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森保ジャパンとの対決はあるか。東京五輪に挑む韓国サッカー「Z世代」たち

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
今年3月の日韓戦にも出場したイ・ガンイン(写真提供=KFA)

明日の開幕式よりも一足早く始まる東京五輪・男子サッカー。本日7月21日には森保一監督率いるU-24日本代表が初戦を行なうが、同時刻にU-24韓国代表も初戦を迎える。

韓国が属するのはニュージーランド、ホンジュラス、ルーマニアと同じグループB。韓国国内では“最高の組み合わせ”とされており、グループリーグ突破の可能性はかなり高いとも言われている。

続く準々決勝は、グループA1位対グループB2位、グループB1位対グループA2位の対戦カードとなっているため、グループAの日本が順当にグループリーグを突破すれば準々決勝が“日韓戦”になる可能性もあるだけに、今からU-24韓国代表のことを知っておくのも悪くはないだろう。

まず、チームを率いるキム・ハクボム監督は指導者歴28年の大ベテランだ。選手時代はKリーグ経験も代表経験もなく1992年に32歳で引退。その後、指導者に転身し、1990年代後半から2000年代序盤にかけてKリーグの常勝軍団だった城南一和でヘッドコーチを務めて“名参謀”と言われた。

2005年からは城南一和の監督を務め、2008年ACL準決勝では浦和レッズと名勝負を演じている。2010年以降は中国の河南建並、Kリーグの江原FC、城南FC、光州FCを指揮。

研究熱心で選手掌握術にも長けていることからアレックス・ファーガソンの名をもじって“ハクボムソン”と呼ばれたり、同じく選手時代は無名ながらも名将となった「韓国版ジョゼ・モウリーニョ監督のようだ」と言われたこともあった。

そんなベテラン監督が現行のチームを任されたのが2018年2月。まずは同年8月のアジア大会で金メダルを勝ち取り、2020年1月には東京五輪アジア予選も兼ねていたAFC U-23チャンピオンシップで全勝優勝。しっかり結果を残し、着実にチームを作り上げていた。

ところが、新型コロナで東京五輪は延期になり、他国同様にU-23韓国代表の強化も思うようには進まなかった。

2020年に実施した強化試合は10月に実施された韓国代表との“兄弟対決”2連戦(1敗1分け)と11月にカイロで戦ったU-23エジプト代表(0-0で引き分け)とU-23ブラジル代表(1-3で敗北)の2試合のも)。

年が明けても1月、3月と代表招集はあったが強化試合は組めず、Kリーグ・クラブとの練練習試合やトレーニングしかできなかった。

本格的な強化が始まったのが5月末。それも熾烈なサバイバル競争だった。

1次合宿ではイ・ガンイン(バレンシア)やイ・スンウ(ポルティモネンセ)、チョン・ウヨン(フライブルク)ら欧州組を含む28人が招集されたが、U-24ガーナ代表との強化試合2連戦を終えたあとにまず6人が落選。

続く2次合宿後には8名が落選。オーバーエイジ3枠をフル活用するためとはいえ、28名を15名に絞ったのだ。生存率にして65%。第1次合宿後にはイ・スンウや彼と同じくバルサ・ユース出身で今年春までドイツでプレーしていたペク・スンホ(全北現代)、第2次合宿後にはチョン・ウヨンが落選したほどだ。

ただ、裏返せばそれだけKリーグ組の競争力が高い証でもある。今回選ばれたほとんどの選手が各クラブで主力を務めており、特に2列目は粒揃いだ。イ・ドンギョン(蔚山現代)、イ・ドンジュン(蔚山現代)、ソン・ミンギュ(全北現代)、オム・ウォン(光州FC)などは韓国代表でも頭角を現している。

そんな勢いのあるKリーグ組と5月の合宿からU-24代表に加わったイ・ガンイン、そしてオーバーエイジとして参加するクォン・チャンフン、ファン・ウィジョがどんな化学反応を起こすかに期待は集まるが、一方で不安ばかりが募るが守備のほうだ。

(参考記事:「U-24日本代表と対照的」との声も…U-24韓国代表が抱える“オーバーエイジの不安”とは)

直近の強化試合でもU-24アルゼンチン代表に2失点を許し、壮行試合となったU-24フランス代表戦では先制するも1-2の逆転負けを喫している。

U-24韓国代表はもともと守備が不安で、その弱点を解消すべく “韓国のファン・ダイク”と呼ばれる韓国代表CBキム・ミンジェ(北京国安)をオーバーエイジとして招集して練習にも参加していたが、キム・ミンジェの欧州移籍を進める北京国安が派遣を拒否。五輪開幕直前にメンバー変更を余儀なくされた。

キム・ミンジェの代わりとして、昨シーズンまで広州恒大に在籍し今年6月から兵役のために国軍体育部隊のサッカーチームである金泉尚武(キムチョン・サンム)に所属する韓国代表パク・ジスが招集されているが、パク・ジスは韓国代表として7試合しか出場経験がなく、Kリーグでも凡ミスからPKを献上してしまうなど不安定だ。

それだけに韓国の一部では「グループリーグは突破できても決勝トーナメントは厳しい」と予想する声も少なくないが、キム・ハクボム監督は「2012年ロンドン五輪・銅メダル以上の成績を目指す」としており、選手たちも弱気ではない。

「目標は優勝。僕だけではなく五輪という大きな大会に参加するすべての選手の目標が優勝だと思う」と語ったのは、チーム最年少20歳のイ・ガンインだ。

2年前の2019年U-20ワールドカップで韓国を準優勝に導き、自らもゴールデンボール賞に輝いた“韓国サッカー界の希望”は、遠慮や躊躇いもなしに「優勝」の二文字を口にしたのだ。

現場で取材した2000年シドニー五輪以降、韓国サッカーの五輪挑戦史を見続けてきたが、「最善を尽くします」が口癖で「メダル獲得を目指します」が精一杯だった韓国選手の口から「優勝」の二文字が飛び出すとは思わなかったが、それが今どきの韓国Z世代なのだろう。

韓国では1990年後半から2000年代前半に生まれた世代をZ世代というが、はたして東京五輪で韓国サッカーZ世代は躍進するだろうか。今日から始まる男子サッカーのひとつの話題として注目しておきたい。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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