ガソリン価格高騰の要因と今後の見通し ガソリン高は更に深刻化、長期化するのか?
資源エネルギー庁が10月13日に発表した石油製品価格調査によると、10月11日時点のレギュラーガソリン価格の全国平均は1リットル=162.1円となり、前週の160.0円から2.1円値上がりした。これで6週連続の値上がりであり、1年前の134.10円と比較すると28.0円(20.9%)もの急激な値上がりになっている。
国内のガソリン価格は石油精製会社の原油調達コストによって決まるため、これは原油価格高騰を反映したものである。国際指標となるNY原油先物相場は年初の1バレル=48.40ドルに対して10月11日高値は82.18ドルに達しており、2014年10月以来となる約8年ぶりの高値を更新している。昨年に新型コロナウイルスのパンデミックが発生する前の50~65ドル水準を大きく上回っており、その価格転嫁が行われているのが現状である。しかも為替市場では円安傾向が強まり始めていることで、国内の原油高の負担感は一段と強くなっている。
では、なぜ原油価格が高騰しているのか。パンデミック発生前の価格水準さえも上回っているのはなぜだろうか。これは複合的な要因に基づく。需要サイドでは、パンデミックで落ち込んだ需要が急激な回復フェーズに移行していることで、需要環境の激変が需給バランスを歪めている影響がある。供給サイドでは、石油輸出国機構(OPEC)にロシアなどを加えた「OPECプラス」が、協調減産政策を維持していることがある。10月4日にはOPECプラスの閣僚級会合が開催されたが、需要の先行き不透明感を理由に大規模な増産対応は見送ることが確認された。
しかも、パンデミックによる投資不足、更にはメインテナンス作業が十分に行えない状態が続いた結果、そもそも産油国が十分な増産能力を有しているのかも疑問視されている。8月末にはメキシコ湾に大型ハリケーンが襲来し、米国の原油生産が壊滅的な被害を受けた。更に足元では天然ガスや石炭相場も高騰していることで、暖房用や発電用エネルギーで原油への代替需要が発生する可能性さえも警戒されている。
■ガソリン価格の高騰は続くのか?
ガソリン価格の高騰は更に続くのだろうか。市場関係者の間では、少なくとも年末にかけては原油価格の高騰、高止まりが続くとの見方が多い。これから冬の需要期に向かうことに加えて、他のエネルギー源の供給不安、価格高騰が進んでいることで、原油価格のみが大きく値下がりする事態は考えづらいためだ。NY原油先物相場がこのまま85ドル、90ドルといった価格水準を打診すると、ガソリン価格は160円台定着が進み、2008年以来となる170円台到達の可能性も想定しておく必要がある。
ただ、既に米国やインドを筆頭にガソリン高による家計の負担増、インフレ圧力は深刻な問題になり始めており、そこから更に180円、190円といった価格まで上昇するかと言えば、その可能性は低そうだ。まだ世界経済はパンデミックからの回復途上にあり、エネルギー価格の過剰な高騰は、そのこと自体が世界経済の減速、ガソリン消費量の減少といった動きを引き起こす可能性が高い。
一方で、ガソリン価格が来年に大きく下落するかと言えば、その可能性も低そうだ。来年は原油需要の伸びが鈍化する一方で、米国のシェールオイルやブラジルの深海油田などの供給量が増加に転じることで、原油価格は徐々に上値を抑えられる可能性が高い。特にイラン核合意が成立すると、大量のイラン産原油が市場に追加供給されることで、原油相場の鎮静化が促される可能性がある。
しかし、世界が脱炭素化を急ピッチに進めていることで投資不足から原油供給は大きく伸びづらくなっている一方で、輸送用エネルギーや石油化学分野で原油の重要性が直ちに失われる訳ではないため、原油を筆頭に天然ガス、石炭など化石燃料の需給は不安定な状態が続くとみられている。2022年には、更に原油価格の高騰が進むとの見方も決して少数派とは言えず、ガソリン価格もたとえ急伸が止まっても、暫くは高値圏での取引が続くとみておいた方が良いだろう。
仮に大幅なガソリン安が実現するシナリオがあるとすれば、それは新型コロナウイルスの感染が再び大流行し、ヒトやモノの移動が大幅に制限されるような状況に陥った場合になる。それはガソリン価格高騰とは別の意味で、困った事態と言えそうだ。