竜王戦第3局、羽生九段ファンの悲鳴あがった逆転劇。盤上では何が起きていたのか?
8日に2日目が指し継がれた第33期竜王戦七番勝負第3局は、豊島将之竜王(30)が挑戦者の羽生善治九段(50)に172手で勝利し、シリーズ通算2勝1敗とした。
羽生九段が先手番で相掛かり戦法を選択し、前例のない力戦に。
形勢に大きな差がつかないまま終盤戦になだれこみ、最後は羽生九段の勝ち筋とみられていたが、トン死という劇的な結末となった。
棋譜は公式ページからご覧ください。
逆転、その瞬間
最終盤、豊島竜王が激しく攻め立てて、羽生九段の玉が捕まるかどうかの勝負になった。
ABEMA将棋チャンネルに映し出される将棋AIの勝率は羽生九段寄りだった。
しかし対局者にハッキリと形勢を把握している様子はなかった。
どちらかといえば、勢いは攻めている豊島竜王にあるように窺えた。
羽生九段も秒読みのなか、正確な対応で玉を逃げる。
ようやく豊島竜王の攻めが一息ついた。
羽生九段は詰めろを続けられれば勝ちだ。
ABEMA将棋チャンネルの勝率も、羽生九段に大きく寄っている。
ここで事件は起こった。
詰めろを続けるために羽生九段が銀を渡したのだ。
その手が指されてすぐにABEMAの解説者が
「これは羽生九段の玉が危ない」
そう解説した。
ABEMAに映し出される勝率もいっぺんに豊島竜王へ大きく傾いた。
羽生九段ファンの悲鳴があがった瞬間だった。
銀を渡したために、詰みがなかった羽生玉に詰み筋が生じてしまったのだ。
そしてチャンスを逃す豊島竜王ではない。鮮やかな竜捨てから一気に詰まして勝負を決めた。
問題の場面について
羽生九段が銀を渡した場面。
将棋AIに深く(30億手)読ませた結果、勝ちを導く手はたった一つしかなかった。
他の手は全て羽生九段の負けとなる。
その勝ちに導く手は相当にやりづらい手だ。
詰めろを続ける順ではなく、自玉の安全を確保する順だからだ。
先ほど「詰めろを続けられれば勝ち」と書いたが、その前提に沿って考えると絶対に見つけられない順なのだ。
正解とされる手を示されても筆者には意味がわからず、将棋AIの読み筋をみてしばらく考えてようやく理解した。
膨大な手を読める将棋AIだからこそ見つけられる順といえよう。
一分将棋では羽生九段といえども見つけられなかったし、時間があってもどうだったか。
実際、感想戦でもこの局面について触れられなかったので、両対局者は気が付いていなかったと思う。
将棋AIがない時代であれば、
「羽生九段にチャンスがありそうだったが、豊島竜王が勝った。敗因は不明」
と結論付けられていたであろう。
これは逆転なのか?
厳密にいえば、この一局は羽生九段の逆転負けではある。
筆者も「逆転劇」とタイトルにつけている。
しかし見つけるのが困難な一手しか勝ちにつながる道がなく、果たしてそれでも逆転というのだろうか。
その判断は大変難しく、将棋AIが登場した現代に突きつけられた課題である。
ひとつ言えるのは、そういう局面に持ち込んだ豊島竜王の終盤における指しまわしが素晴らしかった、ということだ。
実際、その直前に豊島竜王は選択を迫られていた。
強引に攻め続けるのか、相手に攻める権利を委ねるのか。
そこで強引にいかず、相手に手を委ねた勇気が勝ちを引き寄せたのだった。
第4局は12日に
終盤までもつれる展開を豊島竜王が制し、シリーズ通算2勝1敗とした。
接戦をモノにすると勝負の流れをつかむことにつながる。
第4局は日をおかず、12・13日に行われる。
11月11日追記:12・13日に予定されていた第4局は延期となり、26・27日に予定されていた第5局を第4局として開催されることになりました。
ここまで全て後手番が制しており、この二人の対戦においては後手番が10連勝している。
後手番が勝っているシリーズとはいえ、作戦面においては先手番の豊島竜王が主導権を握るのは間違いない。
ここで豊島竜王が先手番で勝てば、シリーズの流れをグッと引き寄せることになるだろう。
次局にもご注目いただきたい。