『IPPONグランプリ』チェアマン代理・バカリズムの大喜利解説、情景や感情が浮かぶ「分かりやすさ」
2月3日、大喜利のチャンピオンを決めるバラエティ特番『土曜プレミアム IPPONグランプリ』(フジテレビ系)が放送され、決勝戦で秋山竜次(ロバート)が川島明(麒麟)を下して第29回大会の頂点に立った。
今大会で10名の回答者であるプレーヤーとともに注目を集めたのが、チェアマン代理をつとめたバカリズムの存在だ。普段であれば回答席に座っているバカリズム。だが今回は、チェアマンの松本人志(ダウンタウン)の芸能活動休止を受けて大役を担うことになった。
慣れない役回りを担当したバカリズム。だが、戦況を見守りながらはさみ込む解説の数々の「分かりやすさ」がすばらしかった。大喜利は主に、フリップに文字を書いて回答が出されるものである。バカリズムの解説や補足は、その回答の情景やそのなかに込められた感情が浮かぶような内容が多かった。
チェアマンのTシャツの着用をやんわり拒否、自分の“型”にこだわったバカリズム
番組冒頭、黒いスーツに黄色のネクタイをしめたバカリズムは「『松本さんが着ていらっしゃるTシャツ、どうしますか』と言われたんですけど、あくまでも代理ですし、冬なんで。着てられるかって。寒いだろう!」と冗談をまじえながら着用を拒んだことを明かした。むしろこのエピソードも「松本人志が来ていたTシャツ、どうする?」という大喜利の答えのように感じられた。そしてこの時点で、バカリズムが自分の“型”で番組を進めようとしている印象を受けた。
そのあとあらためて『IPPONグランプリ』について説明。バカリズムは「やることはいつもと変わりません。お手元のフリップにおもしろい答えだけを記入してもらえれば」「くれぐれもおもしろい答えだけを。おもしろい答えを書くという契約でみなさんここに来てらっしゃる」と、やさしい口調でプレーヤーたちに発破をかけた。これも『IPPONグランプリ』で最多の優勝6回を誇る“現役最強”のバカリズムによる、松本人志とはまた違ったプレッシャーのかけ方となった。
一方「おもしろければ良い」という『IPPONグランプリ』のシンプルな趣旨を視聴者にもあらためて認識させてくれた。この点でもバカリズムの進行の「分かりやすさ」が伝わってきていた。
堂前透の回答に対するバカリズムの補足解説「同じ型でね、品番だけ違うというね」のすごさ
大喜利が始まってからのバカリズムのリアクションや解説も、当然ながら松本人志とは大きく異なる雰囲気に。
たとえばAブロックの1問目のお題「アホなフリして芸能界のことを聞いちゃって下さい」で、堂前透(ロングコートダディ)が「毎年、毎年、定期的に一定のリズムでハーフタレントさんが出てくるんですけど、どこかに工場があるんですか」と回答。そこでバカリズムはさりげなく「同じ型でね、品番だけ違うというね」と読み解いた。そしてその「補足解説」があったことで、多くの視聴者の頭には、ハーフタレントが製造されている工場の光景が浮かんだのではないだろうか。
同じくAブロックの「写真で一言」のお題で、大勢の人が回転アトラクションに乗る写真を見て川島明が出した回答「みんなで一斉に取った有給休暇」に対しても、バカリズムは「よっぽど楽しい思い出だったんだろうなぁ」としみじみ。Bブロックの「写真で一言」での中年男性3人の写真に対する博多大吉(博多華丸・大吉)の「チャンネル登録お願いします」には、「つまんなそうだよな」とポツリ。バカリズムの「補足解説」で、前者回答ではこちらまで「あのときは楽しかったな」と思い出に浸るような感じになり、後者回答はこの中年男性3人のYouTubeチャンネルの登録者数や再生数の少なさを思い描くことができた。
なかでもバカリズム節が光ったのは、Bブロックのお題「一人称が「うち」の人が言いそうな事を言って下さい」。箕輪はるか(ハリセンボン)の「なんでやろね、うち、こんな苦い甘栗はじめてや…」という回答やその口調に対して、バカリズムは「朝ドラ感がある」とうなった。バカリズムのこの一言が加わっただけで、まさに朝ドラのヒロインが寂しそうに甘栗を食べる姿が想像できた。
小説、脚本などを多数手掛ける作家の顔を持つバカリズムとあって、大喜利解説であっても、その回答から情景や感情を連想させる言葉選びの巧さ、的確さが目立った。なによりバカリズムが解説や補足することで、フリップに書かれた回答から物語が編み出されていくようだった。
戦いの流れの読み方、回答の良し悪しについての分析も膝を打つ内容ばかり
もちろん現役バリバリの大喜利プレーヤーとあって、戦いの流れの読み方、回答の良し悪しについての分析も膝を打つような内容ばかり。
Aブロックのドラム大喜利のお題「面白くなさそうなアプリのCMに出てきそうな芸能人 第1位は?」の田中卓志(アンガールズ)の回答「長州力」に、バカリズムは「ちょっと逃げた感じがした。ちょっと安全なところへいった感じでしょうね。それを審査員が瞬時に嗅ぎ分けたんでしょうね」と話し、同ブロック最後のお題「この時代「節分」で鬼に豆を当てるのがコンプライアンス的にまずいです どう対処する?」で田中卓志と接戦を演じた川島明が長文回答を出して振り切った際には、「この局面であの長い文章を出せるのはハートですよ」と勝因を説明した。
川島明と秋山竜次の決勝戦でのお題「1対1の戦闘で「フッフッフッ それは残像だ」よりも相手がビビることを言って下さい」では、「川島さんは良い声でおもしろくするでしょうし、秋山さんは演技でおもしろくする」と二人の特性から展開を予想。その解説も、視聴者的には「なるほど、そこに注目したら良いのか」と気を向けさせる内容だった。
チェアマンである松本人志は、プレーヤーの回答を見て「まあそうなるよね」「うん、そういうことやねんけど」という風な感覚的な言葉を多用しがちだった。お笑いの天才らしく、自分自身の頭のなかでいろいろ理解した上での解説であるように思えた。一方、バカリズムはどちらかというとお題への対策、回答の傾向などを説明するタイプ。松本人志の解説が「神の一言」であれば、バカリズムの解説は「読み聞かせ」みたいである。
今回の『IPPONグランプリ』では、大喜利解説の色合いの違いにもおもしろさがあることに気付かされた。そしてなによりバカリズムの解説の分かりやすさに感心させられた。