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新型コロナ:子どもが「感染させにくい」のは本当か

石田雅彦科学ジャーナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 これまで小児や十代の子どもは新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)に感染しにくく他者へ感染させにくいと考えられてきた。そのため、休校措置など、子どもに対する強力な感染予防策はしばらく行われていない。感染経路不明や家庭内感染が増えている状況で、本当に子どもが感染させにくいのか考えてみた(この記事は2021/01/18の情報にもとづいて書いています)。

感染しにくい子ども

 感染症対策は、感染者を特定して隔離することが重要だが、感染経路がわからないと感染者をたどることができず、感染者を探し出すことが難しくなる。新型コロナ感染症では現在、東京都など各地で感染経路のわからない患者が急増しているが、これは本当に飲食などで起こっているのだろうか。

 また、最近になって兵庫県、宮城県、福岡県などで家庭内(家族間)感染が増えてきている。また、福島県や青森県などで高校生の部活動やスポーツ大会でクラスターが発生するなど、十代の若い人でも感染者が出ている。

 家庭は感染のいきつく先、結果であって原因ではないと主張する専門家も多い。では、感染経路不明や家庭内感染は、大人が職場や飲食店などで感染したものが追えず、家庭へ持ち込んだものばかりなのだろうか。子どもが感染を拡大させている危険性はないのだろうか。

 これまで子どもは新型コロナに感染しにくく、他者へ感染させにくいとされてきた。

 例えば、中国で新型コロナ感染者を調べたところ、子どもからの感染は13.2% (43/325)で大人からの21.2%(108/510)よりも割合が低かったという(※1)。このように中国の感染初期で、子どもは大人よりかなり感染しにくいことがわかっている。

 また、英国の研究によれば、同国で2020年1月16日から5月3日までに感染検査を受けた人の中で子どもが陽性だった割合は全体のわずか1.1%でしかなく、成人の陽性率が年代によって19.1%から34.9%だったのに比べ、16歳未満の子どもでは4.0%しかいなかった。また、子どもの重症化や死亡の割合も大人よりずっと低く、この結果から研究グループは、英国で起きた第一波の感染ピークで子どもは感染しにくく、重症化や死亡のリスクが低かったことがわかったという(※2)。

 学校での子どもの感染はどうだろうか。オーストラリアのニューサウスウェールズ州の18歳未満を対象にした15校と幼児教育10施設での感染状況を2020年1月25日から4月10日まで調べた追跡研究によれば、研究期間中に約1.2%(18/1448)の二次感染者、つまり子どもと教職員(大人)の感染者から感染した感染者が出て、3校で5例(0.5%、5/914)、1施設で13例(35.1%、13/37)の二次感染者が出たことがわかった。幼児教育9施設では二次感染はなかったという(※3)。

 2019年12月1日から2020年5月28日に発表された感染伝播についての14論文を比較した研究(レビュー)によると、子どもの感染者の15%から60%が無症状であり、75%から100%が家庭内で家族から感染させられ、学校は主な感染源にはならなかったという(※4)。こうしたレビューでは、子どもによる感染伝播に関する33論文を比較したものや学校での感染に関する論文を比較した研究があるが、どちらも子どもや学生の陽性率が低いとしている(※5)。

 つまり、子どもは学校でも感染しないし、感染を広げないようだ。

家庭内では配偶者同士で二次感染

 では、家庭内(家族間)の感染はどうだろうか。子どもは家族へ感染させるのだろうか。

 2020年末に出された家庭内での二次感染に関する54論文(研究対象者7万7758人)を比較した研究によれば、やはり家庭内の二次感染者は子どもからより大人からのほうが多く(16.8%:26.3%)、配偶者同士、60歳以上で二次感染しやすかった。また、過去のSARS(重症急性呼吸器症候群)やMERS(中東呼吸器症候群)より新型コロナのほうが家庭内での二次感染が起きやすいこともわかったという(※6)。

 このように、家庭でも子どもは家族に感染させにくいと考えられている。

 ところで新型コロナでは、無症状の感染者や発症前の感染者がステルス的に感染を拡大させているようだ。子どもはもし仮に感染したとすると、無症状が多かったり感染力が強かったりするのだろうか。

 まず症状だが、新型コロナに感染した小児の症状などに関する27論文(研究対象者4857人)を比較した研究によると、小児の患者の約半数が発熱と咳が出て、約6%から17%で呼吸が速くなり、6%から13%で腹痛や下痢などの胃腸に関する症状が出たという。また重症化(severe)や重篤化(critical)した小児は全体の約4%で大人の10%から30%よりずっと低い割合であり、死亡率も子どもは0.1%以下で大人の5%から15%よりもずっと低かった(※7)。

 また、子どもの症状に関する18論文を比較した研究によると、子どもの感染者の14.6%から42%が無症状だったという(※8)。子どもを含めた無症状患者の割合を知るのは難しいが、これまでの研究から最も小さく見積もって9.2%、最大に見積もった研究では69%も無症状患者がいるという推計もある(※9)。つまり、子どもの無症状患者は、大人とそう変わらない割合でいるというわけだ。

 つまり、子どもが新型コロナにかかると発熱、咳、早い呼吸、胃腸に関する症状が出るが、大人と同じ程度の無症状陽性者がいるということになる。

 以上のように、子どもが感染しにくく感染を広げないという研究が多い一方、2020年の夏以降から子どもの感染力は強いかもしれないと異なった結果を示す研究も出てき始めている。

 例えば、米国で2020年3月23日から4月27日までの間に新型コロナ検査を受けた145人のウイルス量を年齢別に調べた研究では、5歳未満の小児でウイルス量が多く、5歳から17歳の子どもは18歳以上と同じ程度のウイルス量だったという(※10)。この論文の研究者は、この年代の小児でワクチン接種の優先順位を上げる必要を検討したほうがいいといっている。

 また、米国マサチューセッツ州の病院で子ども(10.2歳プラスマイナス7.0歳)の新型コロナ感染者49人(入院患者の26%)と多臓器炎症を起こして新型コロナが疑われる患者18人(同9%)のウイルス量や新型コロナウイルスが細胞へ侵入する入口になるACE2という酵素受容体の発現レベルを調べた研究によれば、鼻咽頭のウイルス量は無症状や発症後2日間の子どもで7日以上入院している重症の大人よりも多かった。

 年齢が低くなる(10歳未満)とACE2の発現量が少なくなる傾向があったが、新型コロナに感染した小児ではACE2の発現が増えていたという(※11)。この論文の研究者は、全ての年齢の子どもがいったん感染すると、多くのウイルスを伝播する危険性があると警告している。

子どもでウイルスが変異か

 このように、子どもは新型コロナウイルスが細胞へ侵入する入り口であるACE2の発現が少ないので、感染リスクも低くなるようだ。しかし、無症状のケースも大人と同じくらいあり、感染するとウイルス量が多くなるかもしれないという研究もある。

 無症状の患者が感染を広げるリスクは、これまでも強調され続けてきた(※12)。特に若い世代の無症状患者の割合が多いことも指摘されているが、男性ホルモンであるアンドロゲンの量が低いほど感染しにくいからとも考えられている(※13)。女性より男性で感染リスクが高いのも子どもで感染リスクが低いのも、アンドロゲンのせいというわけだ。

 子どもの感染者がステルス化するリスクは他にもある。新型コロナにかかった子どもの症状は、発熱や嘔吐、下痢などの風邪によくあるもので重症化しにくいため、単なる風邪として検査を受けず、そのまま治ってしまうことがあるからだ(※14)。

 ただ、無症状の子どもは症状がある子どもよりもウイルス量が少ないという研究もあり(※15)、この議論についてはまだ結論は出ていない。

 また、気になるのは、新型コロナのウイルス量が高い5歳未満の子どもで、ウイルス変異が起きやすくなっているという研究があることだ。その変異率は他のウイルスより約60%も高いらしい(変異回数13.5/年:変異回数22.2/年)。さらに、子どものウイルスで毒性の強い変異種との関係も示唆されるという(※16)。

 未就学児童教育施設を除く学校と大学の休校措置に感染拡大抑制効果があるという研究もあるが(※17)、インフルエンザと異なり新型コロナの感染拡大を防ぐための単独の施策としての休校措置にはあまり効果的ではなさそうだ(※18)。逆に、子どもの教育や心理に悪影響をおよぼし、保護者や社会の負担を増やすだけだろう(※19)。

 いずれにせよ仮に新型コロナに感染して感染を広げたとしても、子どもに罪はもちろん責任もない。むしろ、大人が感染し、子どもを含めた周囲へ感染させるケースのほうが圧倒的に多いだろう(※20)。

 以上をまとめれば、子どもは新型コロナに感染しにくいし、他者へ感染させにくい。また、無症状患者の割合は大人と同じ程度いるが、無症状の子どもでウイルス量が多く感染力が強いかどうかはまだわからない。ただ、子どもの新型コロナは風邪とまぎらわしいので要注意だ。

 イスラエルでは2020年5月に休校が解除され、授業が再開された高校で153人の生徒と25人の教職員が感染する大規模なクラスターが発生している。幸い、ほとんどの患者が軽症か無症状だったが、このクラスターが起きた理由は、授業の再開後にイスラエルを40度以上の熱波が襲い、マスクを着用しない生徒が多い状態でエアコンをつけて換気せずに教室に密集していたためと考えられている(※21)。

 ワクチンも子どもに優先的に接種させるべきかどうかで議論があるが(※22)子どもをどう守るのかを今一度よく考えたほうがいいだろう。

 イスラエルの例でもわかるが、新型コロナの感染拡大を防ぐために重要なのは、マスクの着用、手指衛生、3密の回避などと自らが無症状の感染者である危険性を考えて他者へうつさないように振る舞うことだ。子どもも一緒に利他的な行動を心がけたい。

※2021/01/21:PM15:45:未就学児童教育施設を除く学校と大学の休校措置に感染拡大抑制効果があるという研究もあるが(※17)〜※17:Jan M. Brauner, et al., "Inferring the effectiveness of government interventions against COVID-19" Science, eabd9338, DOI: 10.1126/science.abd9338, 15, December, 2020を追加した。

※1:Chun-Zhen Hua, et al., "Epidemiological features and viral shedding in children with SARS-CoV-2 infection" Journal of Medical Virology, Vol.92, Issue11, 2804-2812, 15, June, 2020

※2:Shamez N. Ladhani, et al., "COVID-19 in children: analysis of the first pandemic peak in England" BMJ, Archives of Disease in Childhood, Vol.105, Issue12, 12, August, 2020

※3:Krisutine Macartney, et al., "Transmission of SARS-CoV-2 in Australian educational settings: a prospective cohort study" THE LANCET Child & Adolescent Health, Vol.4, Issue11, 807-816, 1, November, 2020

※4:Luis Rajmi, "Role of children in the transmission of the COVID-19 pandemic: a rapid scoping review" BMJ Paediatrics Open, Vol.4(1), e000722, 21, June, 2020

※5-1:Wue Li, et al., "The role of children in the transmission of SARS-CoV-2: update rapid review" journal of global health, Vol.10(2), 021101, 23, September, 2020

※5-2:Wei Xu, et al., "What is the evidence for transmission of COVID-19 by children in schools? A living systematic review" journal of global health, Vol.10(2), 021104, 19, December, 2020

※6:Zachary J. Madewell, et al., "Household Transmission of SARS-CoV-2 A systematic Review and Meta-analysis" JAMA Network Open, Vol.3(12), e2031756, 14, December, 2020

※7:Jitendra Meena, et al., "Clinical Features and Outcome of SARS-CoV-2 Infection in Children: A Systematic Review and Meta-analysis" Indian Pediatrics, Vol.57, 820-826, 24, June, 2020

※8:Russell M. Viner, et al., "Systematic review of reviews of symptoms and signs of COVID-19 in children and adolescents" BMJ, Archives of Disease in Childhood, doi.org/10.1136/archdischild-2020-320972, 17, December, 2020

※9:Andreas Kronbichler, et al., "Asymptomatic patients as a source of COVID-19 infections: A systematic review and meta-analysis" International Journal of Infectious Diseases, Vol.98, 180-186, September, 2020

※10:Taylor Heald-Sargent, et al., "Age-Related Differences in Nasopharyngeal Severe Acute Respiratory Syndrome Coronavirus 2 (SARS-CoV-2) Levels in Patients With Mild to Moderate Coronavirus Disease 2019 (COVID-19)" JAMA Pediatrics, Vol.174(9), 902-903, 30, July, 2020

※11:Lael M. Yonker, et al., "Pediatric Severe Acute Respiratory Syndrome Coronavirus 2 (SARS-CoV-2): Clinical Presentation, Infectivity, and Immune Responses" The Journal of Pediatrics, Vol.277, 45-52, December, 2020

※12:Hanalise V. Huff, et al., "Asymptomatic Transmission During the Coronavirus Disease 2019 Pandemic and Implications for Public Health Strategies" Clinical Infectious Diseases, Vol.71, Issue10, 2752-2756, 15, November, 2020

※13:Lea A. Kikolai, et al., "Asymptomatic SARS Coronavirus 2 infection: Invisible yet invincible" International Journal of Infectious Diseases, Vol.100, 112-116, November, 2020

※14:Matteo Di Nardo, et al., "A literature review of 2019 novel coronavirus (SARS-CoV2) infection in neonates and children" Pediatric Research, doi.org/10.1038/s41390-020-1065-5, 17, July, 2020

※15:Larry K. Kociolek, et al., "Comparison of Upper Respiratory Viral Load Distributions in Asymptomatic and Symptomatic Children Diagnosed with SARS-CoV-2 Infection in Pediatric Hospital Testing Programs" Journal of Clinical Microbiology, DOI: 10.1128/JCM.02593-20, 17, December, 2020

※16:Utsav Pandey, et al., "High Prevalence of SARS-CoV-2 Genetic Variation and D614G Mutation in Pediatric Patients with COVID-19" Open Forum Infectious Diseases, doi.org/10.1093/ofid/ofaa551, 13, November, 2020

※17:Jan M. Brauner, et al., "Inferring the effectiveness of government interventions against COVID-19" Science, eabd9338, DOI: 10.1126/science.abd9338, 15, December, 2020

※18:Juanjuan Zhang, et al., "Changes in contact patterns shape the dynamics of the COVID-19 outbreak in China" Science, Vol.368, Issue6498, 1481-1486, 26, June, 2020

※19:Benjamin Lee, William V. Raszka, "COVID-19 Transmission and Children: The Child is Not to Blame" PEDIATRICS, Vol.146, Issue2, 1, August, 2020

※20:Shari Krishnaratne, et al., "Measures implemented in the school setting to contain the COVID‐19 pandemic: a rapid scoping review" Cochrane Library, doi.org/10.1002/14651858.CD013812, 17, December, 2020

※21:Chen Stein-Zamir, et al., "A large COVID-19 outbreak in a high school 10 days after schools’ reopening, Israel, May 2020" Eurosurveillance, Vol.25, Issue29, 23, July, 2020

※22:Brian Li Han Wong, et al., "Should children be vaccinated against COVID-19 now?" BMJ, Archives of Disease in Childhood, doi.org/10.1136/archdischild-2020-321225, 5, January, 2021

科学ジャーナリスト

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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