【WBC】14年前、栗山監督から単独取材を受けた金廣鉉が日韓戦に先発 「あの日のこと覚えています」
ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で日本と韓国が最後に対戦した2009年、日本のスポーツキャスターが韓国の若きエースに単独インタビューを行った。そのインタビュアーは栗山英樹。現在WBCを戦う野球日本代表・侍ジャパンの栗山監督だ。
そして、取材を受けた韓国の投手はキム・グァンヒョン(金廣鉉)。長きにわたりリーグを代表する左腕として君臨し、メジャーを経て34歳になった現在も代表入りしている。
そのキム・グァンヒョンが3月10日の日本対韓国に先発登板することになった。14年前、取材者と取材対象者だった2人が、対戦チームの監督、選手として国際大会のグラウンドに立つ。
2009年初春。前年の北京オリンピック(五輪)で日本戦に2度先発し、5回1/3自責点1、8回自責点1と好投したキムは第2回WBCを目前に控えたその頃、日本でも時の人だった。韓国は金メダル、日本はメダルなしの4位で終わった北京五輪。日本にとってキム・グァンヒョン攻略こそがWBC連覇の第一歩と考えられていた。
報道ステーション(テレビ朝日)の取材でSKワイバーンズの高知キャンプに訪れた栗山に、キムはこう話した。「僕の一番の武器はスライダーです」。五輪日本代表の打者たちはキムの速く低めに落ちるスライダーに翻弄され、「日本の投手では見たことがない球の軌道」、「キムのスライダーは消える」と表現していた。
今年2月、アメリカ・アリゾナ州の韓国代表キャンプ。キムに栗山との対話について尋ねると、「あの日のことはよく覚えています」と言ってその時のことを振り返った。「インタビューの前に受けたノックが、とてもきつかったんです」。
当時のSKの監督は「世界一練習時間が長い」ことで知られたキム・ソングン(金星根)。同監督はテレビの取材が来るとノックバットを手にし、地を這う鋭いゴロを放って選手を鍛えるのが常だった。
20歳のエースがその日受けたノックは300本。ノックが終わり腰を曲げて膝に手をつくキムに、加藤初、山本一彦、キム・サンジンの3人の投手コーチが心配そうに駆け寄った。それを見た栗山は「やらせる監督もすごい。だって(キムが)壊れたら困るもん」と口にした。
SKには栗山と同い年の正田耕三がコーチとして在籍。栗山は正田を見ながら番組ディレクターにこう言った。「正ちゃん(正田)すごいな、海外のチームで選手を教えていて。なあオサム(ディレクター)、俺も指導者をやって勉強しなきゃダメかな?」。
その3年後、栗山が監督になり10年間も日本ハムを率いた後、日本代表の指揮官になるとはおそらく本人も想像していなかっただろう。
今大会のキムの役割は「大事な場面のリリーフ役」。しかしキムは「本当は先発したい」とこぼしていた。9日のオーストラリア戦では勝ち越した場面での抑えとして投入が予定されていたが、試合は7-8で敗戦。出番がなかったことでキムに急遽、日韓戦の先発が回ってきた。
14年前、栗山の「もしまた日本戦に登板することになったら?」の問いに、「全力でプライドをかけて投げる」と話したキム。その2人が時を経て再び顔を合わせる。
(敬称略。筆者は2人の対面時、取材協力と通訳を務めた)
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