4年連続65試合以上投げた鉄腕・福山博之(東北楽天ゴールデンイーグルス)は必ず戦線に帰ってくる
「とにかく意地でも肩を治します!また投げられるように」。
まっすぐ前を見て、福山博之投手(東北楽天ゴールデンイーグルス)は力を込めた。その瞳には強い光が宿っていた。
■かつて4年連続65試合以上登板した
2014年に65試合に登板し、そこから毎年、65、69、65と4年連続で65試合以上投げた。リードしている展開だけではなくビハインドでも登板するし、イニングをまたぐ複数回も引き受ける。ゲームの序盤からロングリリーフなんてことも珍しくなかった。
その中で安定した成績を残し、2017年には65試合に登板して防御率1.06という素晴らしい数字も刻んだ。
しかし、それだけ酷使した代償は小さくなかった。一昨年から徐々に肩に痛みを感じるようになり、昨年、とうとう「投げられない」と悲鳴を上げた。
開幕を1軍でスタートしたが7試合に投げた後にファームに降格。イースタンで8試合に登板したが、肩が上がらないくらいの激痛に襲われた。これは無理だ、投げられないと悟った。
「それまでもずっと痛かったけど、痛い中でもなんとかやってた。耐えられる痛みやったんで余裕やった。でも突然もう…。投げられる痛みと投げられない痛みがあるんですけど、もう投げられないと思って」。
福山投手の口から「痛い」という言葉が発せられたことに驚く。よほどのことだ。
それが5月の終わりのことだった。そしてとうとう手術に踏み切ったのが7月5日。右肩と右肘、どちらも鏡視下クリーニング手術だった。
「どっちも内容はほとんど一緒で、肩にも肘にもネズミ(遊離軟骨)がおった」。
登板過多からではないかと察するが、福山投手はあくまでも「勤続疲労ではないことは間違いないと言っておきます」と否定する。
常にそうだ。トレーニングのやり方、アプローチの仕方が悪かったんだと自分を責める。
■リハビリは新たな挑戦
そこからはリハビリの日々だ。トレーニングの仕方も、今までやってきたことを止めて新しいインナートレーニング法を取り入れたり、鍛える箇所を変えてみたりと、さまざまな方法にチャレンジしてきたという。
また、「姿勢」にも着目した。歩くとき、走るとき、そして日常の中でも座るときなどにも意識している。
「たとえば、あぐらをかくのと正座をするのとの違い。あぐらをかくとこういう感じ(背中が丸まる)だけど、正座だとクッと胸が張れるというか」。
トレーニングだけでなく、常日頃から体幹も意識しながら姿勢を正す。
さらには、昨シーズン中は食べものも考慮した。炎症に油がよくないと聞き、「揚げ物はいっさい禁止にしていた」という。
「油の種類によって違うとは聞いたけど。今はもうちょっとは口にはする。でも、そうガツガツは食べないけど」。
オフには、一昨年も登った山に登ったり、苦しいリハビリの中にも楽しみも見つけながら、回復に向けて自身を追い込んだ。
トレーニングも自ら考案するが、「あまりやるとメニューに偏りが出てくるから」と、個人トレーナーにも補ってもらいながら取り組んだ。
さまざまなことを試行錯誤しながら取り入れている。
「それがいいように出るかどうかはわからない。もしかしたら僕が今やってることより前のほうがいいかもしれない。でもそれはやってみないとわからないことだから。何もしないよりはトライしていきたい。それがまた自分の経験にもなるし、あとあとに繋いでいける。そうやって自分も教わりながらやってきたし」。
自身の経験が役に立てばと、後へ続く後輩たちにも受け継ぎたいと考えている。
■「気持ちの男」が一喜一憂しないと誓った
それにしても、いつ完全復活できるのか、まったく先の見えない中でのリハビリは、精神的に非常に過酷だ。遅々として進まない、いや、ときには後退することもある。
しかし福山投手は手術後、リハビリに入るときに誓ったことがあるという。
「絶対に気持ちは出さんとこって思った」。
これまでは、どんなときも気持ちでやってきたタイプだ。「自分が痛いと思わなければ故障じゃない」を信条としてきた。
しかし今回ばかりは気持ちではどうにもならないことがわかったし、日々の状態で気持ちが揺れることがなんのプラスにもならないことを理解していた。
「リハビリで一喜一憂しない。逆になんかもう、肩の状態に関しては無関心じゃないけど、それくらいで。昨日がよくて『やったー!よくなってるー!』、でも次の日には悪いかもしれんから。そこで悪くても落ち込む必要もないし、そんなもんなんやって思わなあかんから。だから一喜一憂しないって決めている」。
手術したときから、投げられるようになるまではそうでいようと誓った。
■人としての成長を実感
さらに手術をしてから感じることが多々あった。
「いろんな方との出会いがあって、いろんな方にお世話になって、いろんな方に心配してもらってケアをしてもらってる中で、自分の人間性としては絶対に日々成長していると思ってやってるんで」。
リハビリでの進捗以上に、自身の人としての成長に関しては間違いなく手応えがある。それは関わってくれる人々がいるからこそ、そう思えるのだ。
だからこそ、「意地でも戻る」と気合いが入る。
「自主トレもそうだし、診てもらった先生、トレーナーさん、いろんな人にお世話になった。だから、途中で終わるのは絶対に嫌なんで。意地でも治して、意地でも投げられるようにする。それしかもう、今は考えていない」。
とにかく投げられないことには何も始まらないと考えている。
■“NEWサブちゃん”の誕生を待つ
自主トレ中に60〜70mまで投げられることを目標とし、それをクリアしてキャンプインした。
キャンプでは、久米島も日向も天候に恵まれ暖かかったこともあって「ちょっとずつリハビリは進んだ」という。
遠投は80mくらいを何球か投げたが「風が強くて、いい球を投げても風で流されるんで気持ち悪くて」と、短い距離で強めに投げることに切り替えた。ここでムキになることが一番危険であるからだ。
さらにキャッチボールもブルペンで傾斜を使って行うところまで進んだ。
「痛みはだいぶなくなってきた。でも調子に乗らず、一喜一憂せずに」と、自らしっかり手綱を引く。
ここから本格投球までさらに何段階もクリアしていくことになるが、その過程できっとまた、福山投手はさまざまなものを手にし、吸収し、成長するのだろう。
長いリハビリ期間を経て、どんなサブちゃんが誕生するのか。
“NEWサブちゃん”のピッチングを楽しみに待ちたい。