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『世界の車窓から』コロナ禍とネット縮小を経た現在の放送は?

斉藤貴志芸能ライター/編集者
『世界の車窓から』公式サイトより

 NHKで15日に『鉄道ちょい旅バラエティー テッツGO!』が放送された。品川から三浦半島まで走る京浜急行の沿線を徹底リサーチし、秘められた物語を紐解いていく。80年代に仕掛けられた、海岸のステージでのライブまでファンと一緒に向かう「アイドル列車」など、いろいろと興味を惹かれた。

 カルチャー色を打ち出しながら、地域に根差した風情ある商店街や三崎港のマグロ料理など、出掛けてみたいとも思わせる。NHKらしい良質な番組だった。

『ニュースステーション』後の定番の5分枠

 ところで鉄道番組と言えば、ある年代以上なら真っ先に思い浮かぶのが、テレビ朝日の『世界の車窓から』だ。海外で鉄道旅をする5分枠のミニ紀行。旅行者目線に立ち、車窓や沿線の風景を中心に、名所や車内の人々の様子なども織り込まれる。

 スタートは遡ること37年前の1987年5月。石丸謙二郎によるナレーション、溝口肇作曲のテーマ曲は当初からのものだ。海外で鉄道に乗るとき、頭の中であのチェロの旋律が流れた人も多いはず。

 もともとは月~金曜は21時54分から、土・日曜は22時54分からと、毎日放送されていた。その後、放送時間は変遷しているが、一般に最も印象が強いのは、2001年10月からの平日、『ニュースステーション』のあとの23時10分に始まっていた頃だろう。後継の『報道ステーション』になってからも、同じ枠で引き継がれている。

 5分番組では異例の人気となり、この時期には放送15周年、6000回をそれぞれ記念して、全10巻のDVDが発売されたりもしていた。

DVD『世界の車窓から~オーストリア鉄道の旅~』(発売/バップ)
DVD『世界の車窓から~オーストリア鉄道の旅~』(発売/バップ)

海外渡航の制限で再放送とリモート取材と

 しかし、2013年4月から土・日曜の放送が休止。さらに、2017年4月からは水~金曜も休止となり、月・火曜のみの放送になった。

 2020年3月には、コロナ禍の海外渡航の制限により、予定されていたイタリアロケが延期となって、以後の新規取材が見合わされた。番組では「ベストセレクション」として、過去の再放送が続くことに。

 そして、1年半を経た2021年9月に、感染状況が落ち着いてイタリアロケを開始。撮影は現地のスタッフが担い、日本からディレクター2人とプロデューサーがリモートで取材に参加したという。

 放送的には同年11月から、このロケ分が「秋のイタリア 歴史都市と南チロルの旅」としてオンエアされ、事実上の番組再開に漕ぎつけた。2022年10月のドイツロケからは、日本よりディレクターが1人現地に赴き、取材スタッフに加わる。

 2023年2月のベトナムロケでは、日本の制作スタッフが現地ロケに入る通常の体制に、3年ぶりに戻った。

『世界の車窓から』公式サイトより
『世界の車窓から』公式サイトより

名阪でも打ち切りで「もう終わった?」

 一方、当初はANN系列のすべての地方局で放送されていたが、徐々にネット局が減っていく。2013年9月には、北海道テレビ、北陸朝日放送、広島ホームテレビ、九州朝日放送、長崎文化放送で一気に放送を打ち切り。今年3月には、準キー局のメ~テレ(名古屋テレビ放送)と朝日放送テレビでの放送も終わった。

 最後には「ご覧のチャンネルでは今週で放送が終了します」とのテロップが出たり、地方の新聞ラテ欄に(終)と書かれていたため、『世界の車窓から』自体がもう終わったと思っている人も少なくないようだ。

 現在放送されているのは、テレビ朝日の他は山形テレビ、遅れネットの秋田朝日放送のみ。関東圏でも週2回の放送では、往年に比べて目にする人はだいぶ減ったことだろう。

変わらぬフォーマットで旅情を誘う

 とは言え、放送では今も変わらず旅情を誘い、憩いにもなっている。今年1月からは「黄金の大地をゆく 秋の韓国周遊1300キロの旅」がオンエア。ソウルから百済の歴史を伝える公州、観光人気の高い港町の麗水、湿地帯が美しい順天などを巡っていた。

 今週13日の放送で、栄州から夜のソウルに戻り、ひとつの旅がフィナーレ。高速鉄道の車内でたまたま乗り合わせた、兵役に行く甥と叔母がホームで笑顔で別れていた。

 翌14日から始まったのが「原色の風景・光り輝く島スリランカの旅」。「インド洋に浮かぶ島国。熱帯の日差しが降り注ぎ、何気ない時間がキラキラと輝いて見えます」との、お馴染みの石丸のナレーションと共に、列車は常夏の海岸沿いから、緑の茶畑が広がる高原地帯をグネグネと進んでいく。

 初回ということで予告的に、ジャングルにそびえる古代遺跡・シーギリヤロックや、川の中のゾウの映像なども挿入された。ちなみに、この日の放送が第10919回となるが、フォーマットは昔とまったく変わっていない。

『世界の車窓から』公式サイトより
『世界の車窓から』公式サイトより

TVer配信はない中でも普遍的なコンテンツ

 やっとコロナ禍が落ち着いたと思ったら歴史的な円安と、庶民には海外旅行へのハードルは高いまま。『世界の車窓から』で少しでも気分が味わえるのはありがたい。ただ、ネット局が減った中で、TVerでの配信がないのは残念だ。

 同じ枠の他の曜日のミニ番組、『健求者 こだわりの元気食』はテレビ朝日のYouTubeチャンネル、『EXITのモータースポーツ応援宣言』と『気づきの扉』はTVerで配信されている。

 『世界の車窓から』には何らかの事情があるにせよ、あれだけ親しまれた長寿番組を観る機会がどんどん狭まっていくのは、もったいないと思う。

 スタッフは5名ほどのチームで、ひとつの国や地域を1ヵ月から1ヵ月半かけて回って撮影しているそう。

「実際に旅をしている感覚に出来る限り近づけられるよう、車内で出逢う人々の素の表情や、突然のハプニング、天候の悪戯などもそのまま番組にするようにしている」(制作会社テレコムスタッフHPより)とのことで、コンテンツとしては普遍的で強いはず。これからも番組が続き、放送が縮小からまた拡大へ向かうことを願いたい。

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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