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石破氏は自民党総裁選に向けて公開で尋ねた「3つの質問」にどのように答えたか?

西田亮介社会学者/日本大学危機管理学部教授、東京工業大学特任教授

 2018年8月21日に、構想日本主催第247回J.I.フォーラム「考えることの多い総裁選」が開催され、自民党総裁選を控える石破茂氏におよそ90分にわたって公開で質問する機会を得た。それに先立って、以下の3つの質問をまとめておいた(上記動画はイベント全編のアーカイブ)。

自民党総裁選に挑む石破茂氏に、いま聞きたい3つのこと(西田亮介)- Y!ニュース

https://news.yahoo.co.jp/byline/ryosukenishida/20180818-00093545/

 当日は100人を超える集客と、地上波、新聞各社の石破番の政治記者たちで随分混雑するなかでフォーラムは開催された。ニコニコ生放送でも生放送されたようだ。当初2時間のイベントだったが、自民党総裁選を控えて多忙を極める石破氏は開始5分前に到着し、1時間で次のイベントに移動しなければならないことを告げた。すでに5つのイベントや対談を終え、このフォーラムが6件目だという。いささか食傷気味な感は否めず、視線すら一切あわない。これまで幾度か与野党の国会議員と公開での仕事をしたことがあるが、少し珍しいタイプともいえる。

 石破氏の安全保障論や憲法改正論は、本人の著書、新聞、テレビ各社等々至るところで大きく取り上げている。同じ話を繰り返すのに、飽きていたのかもしれない。いずれにせよ、意味があるのは「ほかで聞けない石破の考え」を引き出すことだ。上の「3つの質問」もその意図のもと作られている。

 こちらも仕事の都合で10分前の入りだったため打ち合わせの時間もなく、そういう雰囲気にもならなかった。時間の制限もあるから、ぶっつけ本番である。改めてだが、3つの質問とは、詳細は先エントリを見てほしいが、要するに「将来社会のビッグ・ピクチャー」「政策(主張)の整合性」「教育研究について」であった。シンプルにひとつずつ尋ねていくことにした。ただし、一般に政治家は持論を展開し始めると止まらない。質問とは関係ないことを延々話しがちだし、なにより長い。そこで補助線を引いてみることにしたが、これがあたったような外れたような結果を引き出した。

 補助線とは、「経済成長(を目指す)か、縮小か」「グローバル重視か、ドメスティック重視か」をかけあわせた四象限で、現状の政治と自身の主張を位置付けてほしいというものだった。以下、やり取りの詳細は上記の動画アーカイブを参照してほしいが、石破氏はこれに対して「区分の意味もない。人口減少が既定路線。100年後の日本の存続と安心が重要で、楽観的なビッグ・ピクチャーも必要ない」といきなり一蹴する。

 

 さすがに、こちらも石破氏に火をつけていくことにした。「現状分析的でまるで学者のようだ。政治家ならなにか将来に向けた総合政策はないのか」と切り返し、その後も各所で政策の細部に言及しながら畳み掛けていくことにした。石破氏は「各論の積み重ねの先に、100年後も存在する日本がある。楽観論は必要ない」と主張する。こちらが言及する政策の詳細には反応する。

 政策の整合性について、もっともわかりやすいのが、かねてからの石破氏の主張である財政再建と、地方創生だ。こちらの質問は「消費税増税は必ずしも累進性があるとはいえず、消費税増税は経験的にはかなり消費に冷水をかける。都市と地方では収入に格差がある。整合性がとれないのではないか」というものだ。石破氏は地方が「自ら稼ぐ構造」をつくれば対応できるという。ただし、後半で生活保護をどう考えるのかということを筆者が質問するところとあわせて聞いてほしいのだが、「財政再建ありきではなく、社会保障と両立させるべき」と言及し、生活保護について、引き締めるばかりではいけないと述べる。

 また石破氏の地方創生についての最近の志向は、周知不足と住民自らが担うということに主眼が置かれていることが繰り返される。地域の現状について広く住民に認知させ、自ら地域の担い手になり、稼ぐ(≒納税する?)、そして生涯にわたって稼ぎ続ける主体になることこそが重要だというのだ。関連して石破氏の政治生活の原点でもあり、過去の著書などでも展開される長年の持論でもある「お任せ民主主義からの脱却」について繰り返し言及があった。ただし、それらがどのような道筋や政策によってなされるのか、いま現実として政治や行政、地域に無関心な態度を見せる人々を変えていくのかという点については幾度か質問を重ねてみたが、必ずしも明確にはならなかった。

 教育についてはどうか。事前の筆者のリサーチでは、石破氏と水月会の近著『石破茂と水月會の日本創生』を紐解いても、給付型奨学金と高専の活性化についての言及が水月会のメンバーによってなされるばかりで、その他の石破氏の著作等でも教育についての言及は管見の限りほとんどなされない。そこで「日本の高等教育の良さのひとつは各地方にも様々な学部があって選択肢が豊富にあったことだが、近年実用系学部への再編という名の下予算削減と選択肢の削減がなされている。どう思うか」と説明を挟みながら、問うてみた。石破氏はまず自身の経験でもある慶應義塾高校の良さ、すなわち将来を考える時間があったことから高大接続、そして生涯教育の重要性に触れた。その後、控えめだが、必ずしも予算削減と実用系学部に政策的に収斂させるべきではないと口にした。

 ニコ生コメント、会場との質疑応答で興味深かったのは、沖縄の基地問題、すなわち普天間から名護への基地移設についてと、憲法改正を通じた緊急事態条項と参議院の地域代表的性格の強化だろうか。沖縄の基地問題についてはかなり注意深く、言葉を選びながら「ワーストではない」とした。日米安保と地位協定のなかで米軍基地移設の主導権を事実上持てないなか、安全上の問題を否定できない普天間から名護への移設はワーストとはいえないということだろう。前後の文脈からは、本土も一体となった基地負担軽減策の必要性について主張しているようにも感じられた。緊急事態条項の機能は、筆者の認識としては現行憲法と立法のもとで実現できる/できているのではないかという疑問も残ったが、厳格な日数制限と損害の政府補償を明示するという原理主義的提案はさもありなんと思えた。

 それらに比べると、参院の制度改革はやや苦しく聞こえた。石破氏は「カーボンコピー的な二院があっても仕方がない。一票の格差もさることながら、地域の意見が国政に取り入れられる必要もある。だったら、憲法で参院の地方代表的性格について書き込み、各都道府県単位での議席を保証すべきだ」という。だが、一票の著しい格差については最高裁の違憲判決がある。またそもそも現状でさえ、都市と地方ではすでに地方の一票のほうが重たいという問題と、都道府県単位での議席の割付が一票の格差解消の弊害であることはよく知られているだけに、あまり説得力を感じなかった。

 他にも多くの論点への言及がなされたが、最終的に石破氏はおよそ90分にわたって滞在し議論を続けた筆者の印象は「もったいない」というものだ。共感できる部分もあれば共感できない部分もあるが、石破氏からはやはりこだわりと原理主義、政策へのこだわりを強く感じた。その一方で、「わかりにくさ」と、関連したリップサービスの不足を感じる。石破氏は「それでよい」というのかもしれないが、やはり一般的な生活者には日常生活があり、やはり現代の断片化したメディア環境のもとでは「わかりやすさ」が不可欠だ。それがなくてはマスメディアにものらないし、ネットでも読まれないだろう。難しいものはそれだけで避けられてしまいがちだ。各論を束ねるビッグ・ピクチャーがあったほうが石破氏の主張が伝わりやすく思えるのだ。

 政策至上主義や「正直、公正、石破茂」は石破氏の持論にこそ通じるが、政治の内的課題を取り扱っているだけに、自民党総裁、つまり現状の将来の総理が掲げる旗印としては生活者には物足りなく思えてしまうのではないか。総裁選も含めて、多くの選挙が相対評価であるなら、なおさらだ。公開討論は石破氏に有利といわれるが、実際のところマスメディアのカメラを前にして、相当に時間を制限された環境の下で単に印象だけを問うなら、むしろこの間マスメディアを前にした振る舞いに過剰なまでに長けた安倍氏が有利なのではないか。自民党総裁選の日時が9月7日告示、20日投開票と決まり、総裁選は本格化する。投票こそできないものの結果は広く国民を拘束するだけに、その過程が広く生活者に見えるかたちで実施されることを強く期待したい。

 もうひとつ気になったのは、石破氏の主張が石破氏との意図とは無関係に野党の主張と重複する部分があり、自民党内の「非安倍路線の現実的オプション」として広く認知されることで、野党がますます埋没し、結局自民党一党優位の状況を固定化するのではないかという点だ。これは石破氏の戦いの行方を見ながら、主に野党が考えるべき主題かもしれない。

社会学者/日本大学危機管理学部教授、東京工業大学特任教授

博士(政策・メディア)。専門は社会学。慶應義塾大学総合政策学部卒業。同大学院政策・メディア研究科修士課程修了。同後期博士課程単位取得退学。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科助教(有期・研究奨励Ⅱ)、独立行政法人中小企業基盤整備機構経営支援情報センターリサーチャー、立命館大学大学院特別招聘准教授、東京工業大学准教授等を経て2024年日本大学に着任。『メディアと自民党』『情報武装する政治』『コロナ危機の社会学』『ネット選挙』『無業社会』(工藤啓氏と共著)など著書多数。省庁、地方自治体、業界団体等で広報関係の有識者会議等を構成。偽情報対策や放送政策も詳しい。10年以上各種コメンテーターを務める。

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