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乾癬の疲労感を軽視してはいけない理由 - 適切な評価と治療が鍵

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(提供:イメージマート)

【乾癬と乾癬性関節炎における疲労感の特徴】

乾癬は、皮膚に炎症を引き起こす慢性の自己免疫疾患で、国内では人口の約1~3%が罹患していると言われています。一方、乾癬性関節炎は乾癬に関節炎を伴う病態で、乾癬患者さんの約10~30%に発症すると報告されています。

デンマークで行われた大規模な調査では、乾癬と乾癬性関節炎の患者さんは一般集団と比較して疲労感が強く、特に乾癬性関節炎の患者さんにおいて顕著であることが明らかになりました。乾癬性関節炎の患者さんは、乾癬のみの患者さんよりも全般的疲労感、身体的疲労感、活動性の低下が際立っていました。

ただし、精神的疲労感や意欲の低下については、乾癬と乾癬性関節炎で大きな差は見られませんでした。この結果から、乾癬性関節炎に特有の疲労感の特徴が浮き彫りになったと言えるでしょう。

疲労感は多面的な症状であり、それぞれの側面に応じたアプローチが求められます。MFI-20(Multidimensional Fatigue Inventory-20)のような評価尺度を用いて、疲労感の特徴を詳細に把握することが重要だと考えます。

【疲労感の原因と治療戦略】

デンマークの調査で興味深いのは、疲労感の程度が乾癬の重症度よりも、関節痛やかゆみの強さと関連していた点です。つまり、乾癬の皮疹の広がりよりも、自覚症状が疲労感に大きな影響を与えているようです。

実際、乾癬性関節炎の患者さんでは、関節痛が強いほど全般的疲労感、身体的疲労感、活動性の低下が顕著でした。また、乾癬と乾癬性関節炎のいずれにおいても、かゆみの強さが疲労感と関連していました。

これらの結果は、乾癬と乾癬性関節炎の治療において、皮膚症状だけでなく関節痛やかゆみに的を絞ったアプローチが重要であることを示唆しています。IL-17阻害薬やIL-23阻害薬は、関節痛やかゆみを改善し、それに伴って疲労感を軽減することが報告されています。

【疲労感が及ぼす影響と適切な評価の必要性】

疲労感は、乾癬や乾癬性関節炎の患者さんの生活の質(QOL)を大きく損ねます。仕事のパフォーマンスや家事の効率が低下し、趣味や社会活動も制限されるでしょう。さらに、疲労感は治療アドヒアランス(治療の継続性)にも影響を及ぼします。

しかし、疲労感は主観的な症状であるため、医療現場で適切に評価されにくい側面があります。患者さんの訴えを聞き逃したり、疲労感の重要性を見落としたりしてしまうこともあるでしょう。

MFI-20のような多面的疲労感尺度を用いて、疲労感の特徴をきめ細かく把握することが重要だと考えます。また、患者さんの主観的な評価だけでなく、客観的な指標も参考にすることが望ましいでしょう。例えば、活動量計を用いて日常生活の活動性を測定したり、睡眠の質を評価したりすることも一案です。

疲労感は乾癬や乾癬性関節炎の患者さんにとって大きな負担であり、適切な評価と対応が求められます。われわれ皮膚科医には、疲労感を見逃さず、患者さんの訴えに耳を傾ける姿勢が必要不可欠です。そして、一人ひとりの症状や生活状況に合わせた治療戦略を立てることが重要です。

乾癬と乾癬性関節炎の治療において、疲労感は軽視できない問題です。疲労感を適切に評価し、症状に応じた多角的なアプローチを行うことが、患者さんのQOL向上につながるでしょう。

参考文献:

Nymand L, et al. J Am Acad Dermatol. 2024;91:57-63. Characteristics and drivers of fatigue in patients with psoriasis and psoriatic arthritis: A cross sectional study. https://doi.org/10.1016/j.jaad.2024.02.026

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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