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日本風を売りにしたメイソウ、浴衣や着物、中国で「日本関連」が次々と炎上する背景にあるもの

中島恵ジャーナリスト
メイソウの店舗(写真:ロイター/アフロ)

8月18日、中国で雑貨品などをチェーン展開する名創優品(メイソウ、MINISO)が、2023年3月末までに『脱日本化する』と宣言、これまで日本風を売りにした戦略だったことを消費者に謝罪する、という異例の出来事があった。

他にも着物など「日本関連」の出来事がSNSで炎上するなど、このところ中国では、日本に関して不穏な空気が流れている。

毎年、反日的な空気が強くなる時期

名創優品(以下、メイソウ)が突然、公式に謝罪した理由は、同社のスペインの代理店がSNSでチャイナドレスを着たフィギュアを紹介する際、「日本の芸者」と間違って表記したことがきっかけだ。

これを見た中国人消費者がすぐに指摘したが、スペイン側で迅速に対応しなかったことから批判が殺到、SNSで炎上した。

同社は「消費者の感情を損なった」と謝罪し、スペインの代理店との契約解除を発表。日本風の要素を払拭するという「脱日本化」を明言した。わざわざ「脱日本化」を公式に発表する背景には、台湾問題などを巡る日本政府への対応に不満を感じている中国人が多く、反日的な空気が漂っていることが関係している。

同じく今月、蘇州市で浴衣を着ていた中国人女性を警察官が怒鳴りつけ、連行して尋問した事件や、7月に南京市など各地で日本風の夏祭りが相次いで突然中止に追い込まれるといった出来事も起きている。

浴衣を着たり、夏祭りをしたりしたいという人は、ただ無邪気にそれを楽しみたいだけであり政治的意図はない。それなのに、SNSで「日本の文化侵略だ」などと猛批判にあったことがきっかけで、このような炎上騒ぎになった。

このような状況は、ちょうど10年前の2012年9月、中国各地で大規模な反日デモが起きたときのことを彷彿とさせる。

10年前は尖閣諸島など領土問題などが直接の要因だったが、9月18日(満州事変の発端となった柳条湖事件が起きた日)が近づいている時期でもあり、現在、「日本関連」は中国人の国民感情に火をつける「導火線」になりやすい状況となっている。

メイソウは世界的企業になったものの……

だが、メイソウの場合はもうひとつ、同社設立の経緯にも深く関係しているという「ややこしい問題」があり、その問題がさらにナショナリズムが高まる中国の若者の感情を逆なでし、物事を複雑にしているという面もある。

メイソウは2013年、広東省広州市で設立されたが、店舗の看板には日本語のロゴが使われ、内装やイメージも日本の100円ショップ「ダイソー」や衣料品大手の「ユニクロ」にそっくりだった。

商品展開も当時は10~20元(現在のレートでは200~400円)という低価格のもので、品ぞろえは日本の100円ショップと見間違う。日本を訪れたことのある中国人ならば「日本のダイソーが中国に進出したのだろうか?」と錯覚し、喜んで買い物をするような店づくりだった。

同社自体も当初、まるで日本発の企業であるかのように装い、それを売りにしたことから中国で急速に人気を獲得していった。

同社の設立当時(2013年)、日中のGDPはすでに逆転していたものの、まだ一般の中国人が簡単に日本旅行にいける状況ではなく、中国人の間に「日本風」への強い憧れがあったため、そのことを利用したのだ。

その後、同社は国内外に急速に店舗を増やし、2022年3月末時点で、世界99ヵ国・地域に5113店舗をオープンさせるなど、大成功を収めている。すでに中国では日本語のロゴもなく、日本風を意識させるような店づくりは行っていない。押しも押されもしない、中国を代表する雑貨チェーンにのし上がった。

「日本風」に対する若者の忸怩たる思い

だが、今回、海外店舗のSNSがチャイナドレスを「日本の芸者」と誤表記したことに若者が怒ったのには、スペイン側が誤解したこと自体「中国を侮辱・軽視している」という理由があるが、それ以外にも理由があるように筆者には感じられる。

ひとつは、「メイソウ(中国企業)はこれほどの大企業になったのに、海外ではチャイナドレスを来た女性(のフィギュア)を芸者と表記する程度の認識なのか?」といった「中国企業が世界では尊重、認識されていない」ことへの不満があるだろう。

こうした不満は、日本風とは関係なくとも、中国を代表する他のグローバル企業への世界の評価に対してもあるかもしれない。

もうひとつは、メイソウの当初の戦略(日本的なイメージなら中国人が飛びつく)に自分たちもまんまと乗ってしまったことへの忸怩たる思いではないだろうか。

パクリは負の歴史

今の中国の若者は「パクリ」への意識が高く、「パクリ」を嫌悪する風潮がある。かつて中国企業は多数の「パクリ」を行ってきたが、そのことを自分たちの国の「負の歴史」と捉え、恥ずかしいことだと感じている。

しかし、当初、よくわからなかったこととはいえ、自分たちも「日本風を装った店」に喜んでいってしまった。さらに、そのことをきっかけにして店は拡大し、世界的な企業になった。

同社は世界戦略を進めた数年前から、ひっそりと店舗から「日本風」を消し去ろうとしてきたが、いまだに海外では「日本と区別がつかない」人が多いという有り様だ。

自業自得、身から出たさび、という声もあるが、そうしたいくつかの意味での悔しさや不満、自己嫌悪のようなものが若者たちの心の中にあり、怒りの心情の背景に隠れているような気がしてならない。

米中対立や台湾問題などで、中国人の「中国人意識」や「愛国的な雰囲気」はかつてないほど高まっているが、背景は非常に複雑だ。直接「日本」と関係がなくとも、どこで導火線に火がつくかわからない状況となっていることに変わりはない。

ジャーナリスト

なかじま・けい ジャーナリスト。著書は最新刊から順に「日本のなかの中国」「中国人が日本を買う理由」「いま中国人は中国をこう見る」(日経プレミア)、「中国人のお金の使い道」(PHP新書)、「中国人は見ている。」「日本の『中国人』社会」「なぜ中国人は財布を持たないのか」「中国人の誤解 日本人の誤解」「中国人エリートは日本人をこう見る」(以上、日経プレミア)、「なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?」「中国人エリートは日本をめざす」(以上、中央公論新社)、「『爆買い』後、彼らはどこに向かうのか」「中国人富裕層はなぜ『日本の老舗』が好きなのか」(以上、プレジデント社)など多数。主に中国を取材。

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