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どうなる今年のドラフト!  高校生の指名は減少か?

森本栄浩毎日放送アナウンサー
ドラフト会議が1か月後に迫った。高校生にとって厳しいものになりそうだ(筆者撮影)

 今年のドラフト会議は10月26日。例年なら終わっているタイミングだが、今年はまだペナントレース中で、試合のない月曜日に設定された。高校生にとっては、春夏の甲子園がなくなっただけでなく、プロの扉が開くまで待たされる時間の長いこと。締めくくりのドラフトもコロナの影響を少なからず受けそうで、まさに受難の一年だ。

1年で急成長する高校生

 9月に入って、大学の試合が再開され、社会人の最高峰である都市対抗の予選も始まった。ここでプロが注目する選手はすでに前年からマークされていて、故障がないかなど現在の状態や、この1年の成長ぶりをみて取捨選択をする。対して高校生は1年で急に伸びるため、例年ならセンバツ以降のパフォーマンスが最大の拠りどころとなる。しかし、今年の3年生にとっては、それを披露する場がすべてなくなった。夏の独自大会や甲子園での「交流試合」はあったにせよ、最大の目標である甲子園とそれにつながる試合ではないので、選ぶ側も選ばれる側も、「本気度」が違う。

屈辱から阪神2位指名へ

 選手が短期間で成長した具体的な例を挙げる。昨夏の甲子園で優勝した履正社(大阪)の4番打者・井上広大は、阪神から2位指名を受けた(=タイトル写真)。すでに2軍では4番に定着し、将来の中軸としての英才教育を受けている。彼はセンバツ1回戦で星稜(石川)の奥川恭伸(ヤクルト)に抑えられて完敗。そのままで終わっていれば、名門球団の2位指名などありえなかった。屈辱にまみれた井上は、夏の大阪大会前、恩師である岡田龍生監督(59)に、「プロへいきたいです」と直訴。岡田監督からは、「夏の甲子園に出てホームランを打たないと無理だ」とハッパをかけられた。

甲子園がなければ評価されない

 この一言に、井上は発奮した。目の色を変え、がむしゃらに練習した。大阪大会で4本塁打を放った彼のバットは、夏の甲子園でも火を噴く。計10安打3本塁打14打点。6試合すべてで安打を放ち、優勝に貢献した。極め付きは決勝戦で奥川から放った決勝3ラン。決め球のスライダーを完璧にとらえた一打で、春からの進化を証明した。彼のように、夏の地方大会から覚醒する選手は少なくない。きっかけは様々でも、高校生はあっという間に成長する。甲子園で活躍することによってプロへの扉を開いた典型で、井上がもう一年遅く生まれていたら、これほど高い評価を受けるとは考えにくい。それほどまでに、甲子園は大きな舞台なのだ。

微妙な立場の選手はどうなる?

 したがって、今年に関しては、このようなサクセスストーリーは存在しない。プロ側がある程度の根拠を持って指名できるのは、昨年までの活躍で評価が定着している選手たちに限られる。明石商(兵庫)の投打の両輪である中森俊介来田涼斗や智弁和歌山の速球派右腕・小林樹斗らは確実に上位指名されるだろうが、微妙な立場の選手にとっては死活問題だ。彼らにとって、8月下旬と9月初旬に東西で行われたプロ志望高校生の「合同練習会」は、またとないチャンスだった。日本高野連とNPB(日本プロ野球機構)が共催しての初めての試みで、ここでもこれまでなら考えられないような光景が見られた。

木製バットで本気度をアピール

 それは、多くの選手が木製バットを手にしていたことである。高校で豪打をほしいままにした選手でも、まず大きな壁として立ちはだかるのがバットの違いだ。すでに独自大会から木製で打っていた選手もかなりいたようで、スカウトの心証を少しでも良くしようと必死でアピールしていた。近江(滋賀)で1年夏から甲子園に出場している土田龍空や、龍谷大平安(京都)の4番・奥村真大などは、木製で本塁打を複数本放っている。甲子園での練習会はGAORAで中継したので、彼らの「本気度」は痛いほど伝わってきた。しかし、参加した118人(西=77人、東=41人)から指名されるのは10人程度。指名される高校生は、トータルでも例年より少ないとみる。

素質を見抜いているか

 昨年のNPBドラフト指名選手は、育成も含め107人。うち高校生は52人(育成16人含む)で、全選手の半数近い。今年は、各球団の収入減もあって、指名選手自体が減少しそうな気配で、最も影響を受けるのは高校生だろう。もともと高校生は素材重視で、特に下位や育成で指名される選手は、その傾向が強い。投手なら球が速いか、体格に恵まれているか。捕手なら肩が強いか。野手なら飛距離や足の速さ。さらには守備力の高さなど、一芸に秀でた選手が、素質を買われる。微妙な立場の選手が多く参加した「合同練習会」で、将来性をプロ側がどこまで見抜いたか、スカウトの眼力も問われる。

今年は「育成」指名が増えるか?

 今年は全体的に「育成」での指名が多くなるのではないかと思っている。まず、公式戦が少なかったため、不成績選手の見極めが困難で、戦力外が例年よりも減るだろう。支配下選手が定員の70人をオーバーすれば、育成で契約するしかない。コロナ禍で興行収入が激減した各球団が、補強に大金をつぎ込みにくいことも容易に想像できる。高額な契約金で多くの選手を指名できる球団は限られる。その点、育成に関しては、契約金がなく(支度金として300万円程度支給)、年俸もかなり安い。力量判断に迷った高校生をとりあえず育成で確保して、じっくり育てる球団が増えても不思議ではない。

たとえ育成でもプロへの道はつながる

 育成選手は、3年以内に支配下登録されなければ、原則、自由契約となったり、1軍の試合に出られないなど多くの制約があるため、これを「使い捨て」ととらえ、好意的に思っていない高校指導者もいる。ただ、契約すれば同じNPBのプロ選手であり、育成からスターになった選手も多くなってきた現在では、育成でもかまわないという高校生が増えていることも事実である。コロナに翻弄され続けた今年の高3世代には同情を禁じ得ないが、せめて最後くらいはいい思いをしてほしい。世代の代表として、一人でも多くの球児に、プロへの道がつながることを願っている。

 

 

毎日放送アナウンサー

昭和36年10月4日、滋賀県生まれ。関西学院大卒。昭和60年毎日放送入社。昭和61年のセンバツ高校野球「池田-福岡大大濠」戦のラジオで甲子園実況デビュー。初めての決勝実況は平成6年のセンバツ、智弁和歌山の初優勝。野球のほかに、アメフト、バレーボール、ラグビー、駅伝、柔道などを実況。プロレスでは、三沢光晴、橋本真也(いずれも故人)の実況をしたことが自慢。全国ネットの長寿番組「皇室アルバム」のナレーションを2015年3月まで17年半にわたって担当した。

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