原油価格が5ヵ月ぶり高値更新、高まる中東の危機レベル
原油価格が上昇している。NY原油先物相場は4月2日の取引で1バレル=85ドルを一時上抜き、昨年10月27日以来となる約5ヵ月ぶりの高値を更新した。イスラエル軍がシリアのイラン大使館を空爆し、イラン革命防衛隊幹部などが死亡したことが中東情勢の先行き不透明感を高めている影響だ。
イランのライシ大統領はイスラエルに対して報復を宣言しており、これまでイスラエルとの直接衝突を避けてきたイランが、軍事紛争の当事国になるリスクが警戒されている。
イランはイスラエルやハマスとは異なり、主要産油国の一つである。仮にイランが軍事紛争に巻き込まれると、イランとその周辺が戦闘地帯になることで、イラン産原油はもちろん、イラクやクウェート、サウジアラビア、UAEなど周辺産油国からの原油供給にも大きな混乱が生じる可能性がある。
現在、石油輸出国機構(OPEC)プラスは日量220万バレル規模の自主減産を行うことで、国際原油需給バランスと原油価格の安定を目指しているが、この状況でイランを含む中東産油国が意図せざる供給障害に巻き込まれると、原油供給が一気に不足する可能性もある。
しかも、ロシアは4~6月期に輸出削減を順次減産に置き換える計画であり、現在は中東情勢の混乱を考慮に入れなくても原油供給量が不足がちになり始めているタイミングである。米金融大手JPモルガンは、ロシア供給戦略のサプライズ的な転換(=輸出削減から減産への政策変更)を受けて、9月にもブレント原油価格が100ドルに到達するリスクを指摘したばかりである。
4月3日にはOPECプラスの産油政策を協議する合同閣僚監視委員会(JMMC)が開催予定だが、現状ではOPECプラスの自主減産は予定通りに4~6月期も継続される見通しである。
原油価格の高騰が長期化する可能性は低いが、短期的には大きな混乱も
仮に原油相場が高騰すれば、秋に大統領選挙を控えたバイデン米政権は戦略石油備蓄(SPR)放出などの価格鎮静化策を実施する可能性が高い。OPECプラスも自主減産の規模縮小や終了といった形で、原油相場の過度の変動を抑制する動きを見せよう。また、そもそも世界経済は依然として脆弱であり、原油価格急騰に耐えられる体力は乏しいとみられる。このため、長期にわたる原油価格の高騰が想定されている訳ではない。
しかし、イスラエルとイランの今後の対応次第では短期的に原油相場が更に急騰し、世界に景気後退と物価上昇のリスクをもたらすことになろう。
日本に関しては、3月29日に政府がガソリン補助金の延長を決めたばかりであり、直ちにガソリン小売価格が高騰する訳ではない。しかし、巨額の財政負担をいつまで続けるのか見通しが立たない状態は、将来に大きな負担を持ち越すことになる。原油高が更に深刻化した局面で、財源不足でガソリン補助金を打ち切るような最悪のシナリオも存在する。
いずれにしても、根本にある問題はイスラエルのハマス掃討作戦が長期化していることであり、戦闘状態が続いている限りは不測の混乱がいつ発生するのか分からない状態が続くことになる。