井岡一翔が日本人初の4階級制覇 流れを変えたのはピンチの第7Rだった
6月19日千葉・幕張メッセで、WBO世界スーパーフライ級王座決定戦が行われた。4階級制覇を目指す井岡一翔(30=Reason大貴)が、同級1位のアストン・パリクテ(28=フィリピン)と対戦。井岡にとって、2年2ヶ月ぶりの日本試合となった。
体格が大きいパリクテ
両者がリングに上がり、まず目に付いたのは、体格差だ。一つ上の階級でも試合をしているパリクテと、下から階級を上げてきた井岡。
身長も、頭ひとつ分ぐらい違い、同じ階級の選手とは思えなかった。序盤は、体格で上回るパリクテが、長いリーチを活かして、迫力のある攻撃で攻めてきた。
高い身長から打ち下ろす右ストレートは、脅威だった。決してパワーだけの選手ではない。
アッパーを織り交ぜたコンビネーションや、角度を変えたフックなど、高い技術もある。
井岡は、今回の試合のテーマは「左」と話していたが、懐が深く、リーチが長いパリクテに、得意のジャブがあたらない。
井岡の攻撃にカウンターのパンチを合わせてきて、ペースを握る。中盤に入ると、井岡も前に出て、攻勢を仕掛けていった。
いつものように、距離を取るだけではペースを掴めないため、相手の懐に入っていく。
ボクシングでは「戦う距離」が重要になる。相手の方が、リーチが長くても、自分のパンチが当たり、相手のパンチを殺せる絶妙な距離がある。
その距離を掴んだ方が、試合を有利に進める。
気持ちを前面に押し出した試合
一進一退の攻防が続き、迎えた7R。ここで大きな動きがあった。パリクテのオーバーハンドの右がヒットして、井岡に攻めかかる。
アッパーやフックをラッシュして、井岡を防戦一方にさせた。パンチをもらうことが少ない井岡の、このようなシーンを見るのは初めてだった。
なんとか、このラウンドは凌いだが、危なかった。次のラウンドでは、サイドに動いてペースを変えていく。
その後も、一進一退の攻防で、互角の展開が続いた。そして、試合も10R目になり、終盤に差し掛かった。
この辺りが一番キツイところだ。11、12R目になると先が見えるが、10Rだと、あと2Rある。
体力的にも非常にキツくなる時間だ。疲労が溜まっている、このラウンドが勝負の分かれ目となった。
井岡のカウンターの右がヒットして、パリクテが下がる。ここが勝負どころと見極めて、ラッシュをかけた。
ボディやフック、アッパーを散らして、パンチを連打していく。
パリクテも、手が出なくなり、防戦一方になったところで、レフリーが試合を止めた。
後でパリクテ陣営が、ストップに対して抗議していたが、手が出ていなかったので、妥当なストップだろう。
井岡が、日本人初の4階級制覇を達成した。
勝負が動いたのは7R
勝負のポイントとなったのは、ピンチを迎えた第7Rだった。
パリクテは、井岡が効いているのをみて、一気にパンチで畳みかけた。
あわやKO負けもよぎったが、
井岡も「ここで打ち勝たないと、勝てないと思ったので覚悟を決めて打ち合った。下がらずに打ち合ったことで、相手の気持ちも折れた」
と試合後に語った。その後、試合の展開が変わっていった。
パリクテは、打ち合いで、体力を消耗したようだった。倒せそうで倒せなかった時の、精神的、肉体的ダメージは大きい。
そこから、パリクテの動きは徐々に落ちていった。井岡も、そのあたりから距離を詰めていき、ペースを引き戻していった。
ボクシングの世界では、ピンチはチャンスと言われる。展開が目まぐるしく変わるピンチの時こそ、自分の戦い方を変えるチャンスなのだ。
拮抗したラウンドが続き、内容も互角の展開だった。7Rでは、あわやKO負けもよぎったが、そこからのKOで、会場も大いに盛り上がった。
一瞬の隙を見て、パンチをまとめ、KOに結びつけた井岡の執念が実った。
前回の敗戦の経験を活かし、スタイルを変え、見事なKO劇でスーパーフライ級のベルトを獲得した。
これまでの、淡々とした戦い方から、気持ちを前面に押し出して戦った、井岡の意気込みが伝わる試合だった。
まさしく、人生を懸けて戦った試合と言える。