Yahoo!ニュース

『半沢直樹』の「休止」は、初めてじゃなかった!?

碓井広義メディア文化評論家
(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

快進撃を続けている、日曜劇場『半沢直樹』(TBS系)。ところが、6日(日)の放送は「お休み」なんですね。代わりの「生放送」なるものがあるとはいえ、すっかり視聴習慣化している人にとっては、やはり寂しいのではないでしょうか。

この「一回休止」のことを知って、思い出したのが7年前の『半沢直樹』第1シーズンです。

とても暑かった2013年の夏。『半沢直樹』の第1話が放送されたのは7月7日のことでした。いきなり19.4%という高い視聴率でスタートし、第2話21.8%、第3話22.9%、第4話27.6%と順調に数字を伸ばしていきました。

銀行、そして金融業界が舞台の話となれば、背景が複雑なものになりがちですが、『半沢直樹』は物語の中に解説的要素を組み込み、実にわかりやすくできていました。

銀行内部のドロドロとした権力闘争やパワハラなどの人間ドラマをリアルに描きつつ、自然な形で銀行の業務や金融業界全体が見えるようにしていた。「平易」でありながら、「奥行」があったのです。

また、銀行員の妻は夫の地位や身分で自らの序列が決まります。半沢直樹(堺雅人)の妻・花(上戸彩)を軸にして、社宅住まいの妻たちの苦労を見せることで女性視聴者も呼び込みました。

8月11日放送の第5話で、視聴率は29.0%に達します。この頃、すでに『半沢直樹』は堂々のブームとなっていました。

ところが、なんと次の日曜日、18日は『半沢直樹』を放送しないというじゃないですか。しかも、その理由が『世界陸上』です。

「独占生中継」という、局としての編成上の事情とはいえ、このタイミングで『半沢直樹』を1回休むのはもったいないという声、当時多かったですね。時間をズラして、『半沢直樹』を放送する手だってあるだろうと。

しかし、結果的には視聴者の飢餓感を刺激し、また話題のドラマを見てみようという、新たな層も呼び込むことになったのです。1週空けた形で8月25日に第6話が放送されたのですが、視聴率は休止前とまったく同じ、29.0%というハイスコアでした。

今回の「休止」の背景は、前回とは異なります。新型コロナウイルスの影響が撮影現場に及んでいるからです。

見る側も、そのあたりは重々承知しているので、『世界陸上』の時のような「なんで?」感はないはずです。むしろ、「がんばれ、半沢チーム!」という応援の気持ちで待ってくれるような気がします。

大河ドラマ『麒麟がくる』の長い「休止」の際にも思いましたが、かつて長尺の映画には、上映の途中で「Intermission(インターミッション 途中休憩)」の文字が入り、一旦館内が明るくなったものです。

それは観客にとって、前半を振り返り、まだ見ぬ後半を予測し、心の準備をする愉悦の時間でもありました。

『半沢直樹』の場合は、インターミッションというより、演劇などでいう「インターバル=幕間(まくあい)」に近いかもしれません。

先週、開発投資銀行の谷川幸代(西田尚美)の粘りによって、共闘するかたちで債権放棄を拒否した半沢。このまま黙っているはずがない、政権党の箕部幹事長(柄本明)一派。ここからラストに向って、「帝国航空」をめぐる暗闘は、ますますヒートアップしていくはずです。

来週には再び幕が上がります。舞台の上には市川中車(香川照之)も、市川猿之助も、片岡愛之助もいるのですから、歌舞伎座の「大向こう(おおむこう)」から声を掛けるような心づもりをして、しばし待ちましょう。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

碓井広義の最近の記事