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部活動 子どもに「春休み」はあったか?

内田良名古屋大学大学院教育発達科学研究科・教授
「一年間のある時期に活動しない」ことについて、生徒と教員の差はあまりに大きい

■春休みは「休み」だったか?

春休みも、残すところ今日だけという自治体も多い。はたして子どもたちは、十分に「休み」をとれただろうか。どうにも私の耳には、ほとんど毎日「休みなし」で部活動に行ったという話が多く入ってくる。

Yahoo!ニュースでは「どうすべき? 部活顧問で疲弊する教育現場」という話題がヤフトピに掲載され、顧問担当の負担感に関する議論が展開されている。私自身も、「部活動顧問の過重負担 声をあげた先生たち」など、複数のエントリを投稿してきた。

それらの議論の関心は、教員の「休みなし」にあった。だが、教員が休みなく部活動を指導しているということはつまり、それだけ生徒もまた活動をしているということである。生徒自身は、休みなき部活動について、いったいどのように感じているのか。

■一週間の活動日数について

中学校における運動部活動日数の「理想」と「現実」
中学校における運動部活動日数の「理想」と「現実」
高校における運動部活動日数の「理想」と「現実」
高校における運動部活動日数の「理想」と「現実」

私が3カ月前のエントリ「部活動 先生も生徒も 本音は『休みたい』」で神奈川県の調査結果をもとに指摘したように、中学校/高校の運動部の一週間における活動日数をみると、教員も生徒も理想としては、活動日数は現実よりももっと少ない方がよいと考えている。

話を単純化すれば、一週間の活動日数は少なくしても、部活動の当事者である教員や生徒からは賛同が得られる。(もちろん実際には諸々の考慮すべき事項がある。)

■まとまった休みについて

しかし、運動部に関して、まとまった休みをとることについては、教員と生徒の間に驚くほどの大きな意識の隔たりがある。

同じく神奈川県の調査(最新の2013年調査)*に、「一年間のある時期に活動しない期間を設けること」の是非が問われている。それに対して「よいと思う」と回答した者の割合は、中学生と高校生はおおよそ7割に達する。他方で、教員と校長さらには保護者の「よいと思う」の回答は、いずれも2割を切っている。外部指導者においては4%である。

生徒はまとまった休みがほしいけれども、大人たちは概して、そう思っていない。その差は、あまりにも大きい。

「一年間のある時期に活動しない期間を設けること」を「よいと思う」割合
「一年間のある時期に活動しない期間を設けること」を「よいと思う」割合

■部活動=生徒の自主的、自発的な参加

部活動には、スポーツや芸術の指導の域を超えて、生徒指導の一環(自主性、協調性、責任感の育成など)としての役割が期待されている。それゆえ、生徒の動向が一定の期間つかめないのは、先生にとって大きな懸案事項なのかもしれない。

あるいは、プロのスポーツ選手のような、活動にオンとオフの期間を設けること自体が、学校の生徒には馴染まないと考えられている(「休んだら弱くなる!」)のかもしれない。

春休みや夏休みといった長期休みに生徒を学校に拘束することには、学校の側からみて、それなりの意義があるのだろう。それにしても、生徒との意識の隔たりは、あまりにも大きい。

学習指導要領によれば、部活動は「生徒の自主的、自発的な参加により行われる」(中学校学習指導要領「総則」)ものである。春休みの連日の練習を、生徒はどう感じたか。春休みが終わるこのタイミングに、いちど大人たちから問いかけてみてはいかがだろうか。その問いかけが、じつは顧問教員の負担を軽減するための新たなヒントを生み出してくれるかもしれない。

*注:神奈川県教育委員会「中学校・高等学校生徒のスポーツ活動に関する調査報告書」。2013年の6月から7月にかけて実施。神奈川県内中学校、高等学校に在籍する生徒とその保護者、神奈川県内中学校、高等学校に在職する教員などが対象。

名古屋大学大学院教育発達科学研究科・教授

学校リスク(校則、スポーツ傷害、組み体操事故、体罰、自殺、2分の1成人式、教員の部活動負担・長時間労働など)の事例やデータを収集し、隠れた実態を明らかにすべく、研究をおこなっています。また啓発活動として、教員研修等の場において直接に情報を提供しています。専門は教育社会学。博士(教育学)。ヤフーオーサーアワード2015受賞。消費者庁消費者安全調査委員会専門委員。著書に『ブラック部活動』(東洋館出版社)、『教育という病』(光文社新書)、『学校ハラスメント』(朝日新聞出版)など。■依頼等のご連絡はこちら:dada(at)dadala.net

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