メキシカンリーグ、チャンピオンシップ「セリエ・デル・レイ」。「下剋上」で幕を閉じる
プレーオフ重視のシーズンフォーマット
この季節になると日本ではポストシーズンの在り方を巡って喧々諤々の議論が巻き起こるが、メキシコをはじめとするラテンアメリカ諸国では、プロ野球のシーズンフォーマットは、基本的にポストシーズン重視である。ウィンターリーグでは、プレーオフに進出できなかったチームや、国外からプレーオフに向けて選手を獲得する補強選手制度があることもあり、より高いレベルのゲームを観ることができるポストシーズンはおおむね好意的にとらえられている。
メキシカンリーグも同様で、ファンからは、前期、後期に続く「第3のシーズン」ととらえられている。かつてはメキシカンリーグのシーズンは日本のそれより長く、3月20日前後に開幕、5月末には前期シーズンを終え、オールスター戦の後、後期シーズンに入ると7月中にはレギュラーシーズンを終了し、その後、約1か月半に及ぶポストシーズンを戦い、8月中、あるいは9月初めにシーズンを終えていた。これは、MLBのマイナーリーグという位置づけ(メキシカンリーグはMLB傘下のマイナーリーグで構成するナショナルアソシエーションに加盟している)により、北米のファームリーグのスケジュールリングに合わせていたためであったが、近年MLBと新協定を結んだメキシカンリーグは、その独立性を強め、そのシーズンの終了は9月下旬となっている。
メキシカンリーグではポストシーズンに際しての補強選手制度はないものの、シーズン半ばを過ぎると上位球団はポストシーズンを見据えて下位球団から選手を引き抜いてゆくので、ポストシーズンに入ると、当然ゲームのレベルは上がる。ファンもそれをよく知っており、各球場は、ポストシーズンともなると、レギュラーシーズンとはうって変わっての盛況をみせる。
今シーズンはコロナ禍もあり、90試合という数年前に比べ随分短縮された(昨年は65試合)というレギュラーシーズンを戦い、8月9日からポストシーズンに入った。コロナ前の前後期制は採用せず、9チームずつある南北両地区の上位6チームずつがプレーオフに出場した。
次々と起こる「下剋上」
ポストシーズン=「プレーオフ」は、全て7戦4勝制で行われる。
第1ステージは、各地区1位対6位、2位対5位、3位対4位との対戦。ここにはいわゆる「Bクラス」のチームも入り、これらのチームは勝率5割を切ることも多いため、とくに1位対6位の対戦は「無風」に終わることがほとんどだ。今年も、リーグ最高勝率の.689を残した北地区1位のティファナ・トロスは勝率.477の6位のアグアスカリエンテス・リエレロスをスイープ。南地区でも1位のメキシコシティ・ディアブロスロッホスが4連勝でベラクルス・エル・アギラを一蹴した。
戦力的には、このステージでは3位対4位が一番面白い対戦と言える。北地区では、名門モンテレイ・スルタネスはレギュラーシーズン不調で、3位モンクローバ・アセレロスに11ゲーム差をつけられたが、リーグ優勝10回を誇るプレーオフ常連のこのチームは短期決戦の戦い方を熟知しているのだろう。4勝1敗で勝ち上がった。南地区でも、3位プエブラ・ペリーコスと4位ユカタン・レオーネスが対戦。レオーネスが4勝2敗で「下剋上」を果たした。ただし、このカードでは、ともに敗者は、このステージの敗者で最高勝率を残したチームに与えられるワイルドカード枠で敗退を逃れている。
波乱があったのは、2位対5位の対戦だった。ここでも通常は「下剋上」は起こりにくいのだが、勝率4割台で南地区のレギュラーシーズンを終えたキンタナロー・ティグレスが、19ゲーム差をつけられていた2位のタバスコ・オルメカスを4勝1敗で撃破したのだ。この勝敗を含めても、両者の「ゲーム差」は16。オルメカスにすればやりきれないだろうが、これもまたポストシーズンの面白さである。
北地区は、トロスと最後まで地区首位争いを演じたドスラレドス・テコロテスが5位のウニオンラグナ・アルゴドネロスに1敗を喫しただけでこれを退けている。
第2ステージは、ここで地区優勝が決まるわけではないが、「セリエ・デ・ソナ」と呼ばれる。ここでは、前のステージで一番好成績を残したチームがワイルドカードチームと対戦する。
スイープで通過したトロスはアセレロス、ディアブロスはペリーコスと対戦し、無難に勝ち抜いた。各地区もう一方のカードは、北地区ではテコロテスがホームでスルタネスを迎えたものの、ここで連敗を喫し、結局ホームに戻ることなく、1勝4敗で、「下剋上」を許すことになった。
南地区は、ティグレス対レオーネスという「下剋上」どうしの対戦となったが、こちらはレギュラーシーズン上位のレオーネスが順当に4勝1敗で勝ち上がった。
そして、第3ステージの「セリエ・カンピオナート」で地区優勝が決まるのだが、ここでも大波乱が起こった。北地区ではレギュラーシーズンで断トツの勝率を挙げた昨年のチャンピオン、トロスがスルタネスにまさかのスイープを食らう。
南地区でも、地区最高勝率でレギュラーシーズンを通過し、ポストシーズンに入って8連勝とその強さが際立っていたディアブロスが、先に王手をかけながら、そこから3連敗、まさかのホームでの敗退決定となった。
最終戦までもつれた「セリエ・デル・レイ」
南北両地区のチャンピオンが年間優勝を決めるべく激突するチャンピオンシップシリーズは「セリエ・デル・レイ(キング・シリーズ)」と名付けられている。ここまで勝ち上がったのは、ともにレギュラーシーズン4位のスルタネスとレオーネスだった。
このシリーズは、「セリエ・デ・ソナ」を4連勝で勝ち抜いたスルタネスの本拠、モンテレイで9月10日に開幕。初戦は、接戦となったが、常に先手をとったスルタネスが6投手をつぎ込む継投で逃げ切り、4対3で先勝した。
ノーガードの打ち合いが常のメキシカンリーグだが、さすがにファイナルシリーズともなると、締まった展開が多くなる。第2戦も投手戦となり、ここではレオーネスが5投手のリレーでスルタネスを完封した。1対0というメキシコではめったに見ることのできない緊迫した試合を締めたのは、2017年シーズンを中日で過ごした元メジャーリーガー、ホルヘ・ロンドンだった。
舞台をレオーネスの本拠、ユカタン州メリダに移して行われた第3戦は、雨のため順延。中2日おいて実施され、本拠、エスタディオ・ククルカン・アラモを満員にした地元ファンの声援を受けたレオーネスが6対1で勝利し、そのままホームで優勝を決めるかと思われたが、優勝10回を誇る名門・スルタネスはここから粘り腰を見せ、第4戦、5戦をそれぞれ5対0、6対3で勝利し、3勝2敗でホーム、モンテレイにシリーズを持ち帰った。
あとは、地元ファンの前で11回目の優勝の瞬間を待つだけとなったスルタネスだったが、ここでレオーネスが踏ん張り、6対2で勝利。シリーズの行方は、19日の最終第7戦にもつれ込むことになった。
チケットはソ―ルドアウト、本拠エスタディオ・モビル・スペルを埋めた2万2000人の大観衆の前で、優勝を決めるべくレギュラーシーズン敗けなしの7勝を挙げたベネズエラ人エース、ヨアンデル・メンデスを先発に立てたスルタネスだったが、初回先頭打者を四球で出塁させると、2アウト1塁でメジャーでも3割を2度記録したレオーネスの4番ホセ・マルチネスを迎えたところで、昨年の東京五輪のメキシコ代表チームの一員だった捕手、アリ・ソリスがパスボール。ランナーを2塁に進めたところでマルチネスがライト線にツーベースを放って、スルタネスは先制を許してしまった。
その後試合は投手戦の様相を呈したが、2対0で迎えた7回、レオーネスは、四球で出塁したランナーをふたり置いて、2アウトからマルチネスの3ランで試合を決めた。9回に両軍が1点ずつを入れたが、それまで。8回までスルタネス打線をゼロに抑えていたメジャー通算27勝のベネズエラ人右腕、ヘンダーソン・アルバレスが9回の先頭打者ソイロ・アルモンテ(元中日)にホームランを許すが、その後を継いだロンドンが1安打を許したものの、1イニングを無失点に抑え、優勝投手となった。
今シーズンのレギュラーシーズンは、地区関係なく、各球団、ほぼまんべんなく全チームと対戦しているため、事実上の1リーグ制でメキシカンリーグは行われた。両地区をミックスした上での順位をみてみると、1位は北地区首位のトロス、南地区首位のディアブロスは4位となる。「セリエ・デル・レイ」に駒を進めた両チームについてみてみると、スルタネスはディアブロスに次ぐ5位、チャンピオンとなったレオーネスは、18チーム中かろうじて「Aクラス」の9位である。
ポストシーズンの勝敗も加味した上で今シーズンの勝敗を考えても、この4チームの序列は変わることはない。トロス(70勝34敗)は、ディアブロス(61勝38敗)をゲーム差にして6.5引き離し、北地区優勝のスルタネス(66勝45敗)は、ディアブロスに1ゲーム差をつけられている。年度チャンピオンのレオーネス(62勝52敗)に至っては、スルタネスに引き離されること5.5ゲーム差、トロスとは実に13ゲーム差がついている。
それでも、メキシコではポストシーズンに対する批判はほとんど起こらない。最後のひと月半をシーズンの締めくくりの時期ととらえ、ここで力を発揮したチームに王冠を授けるのである。