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「サメ」研究の最前線:ドローンで生態を、AIで警報システムを

石田雅彦科学ジャーナリスト
(写真:アフロ)

 動物行動学の分野でもドローンが活用され始めているが、サメの生態研究や警報システムの開発研究でもドローンは重要なツールになっている。最近、発表された論考からサメ研究の技術的な最前線を紹介する。

ドローンによるサメの観察

 保護されていない公海上のサメは、そのほぼ半数が絶滅の危機にさらされている。しかし、サメの生態は、観察が難しいことやその種類の多さもあってなかなか研究が進んでこなかった。

 小型の無人飛行ロボットであるドローンは、アクチュエータ(浮上装置)やリチウムイオン電池の性能向上と軽量化、センサーによる姿勢制御技術の発達などによって操作が簡単になり、価格も手頃になったことで野生生物の生態、観察研究でも広く使われるようになっている。最近、オーストラリアの研究グループが、サメの研究に使われるドローンについて論考を発表した(※1)。

 この論考では、いわゆる複数のローターのドローン、グライダーのような固定翼のドローン、水中ドローンなど、米国とオーストラリア、大西洋、アフリカといった世界32海域のサメ研究で使われているドローンを紹介しているが、残念ながら日本での研究は取り上げられていない。もちろん日本でもウミガメの追跡に水中ドローン(海中ロボット)を使う研究(※2)などが行われている。

 ドローンを活用したサメの研究では、個体ごとの基本的な振る舞いや動き、集団や他の種との社会的な相互作用、捕食行動などについて観察する。それによってサメの生態研究だけでなく、保護やヒトとの偶発的な接近遭遇による事故を防ぐことも目的にしているのだという。

 サメに接近して観察するのには、サメ自体からの脅威もあるが、海洋という過酷な環境で大きな危険がともなう。ドローンを使うことで、サメの発見、追跡、観察が容易になり、研究者を危険にさらさずに研究ができるという利点があるというわけだ。

 こうして使われるドローンには、複数のローターがついた短時間飛行するいわゆるドローン、グライダーのように長時間(〜数時間)滞空できる固定翼機、そして潜水艦のような水中(海中)ドローンがあり、複数ローターのドローンは機動性が高くホバリングできるが、風が強いと不安定になり、飛行時間も数十分と短い。

 これらのドローンには静止画と動画を撮影するカメラ、センサー、データ送信機が搭載され、遠隔や自律でデータを収集する。もちろん、遠隔で操縦するドローンの場合、沿岸でドローンを視認できる場所に限られ、各国・各地域によって航空法などの法的規制があることが多い。

AIでサメの種類を検知

 水中(海中)ドローンには大きくAUV(Autonomous Underwater Vehicle、自律型無人潜水機)とROV(Remotely Operated Vehicle、遠隔操作型無人潜水機)がある。どちらもサメの観察研究では海水の透明度、海流、天候などが大きく影響する。

ドローンを使ったサメの観察、研究の例。(a、b)はヒトへの事故を防ぐプログラム、(c)はシュモクザメなどの漁業の利用、(d)はザトウクジラの死骸を食べるイタチザメ、(e)はシュモクザメの生態観察、(f)は5メートル上空から干潟で観察されたテンジクザメの一種。Via:Paul A. Butcher, et al.,
ドローンを使ったサメの観察、研究の例。(a、b)はヒトへの事故を防ぐプログラム、(c)はシュモクザメなどの漁業の利用、(d)はザトウクジラの死骸を食べるイタチザメ、(e)はシュモクザメの生態観察、(f)は5メートル上空から干潟で観察されたテンジクザメの一種。Via:Paul A. Butcher, et al., "The Drone Revolution of Shark Science: A Review" drones, Vol.5, Issue8, 2021

 ドローンを使うことで、ホホジロザメがアザラシなどを捕食する生態、他のサメを捕食するシュモクザメの捕食行動、個体同士の振る舞いなどの集団行動とその数値化、クジラの死骸に群がるスカベンジャー(腐肉食)的行動、生殖行動、遠洋での行動、サンゴ礁でのサメの種類の分布といった観察ができるという。

 また、空中からサメを観察するドローンでは、海水浴場やサーフィンに適した海域でサメによる事故を防ぐことに使われることも多いようだ。これまでの研究では、ドローンによるサメの発見は有人ヘリコプターとほぼ同じという。

 ドローンではデジタル・カメラ以外、異なる波長帯の電磁波を画像として記録するマルチスペクトルセンサーも使われるようになってきているが、この技術による観察は未発達のようだ。

 一方、AI(人工知能)を使った検出技術は格段に進歩しつつあり、わずかな濃淡を利用して上空から海中にいるサメを探知して警報を発したり、ホホジロザメのヒレの形から個体識別したりすることができるようになっている。

 この論考によれば、AIの強化学習を使ったサメの検知は今後も精度を増していくとしているが、危険な種類のサメを区別して警報することでサメによる事故を未然に防ぐことができるようになる。また、画像データによるAIの強化学習では、研究目的ではなく飛ばされたドローンの偶発的なデータを利用することも可能という。

 格段に進歩しつつあるドローンの技術は、様々な分野に応用できる。この論考によれば、今後は空中や海中のドローンを組み合わせることで、サメなどの野生生物に対する理解が深まり、その保護や資源の管理にも役立てることができるとしている。

※1:Paul A. Butcher, et al., "The Drone Revolution of Shark Science: A Review" drones, Vol.5, Issue8, doi.org/10.3390/drones5010008, 2021

※2:Toshihiro Maki, et al., "Tracking a Sea Turtle by an AUV with a Multibeam Imaging Sonar: Toward Robotic Observation of Marine Life" International Journal of Control, Automation and Systems, Vol.18(3), 597-604, 2020

科学ジャーナリスト

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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