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「自分の武器が分からない」。新納慎也を衝き動かす“怖さ”という原動力

中西正男芸能記者
大河ドラマ「鎌倉殿の13人」にも出演している新納慎也さん

 NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」に阿野全成役で20日から登場する新納慎也さん(46)。舞台、映像問わずオンリーワンの存在感を見せていますが、活動の原点にあるのは「怖い」という感情でした。

過去の自分が重圧に

 今回で3回目の大河ドラマなんですけど、これは僕の感覚かもしれませんけど、「大河!」という音の響きからして重みがあるというか(笑)。

 個人的にも2016年に「真田丸」で豊臣秀次を演じて注目していただいた流れもあるので、そこが重圧になっている部分もあります。

 ただ「真田丸」の時にもいろいろな先輩方から「恐らく、秀次役が今後のプレッシャーになってくると思うけど、それは気にしなくてもいい」と言っていただいてたんです。

 「何をやっても『あの役の〇〇さんですね』と言われることがあったりもするけど、それはそんなもんだ。代表作というだけで、そこを越えられないとかネガティブな感情にとらわれなくてもいい」とも言っていただきました。

 そう言ってもらうということは、数多の先輩方がその構図を味わってこられたということですし、経験を踏まえてアドバイスをくださるのは本当にありがたいことです。でもね、やっぱり前のものを越えたい。そう思う自分もいるんですよね。

“まじめ”でいる意味

 いろいろな先輩方とご一緒してきた中で痛感するのが、ずっと残ってらっしゃる方は本当にまじめで、本当に良い人ばっかりなんです。

 破天荒だったり不良っぽいイメージがある方でも、求め続けられている方は皆さんまじめで良い人なんですよね。これはキレイに共通しているところで。そして、異口同音に「この仕事、まじめじゃないと続かない」とおっしゃるんです。

 僕もこの歳までやってきて強く思うんですけど、結局人と人の仕事ですからね。やさしいとか、まじめとか、そういう人が残っていくんだなと。

 与えられた役のセリフを覚える。もちろん、これは当たり前なんですけど、出来る限り、その役の根っこの部分まで知識を持っておく。それがまじめなのか当たり前なのかわかりませんけど、僕はそうやってきました。

 ナニな話なんですけど、例えば、その役のこと、その世界のことを知らなくても技術があれば演じることができる。そういう考え方もあるんです。

 それっぽく目線を作る。らしい動きを見せる。それをやることで役は表現できるという方もいます。

 特に映像では有効な考え方なのかもしれませんし、それはそれですごい技術だと思います。ただ、僕の場合は映像の経験も多くはないし、できる準備は全部しておこうとなるんです。

怖さという原動力

 そして、まじめにやる。そう自分に言い聞かせる根本にあるものというか、それが恐怖なんです。

 例えば、デビュー作がメッチャ売れたとか、親が芸能人だとか、家がお金持ちだとか、突き抜けて歌がうまいとか、ありえへんくらい男前とか。芸能界はそういう“武器”を持っている人ばっかりの世界に見えているんです。僕からすると。

 みんな背中に固有の武器を背負っている。「歌がうまい」という剣だとか「親が芸能人」という斧だとか。

 背中の鞘に僕の場合は何が刺さっているのか。それが分からないので、これまで100人以上の同業者に「オレは何が刺さってる?」と聞いてきました。ホンマに面倒くさいヤツやと思いますけど(笑)。

 お仕事をいただいても、実はどこかで「何で、オレなんやろ」と思ってもいるんです。もっと歌が上手い人もいるし、もっとカッコいい人もいるのにと。

 結局、自分の武器が分からないし、不安だし、怖いし、何の後ろ盾もない。だったら、せめてまじめに一生懸命やろう。それがね、本当に正直な思いなんです。

匍匐前進

 あと、後ろ盾という言い方が正しいのかどうか分かりませんけど、明確な武器が分からない中、一つ仕事で失敗をすると次に呼んでもらえない。その恐怖も常に感じてきました。若い頃から、ずっとこれは続いています。

 そういう心持ちの表れというか、若い頃から「目指す俳優さんは?」とか「将来どうなっていたい?」みたいな質問に上手に答えられたことがないんです。

 というのも、目の前の作品に取り組むことに必死で、先のことまでとてもじゃないが見えない。よく言うんですけど、ずっと匍匐前進で進んできた感覚なんです。

 颯爽と前を向いて歩いていたら、遠くを見ていろいろなイメージも浮かんでくるのかもしれませんけど、腕で少しずつ体を前に運ぶ。そんな時間だったなと。

 今も明確に「こうなりたいです」なんてイメージはないんですけど、ありきたりながら、ずっと俳優の仕事は続けていきたい。それは思います。

 舞台も、映像も、バランスよくできていたら尚更ありがたいですし、なんとかそんなことになっていたらなと。この作品がやりたいとか、ワイドショーの司会をしたいとか、本当にそういうものは本当に浮かんでこないんですよね。

 え?ワイドショーの司会をやってくれと言われたらですか?ま、それはね、せっかく言ってもらってるんですから。…ありがたくやらせてもらおうとは思いますけど(笑)。そら、もう、せっかくですからね。

(撮影・中西正男)

■新納慎也(にいろ・しんや)

1975年4月21日生まれ。兵庫県出身。ワタナベエンターテインメント所属。モデルとして芸能界入りし、94年から舞台俳優の活動を始める。97年からNHK「にこにこぷんがやってきた!」の「うたのおにいさん」も務める。「ラ・カージュ・オ・フォール 」「エリザベート」など数多くの舞台に出演し、2008年にはテレビ朝日「仮面ライダーキバ」にキング役でレギュラー出演する。16年、NHK大河ドラマ「真田丸」で豊臣秀次役を好演し注目を集める。放送中のNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」に阿野全成役で2月20日放送分から出演予定。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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