北十勝のバイパス線となるはずだった白糠線廃止から40年 ドライバー不足の今、改めて必要性を考える
2023年10月23日をもって国鉄白糠線は廃止40年を迎えた。白糠線は1983年10月22日の運行をもって翌日の10月23日に廃止。北海道の根室本線白糠駅から分岐し、白糠町の二股地区にある北進駅までの33.1kmを結んでいたが、1980年の国鉄再建法施行を受け、特定地方交通線廃止第1号となった。
こうしたことからX(旧ツイッター)上には、10月22日から23日にかけて当時の白糠線を偲ぶ投稿が多く見受けられた。廃止から40年がたっても当時をしのぶ人が多くいることはバスでは見られない現象ではないか。
白糠線は北海道十勝地方のバイパス路線の一部として計画
白糠線は北海道の過疎地帯を走る日本屈指の赤字ローカル線という印象が強いかもしれないが、もともとは、釧路―白糠―北進―足寄―上士幌―士幌―新得間を結ぶ十勝地方の北部を結ぶバイパス路線の一部として計画がされた路線であった。このうち、白糠―北進間は白糠線として1964年から1972年にかけて開業。士幌―新得間については北十勝線として計画されていた。白糠線の北進―足寄間については1980年の国鉄再建法施行をもって建設工事が凍結。1983年に既存の開業区間であった白糠―北進間が廃止され、北海道十勝地方の北部を結ぶバイパス路線は幻の路線となった。
足寄駅では池北線と接続し、上士幌―士幌間では士幌線の線路を共有する計画であったが、池北線は1989年に第三セクター鉄道の北海道ちほく高原鉄道となるも2006年に廃止。士幌線についても国鉄分割民営化直前の1986年に廃止されている。
国鉄再建法が施行された当時の社会情勢としては、赤字で、旅客は自家用車に奪われ、貨物はトラックに奪われ鉄道は客貨ともにシェアをどんどん落としている状況であった。加えて北海道の国鉄路線の赤字額はおよそ2800億円にも達し、国鉄分割民営化を控えた1980年代はこの膨大な赤字の解消が喫緊の課題であり、北海道内の多くの鉄道路線が廃止された。
そして、1987年の国鉄分割民営化で北海道の国鉄路線はJR北海道へと引き継がれることとなった。JR北海道は発足当初から鉄道事業の黒字化が見込まれないことから、引き継がれた全路線の年間の適正赤字額が500億円とされ、この金額を6822億円の経営安定基金の運用益によって賄う方針とされた。経営安定基金の金額は、当時の長期金利7.3%から逆算して設定され、JR北海道は、この経営安定基金から生み出される運用益約498億円で赤字額を穴埋めするものとされた。
しかし、バブル経済が崩壊した1990年代半ば以降、日本は低金利時代に突入し、JR北海道の経営安定基金の運用益は急激に減少。その後、深刻な経営危機に陥ったのは周知の事実である。
令和時代に入り高まる鉄道の重要性
しかし、昨今、国内の地方鉄道を巡る状況は大きな変化を見せている。ドライバーの残業規制を強化する「2024年問題」を目前に、バスドライバー不足が想像以上に深刻化し、鉄道の代替交通をバスでは担えないことが表面化した。また、今後はバスだけではなくトラックドライバー不足の深刻化も予想されることから、国土交通省は、船舶・鉄道の貨物輸送量を今後10年間で倍増する方針を発表した。
さらに、地域公共交通活性化再生法が4月に改正されたことで、地方自治体の公共事業を国が支援する「社会資本総合整備交付金」の対象に「鉄道の再構築事業」が加わるなど、鉄道の維持を図るための国からの支援策が徐々に充実してきている。
2023年8月に石北本線が大雨の影響で線路の土台となる土砂が流出し、上川―白滝間で2週間近くにわたって不通となった際には、北見産のタマネギを運ぶ貨物列車も運休を余儀なくされ、トラックによる代行輸送が行われた。当時の地元新聞では、「1日1往復の貨物列車をトラックで代替輸送すると、約20台のトレーラーが新たに必要になるといい、こうした事態が長期化すると運転手の確保に影響がでる可能性がある」と報道された。
石北本線の不通は、東急が北海道で運行した豪華列車ザ・ロイヤルエクスプレス北海道の運行にも影響が及んだ。8月7日に北見駅に取り残されたザ・ロイヤルエクスプレスはそのまま運行打ち切りとなり、その後、網走・釧路経由で札幌まで返却回送されており、SNS上では「北見―池田間を結んでいた北海道ちほく高原鉄道ふるさと銀河線(旧池北線)が残っていれば迂回ルートに使えたのではないか」という声も見受けられた。ふるさと銀河線では北見―池田間を140.0kmで結んでいたが、これを網走・釧路経由で迂回すると326.2kmとなる。
貨物列車のバイパスルートとしての北十勝線の必要性
近年は、自然災害や大火災、テロ攻撃などの緊急事態に備えて被害を最小限にとどめておくためのBCP(事業継続計画)や、国家のリスク分散の観点から鉄道の迂回ルート整備の必要性が唱えられるようになってきている。例えば、新潟県のえちごトキめき鉄道はねうまライン(直江津―妙高高原間)としなの鉄道北しなの線(妙高高原―長野間)では、首都圏や名古屋方面から長野方面への貨物列車のメインルートとなっている中央本線が被災した時に備えて、貨物列車の迂回運転ができるように整備がされている。
現在の北海道では多くの鉄道路線の「攻めの廃線」進みそれぞれの主要都市には幹線ルートが1路線しか存在しない状況となってしまった。8月の石北本線の災害時には幹線ルートが1本しかないことの脆弱性が露呈した形となった。今回は運よく2週間ほどで復旧できているが、万が一、不通となる期間が長引けで本州方面へのタマネギの出荷に大きな影響がでたことは間違いない。
こうした食料安全保障の面からも国家としてのリスク分散は重要で、そのための鉄道ネットワークの再整備という切り口であれば、国土交通省北海道局の北海道開発予算を財源に池北線や白糠線、北十勝線の再整備はあってもよいかもしれない。
(了)