「つないできた時間」が、『海に眠るダイヤモンド』を特別な「日曜劇場」にする
日曜劇場『海に眠るダイヤモンド』(TBS系)から、ますます目が離せなくなっています。
やがて「廃墟」となる島で
1955年、大学を卒業した鉄平(神木隆之介)は故郷の長崎県・端島(通称・軍艦島)に戻りました。父(國村隼)や兄(斎藤工)が炭鉱員として働く鉱業会社に職員として就職したのです。
一方、2018年の東京に暮らすホストの玲央(神木の二役)は、会社経営者のいづみ(本名・池ケ谷朝子/宮本信子)と知り合い、彼女の秘書となりました。
物語は2つの時代と場所を行き来しながら展開されていますが、軸となるのは昭和30年代の「炭鉱の島」です。
鉄平、彼とは幼なじみの朝子(杉咲花)、百合子(土屋太鳳)、そして賢将(清水尋也)などの恋愛模様だけでなく、この時代を生きる人たちの「現実」と痛切な「心情」が丁寧に映し出されていきます。
戦争と原爆
たとえば、鉄平の家では20歳だった長兄がビルマで戦死しています。父は、名誉なことだと信じて息子を戦場に送った自分を、ずっと責め続けてきました。
しかも、会社の幹部の子弟は、戦争で死なずに済んでいる。「格差社会」という言葉もない時代の、理不尽な格差でした。
そして百合子は、母や姉と出かけた長崎の街で被爆しています。姉はその時に亡くなり、生き残った母も長く患った末に白血病で逝きました。
いつか自分も発症するのではないか。百合子はその恐怖を抱えながら生きてきました。戦後10年が過ぎても、彼らの戦争は終わっていないのです。
鉄平が、胸の中で問います。
「お国の偉い人たちがいつの間にか始めた戦争が、勇ましい言葉と共に国じゅうに沁(し)み込んでいった。日本は戦争に負けた。人を殺して、殺されて、たくさんの国に恨まれて、何が残った?」
経済成長の影
さらに、島での「労働争議」も描かれました。賃上げを要求する労働組合が「部分ストライキ」を起こしたのです。
完全なストだと賃金が出ません。そこで編み出されたのが、働いて賃金をもらいつつ部分的に操業を止める「部分スト」です。会社側はこれを認めず、入鉱禁止の「ロックアウト」を断行。両者は激しくぶつかりました。
このストは、全国組織である「全日本炭鉱労働組合」の指令によるものでしたが、突然中止となります。中央(東京)の上層部では、すでに話がついていたらしい。
しかし端島の組合員たちは、地域の事情への配慮もなく、横並びで動かされる自分たちの「立場」に憤ります。当時の労働現場の内実を、ここまで活写したドラマはあまり例がありません。
繋(つな)いできた時間
戦争も、原爆も、経済成長の影も、単なる「過去」ではない。それは現在と地続きになっている。
2018年に生きる朝子が言うところの「繋(つな)いできた時間」です。
それを現在の私たちは忘れているのではないか。しっかりと向き合わず、風化させているのではないか。
野木亜紀子さんの脚本には、強い「怒り」と鋭い「問いかけ」があります。
「昭和99年」である今年、このドラマが特別な「日曜劇場」となっているのは、そのためだと思えるのです。