日本人の「希望寿命」は何歳? あなたは何歳まで生きたいですか
先日、2021年の日本人の平均寿命が発表されました。それによると、女性は87.57歳、男性は81.47歳で、コロナの影響により過去最高であった前年を下回りました。しかし、寿命が短くなったとは言え、日本女性は世界で第1位、日本男性は第3位の世界有数の長寿国です。
「長寿」は本来喜ばしいことです。しかし、一方で何歳まで生きてしまうかわからない「長生きをリスクと感じる人々」が増えているのもおそらく事実でしょう。
本年6月の公開映画『PLAN 75』が、75歳に達した人が自ら死を選択できる法律が成立した世界をテーマとして話題となったように、もしかすると人々は潜在的に「長生きしたくない社会」を志向し始めているのかもしれません。
そこで、人々は実際に何歳まで生きたいと考えているのか、アンケートシステム「ミルトーク」を使い、「あなたが理想と考える、亡くなりたいと考える“希望寿命(年齢)”は何歳ですか?」という設問を投げかけてみました。期間は、2022年8月13日〜8月14日で、回答を頂いたのは、20歳から86歳までの1,348名でした。以下、その内容を紹介していきたいと思います。(※)
図表1 実年齢と希望寿命の散布図
回答者の平均希望寿命は81.79歳
図表1は、実年齢を横軸、希望寿命を縦軸に散布図にしたものとなります。これを見ると、どの実年齢においても幅広い希望寿命となっていることがわかります。
上は120歳前後もいるものの、100歳と回答される方が比較的多い。これは、「人生100年時代」というフレーズが定着した結果なのかもしれません。希望寿命のボリューム年齢としては、おおむね70歳から90歳であることがわかります。一方で、実年齢からさほど離れていない年齢を希望寿命と回答される方も少なからずいらっしゃることもわかります。
プロットされたドット(点)が、横に連なって見えるのは、70歳、80歳、100歳など、丁度キリの良い年齢数値を希望寿命として答える人が多い結果です。
では、具体的にどの年齢が多かったのかを年齢5歳幅のヒストグラムで見たものが図表2となります。
図表2 希望寿命ヒストグラム
最も多かったのが、75歳以上80歳未満で、次いで85歳以上90歳未満、80歳以上85歳未満となります。冒頭にも述べましたが、現在の日本人の平均寿命は、女性は87.57歳、男性は81.47歳ですから、この数値を見る限り、大きく希望寿命と実際の平均寿命が離れているということはなさそうです。
ちなみに、今回お伺いした1,384名全員の平均希望寿命は81.79歳(実年齢平均52.83歳)であり、これも男性の平均寿命とほぼ同じ結果となりました。
男女、未既婚、年齢別に異なる希望寿命
それでは、希望寿命は、男女別や未既婚別、年齢別ではどうなっているでしょうか。それらを順次調べてみました。
まず、男女別による違いです。これは少し実際の平均寿命と異なる結果が表れました。
・男性(n=580)の平均希望寿命:83.83歳
・女性(n=781)の平均希望寿命:79.97歳
と、女性の希望寿命が男性の希望寿命を下回りました。これは、一般的に他のアンケートでも同じような結果が出ることが多いのですが、女性のほうが男性よりも比較的ネガティブな声を持つ割合が高く、これもそうした傾向を反映したものかもしれません。
次に、未婚、既婚別の違いを見てみましょう。
・未婚(n=480)の平均希望寿命:77.58歳
・既婚(n=881)の平均希望寿命:83.89歳
未婚の平均希望寿命が既婚よりも短い結果となりました。これは未婚の平均年齢が47.16歳に対して、既婚の平均年齢が55.95歳と高いことから、その結果が平均希望寿命に反映した可能性も否定できません。
最後に、年代別(10歳刻み)の希望寿命を見たものが図表3になります。
20代(平均実年齢:25.99歳)の希望寿命は75.43歳、30代(平均実年齢:34.87歳)の希望寿命は77.03歳と、50代を除き年代が上がるに従い、希望寿命年齢も上昇する傾向にあります。40代と50代の希望寿命がほぼ変わらないことについての理由は不明ですが、このあたりを深掘りしていくと、その年代特有の老後観がもしかすると垣間見られてくるかもしれません。
図表3 年代別希望寿命
さらに、この各年代の考える希望寿命と実際の各年代のリアル寿命(実年齢にその年齢の平均余命を加えたもの)を比較したものが図表4となります。
これを見ると、20代から50代は、希望寿命とリアル寿命の間には開きがあることがわかります。例えば、20代の希望寿命75.43歳に対して、男性のリアル寿命は82.15歳、女性のそれは88.13歳ですから、それぞれ6.72年、12.7年の開きが見られるということです。
しかし、60代以上になるとその差はだいぶ縮まり、70代以降では、希望寿命とリアル寿命にほぼ違いが見られなくなります。この年代になってくると、自分の終末期に関する解像度がだいぶ上がってくるということなのかもしれません。
図表4 希望寿命とリアル寿命
生きづらさをなくす"包摂社会"の構築を
以上、長生きリスク意識の高まりを前提としながら、日本人の「希望寿命」意識について調べてみました。その結果、わかったこととしては、
・平均希望寿命は81.79歳(実年齢平均52.83歳)であり、男性の平均寿命とほぼ同じ年齢であった
・実際の平均寿命とは異なり、女性のほうが男性よりも希望寿命を短く答えがちであったこと
・実際の平均寿命に対し、希望寿命は短く答えがちな傾向がある。しかし、その差は年代が上がるにつれ縮まる傾向にあり、70代以上ではほぼその差はなくなる
などのポイントをあげることが出来るでしょう。
また、もしかすると人々は潜在的に「長生きしたくない社会」を志向し始めているのかもしれないという仮説については、はっきりとした結果を得ることは出来ませんでした。
しかし、気になった点としては、実年齢とさほど離れていない年齢を希望寿命としてあげる方が一定数いらっしゃったということです。
もしかすると彼ら彼女たちは、今の社会を「生きづらい」と感じているのかもしれません。そうした人々の気持ちを汲み取れることのできる「包摂社会」の構築が望まれるところです。
(※)注釈
回答は単純に年齢のみを答えて頂きました。但し、「200歳」「1000歳」など、現在の生物年齢として物理的に不可能な年齢を回答された方や、実年齢を下回る年齢を答えた方は、(その理由に関わらず)除外させて頂き、年齢の上限としては、現在世界最高年齢と記録されているのが122歳であることを踏まえて、120歳代までとさせて頂きました。
また今回の調査は、サンプル数を人口動態に比例させるなどといった統計的処理を行なっておりませんので、あくまで参考値としてお考えください。