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スーパーで踊る青学生―「リア充大学生」が陥るSNSの罠

千田有紀武蔵大学社会学部教授(社会学)
その投稿が身の破滅となるかもしれない…。(写真:アフロ)

大学生が営業中のスーパーの店舗内で大声を出してダンスをする姿がツイッター上に投稿され、批判の声が上がった。大学側は店に謝罪し、「再発防止に努め、十分に指導を進めてまいります」とコメントしたそうだ(スーパーで踊る青学生 ネットで批判の声)。この記事では触れられていないが、このほかの振る舞いも、どんどんとネットでは暴かれていった。それを大学に通報する人がいたのである。

それにしてもツイッターは、こういった学生にとって本当に危険なツールである。よく言われるように、即時性があり、動画や写真を撮ってすぐ、考える暇もなく投稿することができる。学生たちはいくつものアカウントをもち、「リア充」のアカウント、「リアル」の友達には見せたくないダークサイドの自分のアカウント、趣味を全開にしたアカウントなど、用途別、「見せたい自分」別にアカウントを使い分けている。

「ツイッターはやってもいいけれど、できれば鍵をかけ(許可した人にしか見えない設定にする)たら?」と提案してみても、反応は芳しくない。見せたい自分の生活ぶりを共有(自慢)し、どんどん新しい友達とつながるための「リア充」アカウントである。特定のひとにしか見えないのだったら、目的は達成されない。友達に発見してもらいたいのである。

それでも日頃は、友達同士でやり取りしているため、「公開範囲は友人」だと漠然と思っている。まさか不特定多数の全世界の人間に、自分たちが「晒される」ことなどないと、思いもよらない。基本的にはニックネームを使用し、紹介による会員制だったSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)のミクシーで育った世代が、同じ感覚でツイッターやっていると言われることもある。しかしもうその世代の下の世代が、大学生になってきている。

「せめて、プロフィールに大学名を入れるのはやめてね」と言うが、あまり意味のあることとも思えない。友達をたどって行けば、大学名などすぐに判明する。たとえ本人が投稿しなかったとしても、ログをたどれば克明な生活の記録となる。そのために、「あの場にこいつもいたんじゃないか」「仲間だ」と巻き添え事故を食らう可能性も多々ある。

飲酒可能な年齢である20歳と、多くの学生が大学生になる18歳の間には、2年の開きがある。大学に入って楽しく舞い上がっている学生が、飲酒する可能性はないとはいえない。何かの拍子をで自分や友達が炎上した場合、自分のアカウントから、またはつながっている友達のアカウントから、過去の「違法行為」を発見されるリスクは、本人たちが考えているよりも大きいのだ。未成年の飲酒は、違法行為であるという自覚も希薄である。

さらにいえば、炎上に向く大学とそうでない大学がある。例えば私が勤務する大学は、悪い大学ではないと思っているが、9割が関東在住の学生からなるこじんまりした大学であるため、悲しいかな全国的な知名度には欠けている。自虐的であるが、大学名が炎上要因とはならないだろう。しかし偏差値には関係なく、知名度の高い大学はそれだけでもニュースバリューがある。

皆に知られ、誰からも羨ましがられるような大学は、在学生にとっても大学名はアピールすべきリア充要素の一部である。半面、炎上させる側も炎上させ甲斐がある。いわば炎上リスクが高いのである。説教めいて申し訳ないが、日本の大学進学率はまだ半分程度である。進学できる人は恵まれているということを忘れるべきではない。

武蔵大学社会学部教授(社会学)

1968年生まれ。東京大学文学部社会学科卒業。東京外国語大学外国語学部准教授、コロンビア大学の客員研究員などを経て、 武蔵大学社会学部教授。専門は現代社会学。家族、ジェンダー、セクシュアリティ、格差、サブカルチャーなど対象は多岐にわたる。著作は『日本型近代家族―どこから来てどこへ行くのか』、『女性学/男性学』、共著に『ジェンダー論をつかむ』など多数。

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