Yahoo!ニュース

今季の大阪桐蔭は「投手王国」! 前人未到の神宮3連覇へ死角があるとすれば?

森本栄浩毎日放送アナウンサー
神宮大会3連覇を狙う大阪桐蔭は、最速154キロの平嶋ら好投手が揃う(筆者撮影)

 いよいよ野球シーズンの最後を飾る明治神宮大会が始まる。大学が4年生にとって総決算の大会なのとは対照的に、高校は新チームによる「プレセンバツ」の意味合いが強い。全国10地区の秋季大会優勝校による戦いで、よほどのことがない限り、全てのチームがセンバツにもやってくるからだ。

前田が抜けても豪華な投手陣

 その神宮で2連覇中の大阪桐蔭は、先の近畿大会でも3連覇を達成していて、前人未到の「神宮3連覇」が懸かる。昨秋は1回戦からの登場で、準決勝で仙台育英(宮城=東北)、決勝で広陵(広島=中国)を破った。今回は2回戦から登場し、3勝で優勝できるため、選手の肉体的な負担は昨年よりも軽い。連覇に貢献した前田悠伍(ソフトバンクからドラフト1位指名)が抜け、大黒柱は不在となるが、将来性豊かな逸材投手が揃う豪華な陣容。ライバル一番手と目される広陵とは決勝まで当たらないため、3連覇の可能性は十分ある。

エース格の平嶋は先発で好結果

 西谷浩一監督(54)が「今までで一番、数がいる」と胸を張る投手陣で「経験もあり、相手を見ながら投球できる」と評する187センチ右腕・平嶋桂知(2年=タイトル写真)がエース格。秋の公式戦は先発での起用がほとんどだったが、京都外大西との近畿大会決勝では8回から救援し、1点差に迫られて9回も一打逆転のピンチを招いた。最速154キロを誇る直球だけでなく、カットボールやツーシームなどの変化球も多彩だが、制球に苦しむ場面も見られた。前チームからの起用も多く、落ち着いた投球はできるが、控える投手が豊富なだけに、先発で試合をつくるという役割が向いているように感じた。東京出身の平嶋にとって、神宮大会での活躍は念願だろう。

復活した南、左腕の山口祐は貴重な存在

 平嶋に次いで経験豊富なのが右腕の南陽人(2年)で、173センチながら躍動感のあるフォームから力強い球を投げる。夏以降、脇腹痛などの故障に悩まされ、リハビリのために大阪大会ではベンチを外れたが、近畿大会で復活した。西谷監督が「気持ちを込めて投げていた」と言うように、打者に向かっていく投球ができる。

左腕の山口祐は、体型も投げ方も先輩の前田によく似ている。最速146キロを誇り、浪商戦で先発して5回無失点と好投した。前田のような制球力が備われば、西谷監督の信頼も深まるだろう(筆者撮影)
左腕の山口祐は、体型も投げ方も先輩の前田によく似ている。最速146キロを誇り、浪商戦で先発して5回無失点と好投した。前田のような制球力が備われば、西谷監督の信頼も深まるだろう(筆者撮影)

 また報徳学園(兵庫)戦で救援登板した山口祐樹(2年)は、右腕本格派が揃う投手陣にあって貴重な左腕で、制球力が安定すれば大きな戦力になる。報徳戦では四球を連発して早々に降板したが、大阪大会の大体大浪商戦では先発して好投した。

1年生の森と中野は楽しみなライバル関係

 さらに期待が大きいのが1年生の右腕二枚だ。すでに「怪物級」と紹介した森陽樹とともに、西谷監督は中野大虎(だいと)にも期待を寄せる。おっとり型の森とは対照的に強気な性格で、森の活躍に「中野も投げたくてうずうずしているはず」と話した西谷監督は、京都国際との近畿大会準決勝で終盤3イニングを救援登板させた。毎回、先頭打者の出塁を許すなど納得はいかなかったと思うが、3アウト目を全て三振で奪うなど、大器の片鱗を見せた。かつての根尾昂(中日)と柿木蓮(日本ハム)のライバル関係によく似ていて、上級生になった時にどちらがエース番号を背負っているか楽しみだ。

「誰が抜け出してくるか」と西谷監督

 故障のため近畿大会は記録員でベンチ入りした川上笈一郎(そういちろう=2年)も、「すごい球を投げる」と西谷監督が復活を願う本格派右腕で、左横手から緩急自在の投球を見せる190センチの安福拓海(2年)も、いいアクセントになる。1番を打つ境亮陽(2年)は前チームから登板もあり、「二刀流」としての活躍も見込めたが「投げるところがない」と、西谷監督は贅沢な悩みを打ち明けた。この2年間は前田という絶対的エースがいて、百戦錬磨の西谷監督も大事な場面は全て前田に任せていたが、今チームは「誰が抜け出してくるか楽しみ」というほど、ハイレベルな投手が揃っている。

昨秋、大阪桐蔭は仙台育英の継投機を攻めた

 ここまで紹介した投手のほとんどが、全国の強豪私学でもエースを張れる実力を持っていて、大阪大会から1点差試合をことごとくモノにできたのは、ひとえに安定した投手陣のおかげと言える。昨季、「投手王国」の名をほしいままにした仙台育英の立場が、今季は大阪桐蔭に入れ替わったと考えればわかりやすい。昨秋、大阪桐蔭はその仙台育英を破った。展開を振り返ると、仙台育英の継投機に大阪桐蔭が得点していた。つまり、投手の継投機は、相手にとって好機につながるということだ。これは近年の高校野球が複数投手制になって以降、筆者の持論でもある。

誰をどのタイミングで起用するか

 西谷監督もそのあたりを意識していて、近畿大会では適性を見極めるために、初めての先発やロング救援など、さまざまな状況を想定して多くの投手を起用した。神宮でさらに進化させ、本番のセンバツにつなげていくつもりだろう。対戦チームは、大阪桐蔭の継投機につけ込みたい。近畿大会でも報徳や京都外大西は、継投機にあと一歩まで追い詰めた。個々の能力からすれば打線の得点力はそれほどでもなく、今季の大阪桐蔭は明らかに投手力のチーム。「誰をどのタイミングで起用するか」。西谷監督の手腕が試されるチームと言っても過言ではない。

毎日放送アナウンサー

昭和36年10月4日、滋賀県生まれ。関西学院大卒。昭和60年毎日放送入社。昭和61年のセンバツ高校野球「池田-福岡大大濠」戦のラジオで甲子園実況デビュー。初めての決勝実況は平成6年のセンバツ、智弁和歌山の初優勝。野球のほかに、アメフト、バレーボール、ラグビー、駅伝、柔道などを実況。プロレスでは、三沢光晴、橋本真也(いずれも故人)の実況をしたことが自慢。全国ネットの長寿番組「皇室アルバム」のナレーションを2015年3月まで17年半にわたって担当した。

森本栄浩の最近の記事