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二大政党制は日本に向いていないのか

木村正人在英国際ジャーナリスト

日経新聞電子版が読者に聞いたところ、「二大政党制は日本に向いていない」との回答が71%を占めたそうだ。二大政党の本家本元の英国でも2010年の総選挙でどの政党も単独で過半数を取れず、第二次大戦以来初の連立政権が誕生した。米国でも民主党と共和党以外の第三極を求める声が増え、世界で二大政党を支える基盤が大きく揺らいでいるように見える。

日本の総選挙で、橋下徹・大阪市長率いる日本維新の会など「第三極」が台風の目になっている。その理由は、戦後初の二大政党間の政権交代で誕生した民主党の政権運営がひどすぎたこと、政権復帰を目指す自民党がまだ十分に有権者の信頼を回復していないことに尽きる。

衆参両院で与野党の勢力が逆転する「ねじれ国会」による「決められない政治」の原因を二大政党に求める声があるが、それは間違っている。日本の政治システムが参院に強い拒否権を認めたまま、中途半端な形で衆院に小選挙区制を導入したのが政治の混乱を生んだ最大の原因だ。

戦後、共産主義勢力に対する防波堤役を務めた日本では、自民党の一党支配が長く続き、官僚との二人三脚で高度成長を達成したが、その副作用として政策のスクラップ・アンド・ビルドが進まず、既得権や腐敗が横行する非常に非効率な仕組みが固着してしまった。

そこで政権交代可能な政治システムを実現して日本を活性化させようと、英国の二大政党をお手本に、1990年代、衆院に小選挙区制を導入したが、小政党に配慮して比例代表との並立制となった。しかも、参院には従来の選挙制度が残った。

日本は二大政党制というよりは、二大政党を軸にした複数政党制を採用したとみなすことができる。

英国では戦後、9割近かった保守党と労働党への合計支持率が2010年の総選挙では65・1%まで下がり、第三党の自由民主党が「有権者は二者択一に飽き飽きしており、第三の選択肢を求めている」(ニック・クレッグ党首)と訴えて23%を獲得した。

自由民主党は連立政権に参加、選挙公約で値上げは絶対しないと断言していた大学授業料を保守党とともに3倍に引き上げた。このため、有権者に総スカンを食って、世論調査の支持率は10%を切っている。

次の総選挙で自由民主党は全滅するとささやかれ、労働党が単独で政権に復帰、二大政党の流れに戻る可能性が強くなっている。

第三極は、日本維新の会が太陽の党との合流で主要政策がぶれ始めたように中途半端に陥る宿命にある。

米国では、民主党のオバマ大統領と共和党が泥沼の対立劇を繰り広げたため、米シンクタンク、ピュー・リサーチ・センターの世論調査(昨年6月)で実に57%が「米国には二大政党以外の第三政党が必要」と答えた。

世界経済危機の後遺症が深刻で、欧米諸国は膨大な政府債務と景気低迷に苦しみ、思い切った財政政策を打てない政治はどうしても無力に見える。それは二大政党の制度上の欠陥というより、欧米諸国を取り巻く困難な状況に主な原因がある。

英国では、移民が増え、有権者の価値観が多様化する一方で、財政に限りがあることから保守党と労働党の政策に違いを見出すのは難しくなっている。下院の党首討論では首相と野党党首が丁々発止の討論で火花を散らすものの、法案をつくる委員会では与野党は協力し合っている。

政治には制度と文化があり、英国の政治学ではプラント(植物、制度)とソイル(土、文化)に例えられる。それぞれの国にはそれぞれの政治風土があり、それに適した政治制度が発展してきた。日本の場合、明治維新、敗戦、冷戦後の政治改革でつぎはぎだらけの政治制度が移植されたが、結局、政治風土は変わらなかった。

支持基盤が崩壊した自民党と、もともと支持基盤を持たない民主党による二大政党は機能しないとの批判が米英両国の日本ウォッチャーから寄せられ、民主党政権の誕生とその後の迷走で日本では二大政党への不信感が一気に高まってしまった。

世界を見渡せば中国は共産党独裁、ロシアは事実上の一党支配、米国は完全な二大政党、英仏独が二大政党を軸にしたシステムになっている。世界の主要国が独裁か二大政党制を取るのは、複数政党による連立政権より強い政府、強力なリーダーシップを生み出すことができるからだ。

日本が衆院の小選挙区制を放棄して以前の中選挙区制に戻れば、キリスト教民主党と社会党の馴れ合い政治、政治腐敗と疑獄、ポピュリストのベルルスコーニ前首相の登場で液状化したイタリア政治と似たような状態に陥りかねない。

大不況が引き金となった先の大戦で、ファシズム、全体主義、軍国主義に惑わされず、民主主義への信念を貫いたのは二大政党制の米国と英国だった。

英国では保守党と労働党が違いを乗り越えて戦時連立内閣を組み、ナチスに対抗した。これは制度というより、危機では団結を重んじる英国の政治風土によるものだ。

日本の二大政党を機能させるために必要な改革は、一票の格差の是正と、衆院通過法案を参院が否決した場合の再議決要件を緩和し、参院には一定期間、衆院に再考を促す権限だけを付与するなどの改革である。

両院協議会を正常化させるとの提言もあるが、それだけでは衆院と参院の対立は解消されないだろう。

英国や米国の民主主義も二大政党も一夜にして出来上がったわけではなく、さまざまな苦難の末に今の形にたどり着いた。

日本が中選挙区制に回帰さえすれば政治が機能を取り戻すとは、とても思えない。自民党支配の結末がそれを証明しているではないか。

民主主義の力を信じるのなら、後退するのではなく、前に進もう。困難な未来を切り開くために。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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