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ウィシュマさん入管死亡訴訟、国側が3つの争点など示す 原告側は反発と疑問「宇宙人の言葉のよう」

関口威人ジャーナリスト
第13回口頭弁論で名古屋地裁に入るウィシュマさんの遺族ら=7月10日、筆者撮影

 名古屋出入国在留管理局(名古屋入管)で収容中に死亡したスリランカ人女性、ウィシュマ・サンダマリさん=当時33歳=の遺族が国を相手取り約1億5000万円の損害賠償を求めている裁判の第13回口頭弁論が2024年7月10日、名古屋地裁で開かれた。

 ウィシュマさんの死亡と当時の入管側の対応の因果関係を巡り、被告の国側が書面で「因果関係は認められない」と主張するとともに、争点を「死亡の原因ないし機序(死亡に至る病状のメカニズム)」などの3つに整理するよう意見を示した。

 原告側はこれまでも「細かい機序まで立証する必要はない」と反発しており、争点整理がさらに続けられながら佳境に向かう見通しとなった。

「死因は不明」としながら「機序」にこだわる国側

 国側が提出した第11準備書面は、因果関係を指摘する原告側の第14準備書面に全面的に反論する内容だ。

 入管は収容を通して外国人(被収容者)の身体の自由を制約し、生命や健康さえも支配・掌握する。だからこそ入管は被収容者に対して「極めて高度な生命維持義務」を負い、それがウィシュマさんの「死亡結果との間の因果関係の起点となる」と原告側は指摘していた。

 これに対して国側は「極めて高度な生命維持義務」が具体的にどのような水準を意味するか定かではないとした上で、入管の処遇規則では被収容者が病気やけがをした際、その病状によって施設長が「適当な措置」を講じなければならないが、それは「社会一般の医療水準に照らして適切な医療上の措置を取るべき注意義務を負っているにとどまる」と主張。今回のウィシュマさんに対しても、当時の非常勤の医師らを通じて一般的な水準の医療を提供していたとして、名古屋入管局長の対応が「全体として不合理であるとはいえない」とする。

 また、原告側の指摘する「加害行為(注意義務違反)」についても、国側は「内容が確定されているとはいえない」と反論。結果を受けて適切な対応をしなかったと指摘される尿検査が「いつの時点の尿検査なのか」分からないとし、「点滴等のしかるべき対応をしなかった行為」も「何を指すのか明らかではない」とあいまいにする。そして繰り返しウィシュマさんの死因は「不明」であり、そうである以上は名古屋入管職員の行為と死亡との因果関係は認められないと主張する。

 その上で、争点を整理すべきだとして国側は以下の3点を提示した。

 ①ウィシュマ氏の死亡の原因ないし機序(不明を含む)

 ②国賠法1条1項の違法性(職務行為基準説)の有無

 ③損害の発生の有無及び額

 このうち①の死因と機序は、ここ数回の弁論で最も双方がぶつかり合っている論点だ。

 原告側は死因を「低栄養・脱水」だとした上で、実際の死亡に至るまでにはさまざまなメカニズムがあり得るとの主張。国側は、死因は「不明」であるが、そのメカニズムを特定せよという主張。そうでなければ入管職員の法的義務違反も特定できないとして、②の争点につなげたいようだ。

「入院させなければ入管が責任取らなくてよくなる」

 ただ、そうした意図ははっきり読み取りにくく、原告側代理人の指宿昭一弁護士は「なぜこれほどまで具体的な機序(の特定)が必要か、理由がよく分からない」と法廷で国側の説明を求めた。それに対して国側の弁護士は「書面は十分な内容で、書いてある通り」と答えるだけだった。

 しかし、ウィシュマさんはそもそも精密な検査や入院をさせてもらえず、死に至る詳細な医療記録が残っていない。それは入管側に記録を残そうという意思や判断がなかったからだといえる。

 ウィシュマさんの妹のポールニマさんは「これが理由となって『死の原因ないし機序』が不明だとなるのなら、入管は収容している人を入院させなければ、その人が死んでも入管は責任を取らなくてもいいことになります。日本の裁判所では、そんな主張をすることが許されるのでしょうか」と意見陳述で訴えた。

 こうした双方の主張を踏まえた上で、最終的に裁判官がどのように争点を絞るのかが注目されていくだろう。

弁論後に記者会見するウィシュマさんの妹のワヨミさん(中)とポールニマさん(右)=7月10日、筆者撮影
弁論後に記者会見するウィシュマさんの妹のワヨミさん(中)とポールニマさん(右)=7月10日、筆者撮影

「イエスかノーか」の質問に「どちらでもない」

 原告側は前回の弁論で、死亡前のウィシュマさんに対して行われた尿検査の扱いについて、当初「(検査結果を把握していたか)記憶は定かではない」としていた入管側の医師についての記述が、その後の書面で「(検査結果を含め)総合的に考慮」していたとする記述に変わったのはおかしいとして、国側に釈明を求めていた。これに対する国側の回答書も提出された。

 国側はこれまでの準備書面において、医師が2021年2月4日の診療時点で「もし消化器内科において器質性の疾患が認められなかった場合には、精神科の受診も考慮する必要があるとの治療方針を立てた」、同18日時点で「ウィシュマ氏の体調不良が心因的な原因によるものである可能性も考慮して精神科の受診をさせることとしている」などと主張してきたことから、「総合的に考慮」したとの「趣旨に変更はない」とする。「記憶は定かではない」のは検査結果を把握していなかったわけではなく、入管の看護師が医師に「検査結果を伝えた」と述べていることなどから推察したという。

 しかし、原告側は「医師が尿検査結果を認識したうえで何らかの診断をなし、もしくは治療方針を立てたことがあったか否か」の釈明を求めており、原告側の指宿弁護士は「これに対する応答がまったくない」と、イエスかノーかでの回答を法廷で求めた。

 これに対して国側の弁護士は「書面で十分に回答している。イエスでもノーでもない」と述べた。「論旨が変わってきているのではないか」との質問にも「主張を変えたつもりはない」と返すだけだった。

 もう一人の妹のワヨミさんは、こう皮肉を込めて意見陳述した。

 「(スリランカの母国語の)シンハラ語で、理屈に合わないこと、意味不明なことを『宇宙人の言葉で話す』と表現します。日本の裁判所では、宇宙人の言葉が決して使われないように願っています。『地球人の言葉』であれば、それが日本語であっても通訳が意味を教えてくれますが、『宇宙人の言葉』では通訳もできません。日本の法廷をぜひ『地球人の法廷』にしていただきたいと願っています」

 次回期日は9月25日の予定。

ジャーナリスト

1973年横浜市生まれ。早稲田大学大学院理工学研究科(建築学)修了。中日新聞記者を経て2008年からフリー。名古屋を拠点に地方の目線で社会問題をはじめ環境や防災、科学技術などの諸問題を追い掛ける。東日本大震災発生前後の4年間は災害救援NPOの非常勤スタッフを経験。2012年からは環境専門紙の編集長を10年間務めた。2018年に名古屋エリアのライターやカメラマン、編集者らと一般社団法人「なごやメディア研究会(nameken)」を立ち上げて代表理事に就任。

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