いつまで経っても終わらない。日銀も財務省も、政府の国債による資金繰りを容認して、それを続けさせるだけだ。

 これは、一見すると「永遠のループ」に思えるが、終わりはある。

 それは、大多数の日本人が、日本円をこれ以上持っているのは危ないと思い始め、それをドルや実物資産に替え出したときだ。また、インフレが止まらないから現金は危ないと、金融機関に預けてあるおカネをいっせいに引き出し始めたときだ。

 つまり、これは心理ゲームである。大多数の国民がこの心理状態になるのは、ドル円がいくらになったときか? あるいはインフレ率が何%になったときか? 誰にもわからない。

 財務省はHPで、「自国通貨建て国債でのデフォルトはない」とする一方で、財政赤字を問題視して、「財政規律は堅持しなければならない」と、相反することを言い続けている。こうして、国民を安心させないと、「終末の日」(ドゥームズデイ:Doomsday)は、意外に早くやって来てしまうからだろう。

作家、ジャーナリスト

1952年横浜生まれ。1976年光文社入社。2002年『光文社 ペーパーバックス』を創刊し編集長。2010年からフリーランス。作家、ジャーナリストとして、主に国際政治・経済で、取材・執筆活動をしながら、出版プロデュースも手掛ける。主な著書は『出版大崩壊』『資産フライト』(ともに文春新書)『中国の夢は100年たっても実現しない』(PHP)『日本が2度勝っていた大東亜・太平洋戦争』(ヒカルランド)『日本人はなぜ世界での存在感を失っているのか』(ソフトバンク新書)『地方創生の罠』(青春新書)『永久属国論』(さくら舎)『コロナ敗戦後の世界』(MdN新書)。最新刊は『地球温暖化敗戦』(ベストブック )。

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