「源氏物語」にもある虐め。でもまひろには道長がいる。少女漫画展開が極まってきた「光る君へ」第19回
「異なる道を歩みとうございます」
道長(柄本佑)が凛々しい。
大河ドラマ「光る君へ」第19️回「放たれた矢」(脚本:大石静 演出:黛りんたろう)では長徳元年(995年)、道長が右大臣になった。
さらに上の関白にはなりたくないと言う道長。陣定で公卿たちと共に論じ合い、考えたいからだ。
道長はこれまでのやり方とは違う道を目指す。
(☆ネタバレありますのでドラマをご覧になってからお読みください)
一方、まひろ(吉高由里子)は、せっかく道長と廃邸で会っても素っ気ない態度をとっている間に(第18回)、さわ(野村麻純)が結婚。「ほ〜らまた出遅れた」といと(信川清順)に言われてしまう。
一見、冴えないように見えるが、まひろは着々と幸運の道を歩み始めている。
道長はさっそく、陣定に参加し、疫病で苦しむ民の税金を免除しようという一条天皇(塩野瑛久)の意見について皆と論じる。
「むろん同意だ」「民を思う御心があってこそ帝たり得る」という道長だが、不承知派、帝の仰せのままに派、わかりませぬ派に分かれる。
仰せのままに派が多いが、伊周(三浦翔平)は「甘やかせばつけあがるのが民」だと相変わらずいや〜な態度。父や兄たちを呪詛したのは道長かと、とんでもない言いがかりまでつける。
上と民、響きは似ている。道長は上と民の関係をよくしようとし、伊周ははなから差別する。
「御堂関白記」の萌芽?
道長とまひろと一条天皇以外は、ほぼ俗っぽく、私利私欲で動いている。詮子(吉田羊)も道長の味方なのは父や兄が自分に冷たかったからだろう。うまいこと道長が出世したのをいいことに知り合いの出世を道長にねだる。
「わたしの味方を増やしておきたい」と言い(味方がいなくてとても辛い経験をしているからだろうけれど)、道長が真面目なことは悪くないと思いながらも「帝にお願いする」とちゃっかりしている。
厚かましいのは、斉信(金田哲)もだ。道長に参議にしてほしいと頼む。ここでも道長は贔屓はしない。ただ、結局、悪いようにはしないつもりのようだし、除目の案を事前に話してしまっていて、案外ゆるい。
出世の道を諦めた公任(町田啓太)は、適切な除目を行うには、貴族たちの事情を知ったほうがいいと助言。文字がうまくて女性に人気のある行成(渡辺大知)を使って、情報を仕入れることを勧める。
4人が会話を交わしているとき、ホタルが舞っている。俗っぽい話をしているのにホタルが舞っているだけで雅な感じがしてしまう。平安マジック。
行成はさっそく、情報を調べてくる。その報告書を焼くことを勧め、大事なことだけ日記に記録するといいと勧める。道長が残した「御堂関白記」の萌芽であろうか。
さっそく書いている記録に倫子(黒木華)が目を留める。このひとはいつもなにか含みがあるように見えてこわい。
除目で実資(秋山竜次)は権中納言になり、行成も出世。道長は、源明子(瀧内公美)の兄・源俊賢(本田大輔)を参議にして、伊周と隆家(竜星涼)を陣定に復帰させることに成功した。
着々と周囲を固めていく道長。
彼が権力を持ったことで、まひろの運命も変わっていく。10年もの間、申文を出し続けたにもかかわらず出世できなかった為時(岸谷五朗)が、従五位下になるのだ、道長の力で。
のぞみは大胆すぎるほうがいい
きっかけはまひろが、ききょう(ファーストサマーウイカ)の紹介で定子(高畑充希)に会ったこと。たまたま一条天皇も現れて、堂々と身分の壁を超える制度の提案をしたことだった。
ここで一条天皇が急に来て、定子とふたり席を外すのは、重いご使命(御子づくり)のためらしい。昼間から皆に知られながらの行為ってすごいけれど、子作りという職務ということなのだろう。大変である。
あとでその話を聞いた道長は「おそれ多いことを申す者」と言うと、一条天皇は「あのものが男であったら登用してみたいと思った」と応えるのだ。
道長はその結果、為時を従五位下にする。
まひろは「のぞみは大胆すぎるほうがいい」と為時を焚き付けていた。「のるかそるか身分の壁を乗り越えるのです」と。
長年、出世できずにいた為時が突如、大出世。為時といとは、まひろと道長の関係が影響していると察する。
「光る君へ」ではまひろと道長は正式に結ばれてはいないけれど、むしろいい方向にいっている。
妾という屈辱を受けずして、最高権力者に支えてもらえるという、最高の待遇である。
道長は、まひろに頼まれたら、知らない人物を出世させてしまうこともあるのではないかと穿ったことを考えてしまう。
まひろが定子に会いに内裏を訪ねたとき、廊下に鋲が落ちていて、それは女御たちの意地悪。ききょうは何度も虐めにあっているが、定子に仕えることを考えたらそんなことは気にならないと聞こえよがしに言う。
「源氏物語」にも出てくる虐め描写。光源氏の母・桐壺更衣がいじめられてメンタルをやられて病にかかり亡くなってしまうのだ。
昭和の少女漫画や、朝ドラの嫁いびり(最近は描かれなくなった)、他局の伝説のどろどろ昼ドラ「真珠夫人」のような虐め描写の原点は「源氏物語」なのかもしれない。
再放送中の大石静の朝ドラ「オードリー」(00年)でも、撮影所の大部屋俳優たちにヒロインが虐めを受けているところだ。
「光る君へ」が少女小説や少女漫画――ヒロインのドリームストーリーになっているのは「源氏物語」がそうだから。
それにしてもまひろは道長に助けられすぎる。疫病も看病してもらったし。ややまひろが無双すぎるのは、天才作家・まひろ(紫式部)の妄想なのではないかとさえ思えてきた。
まひろが大胆すぎる夢を見ながら、作家の夢を叶えていく物語だとしても、最近、ここまで夢のようなドラマも昨今少なくなっているので、たまにはあってもいい気がする。
喜びに珍しく琵琶の音色が明るく聞こえたのもつかの間、月に不吉な黒雲がかかる。
隆家の放った矢に射られた人物は、なつかしの花山院(本郷奏多)!
大変なことが起こると思わせつつ、次回予告のラストカットがコミカルで、心配要らなそうだし、何があってもまひろにはいいことしかないと安心して見られるのがいい。
大河ドラマ「光る君へ」(NHK)
【総合】日曜 午後8時00分 / 再放送 翌週土曜 午後1時05分【BS・BSP4K】日曜 午後6時00分 【BSP4K】日曜 午後0時15分
【作】大石静
【音楽】冬野ユミ
【語り】伊東敏恵アナウンサー
【主演】吉高由里子
【スタッフ】
制作統括:内田ゆき、松園武大
プロデューサー:大越大士、高橋優香子
広報プロデューサー:川口俊介
演出:中島由貴、佐々木善春、中泉慧、黛りんたろう ほか