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NPB Jr.で複合型バットが禁止に。「遠くへ飛ばす夢」を叶えてきた「革命児」のいま

上原伸一ノンフィクションライター
遠くへ飛ばすのは、ホームランを打つのは、小学生にとっても夢の実現である(提供:イメージマート)

賛否両論がある「飛ぶバット」の使用

「NPB12球団ジュニアトーナメント KONAMI CUP 2022」(以下、NPB Jr.)で、「飛ぶバット」の使用が禁止された。昨年は大会新記録となる、実に51本塁打。柵越えが7本の試合もあるなど、小学生の「空中戦」は注目を集めた。

NPBが「飛ぶバット」、つまり、打球部分にウレタン素材を配した複合型バットを禁止したのは、飛ぶからではない。打球スピードが速く、子供たちへの安全性を考慮した結果だという。NPBジュニアに選ばれる子は体格面においても早熟なタイプが少なくない。そういう子供たちが反発性の高い「飛ぶバット」を使えば、飛距離が出るとともに、強烈なゴロやライナーが野手を襲う。特に打者から一番近い投手は危険である。

小学生が「飛ぶバット」を使用することについては、何年も前から賛否両論の声がある。筆者が今回のNPB Jr.の決断に関するツイートをした際も、いろいろなコメントを頂戴し、ちょっとした意見交換の場になった。総インプレッションもかなりの数に及び、「飛ぶバット」に対する関心の高さをうかがわせた。

では「飛ぶバット」にはどんな「賛否」があるのか?筆者が知り得る範囲でまとめてみるとこうなる。

<賛>

・「ホームランを打ちたい」という子供の夢を叶えてきたのは事実。これはメーカーの功績である。

・複合型バットの登場によって、「(子供は)ゴロを転がせ」というこじんまりした野球から脱却できた側面がある。

<否>

・高額でさらなる野球離れを招く恐れがある。

・タイミングさえ合えば、本来はポテンヒットになるような打球が外野まで飛んでしまう。

・延々と攻撃が続くこともあり、投手をやりたがらない子供もいる。

・ここ数年でも複合型バットの反発性が向上していて、危ない場面は何度となくあった。

この「賛否」はそのまま、今夏取材した高円宮賜杯全日本学童軟式野球大会(マクドナルド・トーナメント)でも感じた。学童の全国大会をじっくり見たのは久し振りだったが、「飛ぶバット」の使用によって野球スタイルがずいぶん変わっていた。滅多にお目にかかれなかった柵越え(学童の高学年は両翼70メートル、中堅は85メートル)を、かつては「お前は転がせ」と言われていたような小柄な子が、いとも簡単に(という感じで)打ってしまうのだ。戦術的にもバントなどの小技がほとんど見られず、どのチームも積極的に打っていた。

一方で投手は継投が目立った。学童野球は変化球が禁止である。ひとたびタイミングを合わされたら、「飛ぶバット」が相手ではなかなか勢いを止められない。そうならないように、速球派の次は軟投派というふうに、投手を代える必要があるのだろう。

「飛ぶバット」の存在は学童野球の野球スタイルにも大きな影響を及ぼした
「飛ぶバット」の存在は学童野球の野球スタイルにも大きな影響を及ぼした提供:イメージマート

待ち望まれる本格的な議論

そもそもなぜ、「飛ぶバット」が誕生したのか?話は20年前にさかのぼる。当時、軟式野球では2つのことが言われていた。1つは「スイングスピードが速いほどインパクト時にボールが潰れるため、打球が飛びにくい」。もう1つが「打球が伸びない軟式野球は、レベルが上がるにつれてなかなか得点が入らない」である(1983年に行われた天皇賜杯全日本選手権決勝は延長45回でようやく決着がついた)。

そこで真っ先に開発に乗り出したのがミズノだった。「柔らかい風船を飛ばすには硬いものではなく、同じゴム風船のような柔らかいもののほうが飛ぶ」ということに着想を得て、「ビヨンドマックス」という「革命児」を2002年に世に送り出したのだ。

打球部に軟式ボールの変形量を抑えるポリウレタンを採用し、かつ、高反発素材の復元力を付加した「革命児」は、まさに軟式プレーヤーの「飛ばす夢」を叶えてくれるバットになった。

ただ、他メーカーも黙っていない。ミズノを追い越せと、より反発性の高い複合型のバットの開発に乗り出す。もちろんミズノも負けてはいない。複合型のバットのパイオニアであるプライドにかけて、次々に進化版を登場させた。

こうした結果、「飛ばす夢」を叶えた「ビヨンドマックス」が批判にさらされる。いわく、飛び過ぎる、と。軟式ボールが飛ばないからと開発したバットが、今度は飛び過ぎると言われる。思えば皮肉なものである。地域によっては使えないところがあったり、高校野球では使用禁止になっている。

「飛ぶバット」の象徴的な存在が「ビヨンドマックスレガシー」だ。一方で、驚異的な飛距離を生むレガシーは、小学生が振るには少し重かった。だが昨年、重量を約30グラム軽くした少年用の「ビヨンドマックスレガシー」がデビューする。軽ければ、その分スイングスピーが速くなり、打球もより遠くに飛ぶ。昨年のNPB Jr.でのホームラン量産の一因は、このバットによるものでは…という見解もあるようだ。

ホームランは野球の華だ。それは小学生の野球でも変わりはない。小学時代にしかホームランを打てなかったとしても、それは、大げさに言うなら「人生の成功体験」にもなり得よう。これまで「飛ぶバット」の恩恵を受けながら、「成功体験」を手に入れた人もたくさんいるに違いない。

NPB Jr.は危険性を考慮し、「飛ぶバット」を使用禁止とした。これは「飛ぶバット」が悪いのではなく、本格的に議論が必要だと、示唆しているのではないか。何が正解か結論づけるのは難しいかもしれないが、全日本軟式野球連盟での議論を望みたい。

ノンフィクションライター

Shinichi Uehara/1962年東京生まれ。外資系スポーツメーカーに8年間在籍後、PR代理店を経て、2001年からフリーランスのライターになる。これまで活動のメインとする野球では、アマチュア野球のカテゴリーを幅広く取材。現在はベースボール・マガジン社の「週刊ベースボール」、「大学野球」、「高校野球マガジン」などの専門誌の他、Webメディアでは朝日新聞「4years.」、「NumberWeb」、「スポーツナビ」、「現代ビジネス」などに寄稿している。

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