安倍政権「悪の三本の矢」で日本が超監視社会に―共謀罪法案に危惧、盗聴やネット監視も進む
政府の方針に反対しデモを行おうとしたり、政権に都合の悪いことを調査報道したりすることなどを、仲間内で論議しただけで、逮捕されたり、処罰されたりする―そんな独裁国家のような国へと、日本が変貌していくかもしれない。今月23日から審議が衆議院で開始された組織的犯罪処罰法改正案。一部メディアでは、「テロ等準備罪法案」と表記され、また別のメディアでは「共謀罪法案」とも呼ばれる。共謀罪に強い危惧を抱くジャーナリストの林克明氏は「既に成立している特定秘密保護法や改正刑事訴訟法に、共謀罪を加え、“悪の3本の矢”となることで、日本は超監視社会、表現の自由が封殺された社会になる」と警告する。
〇共謀罪で市民運動弾圧の危険性、盗聴やネット監視も進む
これまで、日本の法律では、実際に犯罪を行うか、着手(具体的に犯罪行為の準備を始めること)するかしなければ、捜査・処罰対象にならなかった。今回の組織的犯罪処罰法改正案で追加するとされる共謀罪では、「着手」の前段階、つまり、犯罪行為について、それが実行も着手もされていなくても、二人以上がその着手ないしは実行することを「合意した」とみなされた時点で、捜査・処罰対象にできるようにするものだ。冗談まじりに話したり、ネット上でやり取りしたことすら捜査対象になりうる上、法案が対象とする犯罪数が277と非常に広範囲で、テロとは関係ないものがほとんどであることから、野党や学識経験者達からも、強い懸念の声が上がっている。
政府はあくまでテロ対策だと主張しているが、ジャーナリストの林克明氏は「理論上は、例えば沖縄の基地反対運動で座り込みを行おうとやり取りしていた人々が、『威力業務妨害罪』の共謀をしていた、として捜査される可能性もあるのです」と、単なる犯罪対策のみならず、憲法で保障された表現の自由まで弾圧される恐れもあると指摘。国会答弁をみても、安倍首相や菅義偉官房長官、金田勝年法相が「一般の人々は(共謀罪の捜査の)対象ではない」と説明してきたのに対し、21日の衆院法務委員会で、盛山正仁法務副大臣は「一般の人が(共謀罪の捜査の)対象にならないということはない」と明言、これまでの主張をひるがえしている。そもそも、法案には「一般の人々に対しては共謀罪を適用しない」とは一言も書いていない。林氏が危惧するように、具体的な歯止めもなく恣意的運用が行われる可能性は無いとは言えないだろう。
だが、共謀罪の弊害はそれ自体のものにとどまらない。林氏は「共謀罪法案が成立した後、当局による盗聴やネット監視は大規模かつ広範に行われるようになるでしょう」と指摘する。「効率的に共謀罪を適用するためには、関係者の会話や電話、メールやラインなどのSNS等を盗聴・監視することが必要でしょう。昨年5月に成立した「刑事訴訟法等の一部を改正法律」により、盗聴対象範囲拡大については昨年12月から施行されています。共謀罪法案が成立したら、関連する277の犯罪の捜査として、盗聴・監視がさらに拡大していく恐れがあるのです」(林氏)。
〇特定秘密保護法が既に悪影響
さらに、2015年末に施行された特定秘密保護法も、政府に都合の悪い情報が隠蔽されることが懸念されていたが、林氏は「既に悪影響を及ぼしている」と言う。「特定秘密保護法は、『特定秘密』とされた事柄について、情報を漏らした者に懲役10年という重い罰則を科しています。また、その特定秘密が何であるか、それを直接扱うごく少数の人間にしか明かされない、つまり何が秘密かも秘密なのです。だから、記者への情報提供者は委縮する。実際、私達の仲間の間でも、信頼関係を築いて、情報を提供してくれた政府内部の協力者から、特定秘密保護法の成立以後は、情報をもらえなくなったという事例がいくつもあるのです」(同)。特定秘密保護法により、政府が隠蔽した情報に迫った市民や記者も「漏えいをそそのかした」として、最高で懲役5年の刑罰が科せられる可能性があるが、「これに共謀罪や改正刑訴法による盗聴、メール監視等が組み合わされることで、さらなる情報統制が進むことになりかねない」と林氏は危惧する。
実際、安倍政権の下で日本の報道の自由度は大幅に低下した。国際NGO「国境なき記者団」が格付けする世界報道の自由度ランキングで、日本は民主党・鳩山政権時は11位と高ランクだったのに対し、今月26日に発表された最新のランキングでは、72位と先進主要7か国では最下位。その理由の一つとして「政権側がメディア敵視を隠そうとしなくなっている」ことが挙げられた。また、昨年4月に日本の表現の自由について調査を行ったデイビッド・ケイ国連特別報告者も沖縄の米軍基地反対運動への弾圧を批判していた。共謀罪法案が成立したら、安倍政権はそれをメディア関係者や市民運動を抑え込むために悪用しかねないし、仮にしなくても、日本のメディア関係者が萎縮して、自主規制することは、これまでの経緯から観ても十分あり得ることだろう。
〇テロ防止に共謀罪は必要ない
そもそも、テロ防止のために共謀罪が必要なのかも疑問が残る。「組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律」など対テロという点については既存の法律でも、犯行について準備した時点で取り締まり可能であり、判例として認められている「共謀共同正犯」で、直接、犯行の実行/準備に関わっていない首謀者も取り締まり対象にできる。林氏は「新たに共謀罪を新設する必要は全くない」と断言する。既存の法律で対処できるならば、その枠組みで対応すべきだろうし、歯止めなく人々の権利を奪うような法律をつくることは、民主主義国家として控えるべきことだろう。
(了)