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母子6人殺害放火事件の犯罪心理学

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
(写真はイメージ:お悔やみの花)(ペイレスイメージズ/アフロ)

お母さんと5人の子供が殺された事件。なぜ、こんな事件が起きるのでしょうか。

■父親に一家殺害、放火容疑

茨城県〜の県営アパートの1室で6日早朝に火災があり、母子6人の死亡が確認された。県警は、この部屋に住む父親で自称会社員の小松博文容疑者(32)を6人のうち1人の女児を殺害したとする殺人の疑いで緊急逮捕し、発表した。〜

「刃物で刺し、ガソリンをまいて放火した」と話し、家族全員の殺害についてもほのめかしているという。動機について、恵さんから別れ話を持ち出されたという趣旨の説明をしているという。

出典:殺害容疑の父親「別れ話持ち出された」 母子6人死亡 10/6(金) 朝日新聞Y!

捜査関係者によると、小松容疑者は妻の恵さん(33)から「浮気をめぐって別れ話を持ち出された」と供述している。「ガソリンをまいて火を付けた」とも話し、放火を認めているという。

出典:「別れ話持ち出された」=逮捕の父供述、母子6人死亡―茨城県警 10/7(土) 時事通信Y!

■「愛」が動機の殺人について

人は自分の利益のために犯罪を犯しますが、時に愛による犯罪を実行します。

たとえば、自分や家族の将来を悲観した母親が自殺を考えた時に、子供を残すのは不憫だと感じ、子供を殺して自分も死のうとする親子無理心中などは、「愛他的殺人」と呼ばれています。日本ではかなり同情的に見られますが、アメリカでは何の罪もない子供を計画的に殺害した第1級殺人と見られます。

「愛」が動機とはいえ、ストーカー殺人などかなり歪んだ身勝手な「愛」がもとになった殺人もあります。

加害者は交際中(婚姻中)から、「自分では愛していると思っており、プレゼントなど愛の行為を懸命にするとしても、その見返りとして愛されることを切望します。親切そうに見えても、実は自分の利益のために相手に完璧を求め、相手を支配しコントロールしようとしているのです」(「ストーカー予防のため心理学:「愛」が動機の犯罪をどう防ぐか」Yahoo!ニュース個人有料:碓井真史)。

彼らは、相手が自分を愛してくれないとなると、裏切られたと感じ、自分の人生はおしまいだと思い込んで、殺害を考え始めます。

もちろん、本当の愛は、このように相手から何かを奪う愛ではなく、相手に捧げる愛なのですが、彼らは強い「見捨てられ不安」を持っているために、失恋や別れを受け入れることができないのです。

■家族殺しの犯罪心理

一般に、恋人や家族(元恋人や元家族)など身近な人を殺害する動機としては、次のようなものがあります。

  • 「行き過ぎた愛」による一家無理心中
  • 新しい相手との結婚を望み今の妻を殺すなどの「邪魔者殺し」
  • DV被害者が思い余ってDV加害者を殺すなどの「暴君殺し」
  • ストーカー殺人など別れを受け入れられず相手に裏切られたと感じる「身勝手で歪んだ愛」による殺人。

■大量殺人の犯罪心理

ほとんどの殺人犯は一人しか殺しませんが、何人もの人を一度に殺すのを、大量殺人と呼んでいます。

大量殺人の中には、通り魔事件のように、自分の人生を終わりにしようと思い、死ぬ前に世間を驚かせたい、自分の力を示したいと思って行う事件もあります。

また、たとえば父親への殺意を持っていたはずなのに、結果的には母も祖母も家族皆殺しといったケースもあります。この場合は、加害者から見れば、優しい母も祖母も、結局は父親側の人間だと感じて、殺害にいたることがあります。

さらに、一人を殺害し、その様子を見た時に、異常な興奮状態となり、次々と殺害する「血の酩酊」と呼ばれる事例もあります。

■家族殺害と放火

一般に、他人の殺人よりも、家族などの殺人の場合は、遺体に毛布をかぶせたり、捨てると言うよりも静かに遺体を置いてあるように見えるケースも多くあります。

一方、一般に殺害後の放火の多くは証拠隠滅が目的であり、ご遺体(生きている時のその人)への愛を感じにくい犯行とも言うこともできるでしょう。

■殺害される子供たち

大人たちは、様々な理由で殺人を犯します。そこに、子供が巻き込まれることは本当に悲しい事件だと思います。子供たちは、見ず知らずの不審者に殺されるよりも、親たちに殺されています。

子殺しの犯人の多くは、逃亡計画をあまり考えません。自分の利益のために計算して、捕まらないように行われる犯罪とは、異なっています。そのため、重い刑罰の存在だけでは、なかなか防犯につながりません。

加害者への制裁は言うまでもなく必要ですが、防犯を考えるためには、大きな事件が起こる前の家族支援が求められるでしょう。

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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