立てこもり事件の犯罪心理学:和歌山4人銃撃立てこもり事件から
「もう撃て」「海外なら確実に射殺されてる」。そんな意見が多く見られますが、私達の社会は時間をかけ、命を大切にします。
■和歌山で立てこもり事件発生
「拳銃持ち立てこもり9時間、4人死傷発砲事件の容疑者」(テレビ朝日)、和歌山発砲 籠城12時間超える 説得応じず2回発砲(産経新聞)。
事件は今も解決していません(8月31日午後6時現在)。
事件の詳細は不明ですが、ここでは一般的な立てこもり犯の心理と、そして今起きている問題について考えます。
追記:逃走から58時間の時間をかけ、容疑者男性の身柄が確保されました。<和歌山射殺>立てこもり容疑者の身柄確保:毎日新聞 8月31日(水)18時55分
さらに追記:「容疑者は現場で自分の腹を撃っており、市内の病院に搬送されたが、午後8時50分ごろ、死亡が確認された。」(<和歌山射殺>逮捕の容疑者死亡 立てこもりで自分の腹撃つ:毎日新聞 8月31日(水)21時)
■立てこもり事件のパターン
立てこもり事件には、様々なパターンがあります。たとえば、銀行強盗に入ったものの周囲を警察にかこまれて逃げられないケースや、逃亡途中の隠れ家を警察に見つかり取り囲まれたケース。これらのケースでは、犯人は何とか逃亡したいと思っています。
薬物中毒などで、犯人が冷静な判断力を失っているケースもあります。
また、何かの要求、特別な目的があって、立てこもる場合もあります。その目的は、政治的な目的もありますし、別れた妻をつれて来いといった個人的な要求もあります。
他人の家、自宅、銀行や店など様々な施設、乗り物など、立てこもる場所も様々です。近づいたら自殺すると脅す場合もあります。
今回の和歌山のケースでは、いつも銃を持ち、銃を警察やマスコミに向けたり、自分自身に向けることもあるようです。
■犯人の心理と説得と人命尊重:警察が考えること
警察は、人命尊重が第一です。人質の命はもちろん、犯人の自殺も防がなければなりません。報道では、よく犯人を説得すると表現されますが、興奮している相手には、まず落ち着いてもらうことが必要です。ここでは、説得と言うよりも、話を聞くという態度、カウンセリング的なアプローチが使われることも多くあります。
「人は一般に、自分の言いたいことを丁寧に聞いてもらい、共感を示してくれることで、心が落ち着きます。心が落ち着けば、普通は無茶なことはしなくなります」(「説得の心理とカウンセリングマインド」Yahoo!ニュース個人有料)。
立てこもり犯が絶望し、自暴自棄になって銃を乱射したり、自殺したりすることは避けなければなりません。特に立てこもり以前に殺人などを犯している場合は、要注意です。人命を守り、事件解決のためには、犯人に希望を持たせなければなりません。
冷静な犯人で明確な目的を持っている場合には、犯人との折衝、人質がいれば人質交渉が必要になりますが、この場合も、相手をねじ伏せるのではなく、相互信頼関係が基本です。
警察は、犯人の状態を調べます。薬物や政治思想、個人的恨み、本人の性格や人間関係などから、相手の行動を予想し、効果的な話し合いを模索します。
■男性を撃てば良いのか
この事件のヤフーニュースコメント欄を見ると、「もう撃て」「海外なら確実に射殺されてる」といった意見がならんでいます。たしかに、これ以上犠牲者が増えてはなりません。今までのケースでは、警官が撃たれて死亡することもありました。
しかしそれでも、日本の警察は時間をかけます。それが警察の方針であり、日本の考え方です。犯罪者(容疑者)だからといって、次々に射殺すればよいとは、私達の社会は考えていません。
大きく報道されている事件は、その事件の直接の関係者のものだけではなくなっています。
もしも、日本の警察や政府が、犯人を次々と射殺するようなことをすれば、その雰囲気は社会全体に広がる恐れがあるでしょう。たしかに警察も、発砲や強行突入を行います。ただし、それは全ての努力を行い、そして今はこの方法しかないと考えられる最後の手段としての行為です。
もちろん断固とした態度、強硬手段が必要なときはあります。同時に、私達の社会は、時間をかけ、命を大切にする社会なのです。それは、良い社会なのだと思います。