バルサは”前進”しているのか...大型補強と「カンテラ重視」の哲学に生じる矛盾。
再建には、時間が必要かもしれない。
リーガエスパニョーラが開幕した。バルセロナは開幕節でラージョ・バジェカーノを相手にスコアレスドロー。第2節でレアル・ソシエダに勝利して、5位に位置している。
■敢行された大型補強
バルセロナは今夏、大型補強を行った。1億5300万ユーロ(約214億円)を補強に投じて、6選手を引き入れた。
一方、選手の放出には苦しんでいる。サミュエル・ウンティティ、ピエール・エメリク・オーバメヤン、メンフィス・デパイ、セルジーニョ・デストらが放出候補に挙げられており、現在クラブは彼らの移籍先を探している。
また、ここまで放出した選手で、売却益を出せたのはフィリップ・コウチーニョ(アストン・ヴィラ/移籍金2000万ユーロ)、フェラン・ジュグラ(クルブ・ブルージュ/移籍金500万ユーロ)くらいである。端的に言えば、収支のバランスが悪いのだ。
一方、バルセロナはこの夏にテレビ放映権の一部を売却している。テレビ放映権の25%を25年間にわたり譲渡することで『シックスス・ストリート』と合意。代わりにおよそ5億270万ユーロを得た。また、バルサ・スタディオの49%を売却して、2億ユーロの資金を手にしている。
■敏腕CEOの辞任
バルセロナは昨季途中にフェラン・レベルテルCEOが辞任した。個人的で家庭的な事情によってクラブを離れたとされるレベルテル氏だが、実際は『スポティファイ』のスポンサー招致をめぐりジョアン・ラポルタ会長と意見が対立していたといわれている。
レベルテル氏は財政に強い人物だった。バルセロナに来てから、デロイト社に依頼してデューデリジェンスを実施。この数年の収支を徹底的に洗い出して、今後の見通しを明らかにした。「たられば」になるが、レベルテル氏が残っていたら、バルセロナのテレビ放映権の一部売却はなかったかもしれない。
レベルテル氏が去り、ラポルタ会長の「プレジデント主義」に拍車がかかった。
現代フットボールにおいては、カタールやUAEの資本が入り、実質上の「国家クラブ」となったところが力をつけてきている。マンチェスター・シティ、パリ・サンジェルマンなどはその典型だ。
そのような状況が、ラポルタ会長のプレジデント主義を加速させているのかもしれない。クラブを象徴するような存在でなければいけない、という想いが強くなるからだ。実際、先述した『バルサ・スタディオ』の24.5%分は、オルフェス・メディアに売っており、その代表であるハウメ・ロウレス氏は2000年にフロレンティーノ・ペレス会長が会長職に就いた際にレアル・マドリーに投資を行った人物である。ラポルタとペレス、いまやこの2人の会長の振る舞いは非常によく似てきている。
これはラポルタ会長にとって、2度目の政権だ。第一次ラポルタ政権(2003年―2009年)では、輝かしい実績を残した。2度のチャンピオンズリーグ制覇を筆頭に、リーガエスパニョーラ(優勝4回)、コパ・デル・レイ(1回)、スペイン・スーパーカップ(3回)、UEFAスーパーカップ(1回)、クラブ・ワールドカップ(1回)と12個のタイトルを獲得した。
ペップ・グアルディオラ監督の就任、リオネル・メッシの成長と爆発。2人の天才の邂逅があったとは言え、それだけではなかった。
とりわけ、カンテラーノを重宝して、試合に勝ち続けるスタイルは世界中の尊敬を集めた。シャビ・エルナンデス、アンドレス・イニエスタ、カルレス・プジョール、ジェラール・ピケ、セルヒオ・ブスケッツ、ビクトル・バルデス、ペドロ・ロドリゲス...。彼らがグアルディオラ監督の指揮下で躍動する姿が、バルセロニスタの、また世界中のフットボールファンの心を打った。
ビジネスモデルとしても、理にかなっていた。基本的には、自家栽培の選手であるので、獲得に移籍金は必要ない。メッシ、シャビ、イニエスタ、ブスケッツ級の選手を移籍金ゼロで補強していたと思えば、そのコストパフォーマンスは計り知れない。
大型補強自体は否定されるべきものではない。だが、ラ・マシア(バルセロナの育成寮)を大事にする、という信念を捨ててしまっては本末転倒だ。
テレビ放映権の問題にせよ、性急に過ぎる。資金が必要なのは自明だが、見方によっては、それは未来からの借金である。対して、カンテラの選手を育成する、というのは時間がかかる。すぐに結果を求める時、打てる一手ではない。
バルセロナは、このジレンマに襲われている。しかしながら「メス・ケ・ウン・クルブ(クラブ以上の存在)」を謳うバルセロナだ。どちらに行くべきなのかは明確である。2022−23シーズン、この1年ではなく、未来を賭けた勝負が待っている。