日本球界入りも噂されるメジャーの超一流投手、トレバー・バウアーは野球版イニエスタになるか?
ここ数日、シンシナティ・レッズのトレバー・バウアーの日本球界入りを示唆するニュースが複数の媒体から報じられている。
11月5日にはお堅いイメージの強い経済紙「日本経済新聞」が共同通信から配信された記事を使って、「FAのバウアー、レッズからのQO拒否 日本移籍も視野」とのニュースを発信。
翌6日には日経と正反対に位置する「日刊ゲンダイ」が「菅野失う巨人 サイ・ヤング賞級右腕バウアー獲得の現実味」とエース菅野智之がメジャー移籍した場合の代役として巨人がバウアーを獲得するのではという記事を掲載。
7日には「東京スポーツ」が「楽天 監督問題ふっ飛ぶ2億ドル超大物助っ人獲り浮上」との記事を出した。
東スポは宇宙人やツチノコなどのファンタジー系記事も得意とするが、バウアーの日本球界入りはファンタジーの世界の話とは言い切れない。
バウアーはワールドシリーズ終了後に「MLBとNPBの全球団からの契約提示を考慮する」とツイート。契約条件次第では日本球界行きもありえると呟いた。
大方の予想通りにレッズはバウアーに1890万ドル(約19億8450万円)のクオリファイング・オファー(QO)を提示したが、バウアーは拒否をしてフリーエージェント(FA)権を手にした。
QOとはFA権を得た自チームの選手に対して、所属球団が1年契約で引き留められるシステム。金額はリーグの上位125選手の平均年俸で、今オフは1890万ドル。選手側が承諾すれば、QOの年俸で1年間残留。選手側が拒否した場合には、選手はFAとなり、他チームと契約した場合には補償としてドラフト指名権を得られるシステム。
バウアーがQOを拒否したということは、年俸20億円以上を得られると睨んでいる。
ゲンダイの記事では、
とあるが、それでもバウアーを年俸20億円で獲得するには8億3000万円以上の不足となり、あまりにも現実味のない話だ。
これまでに巨人が外国人選手に対して支払った最高年俸は2003年と04年のロベルト・ペタジーニに払った7億2000万円。今オフの巨人は「発掘、育成にシフトしている」と大塚淳弘球団副代表編成担当が語るように、大型補強よりも自前の若手選手育成に方針転換する。そんな巨人がバウアーにペタジーニの3倍近い年俸を払うとは思えない。
巨人よりも可能性がありそうなのが、東スポが名指しする楽天だ。
東スポの記事にあるように、バウアーは総額200億円超えの大型契約を狙っている。今季のメジャーリーグは短縮シーズンだった上に無観客試合で、各球団は大幅な減収に直面。平均すると各球団は1億ドル(約105億円)も収入が減っており、今オフはFA選手にとって厳しい冬になると言われている。
こんな状況で大型契約を提示できる球団として名前が挙がっているのがニューヨーク・メッツ。メッツはオーナーが変わったばかりで、新オーナーは今季の減収とは無関係なので、他球団よりも補強予算に余裕がある。200億円超えの契約は無理でも、5年総額1億5000万ドル(約157億円)程度の契約は結べそうだ。
バウアーが2億ドルの契約にこだわった場合には、今季は1年契約を結んで、来オフに経済状況が改善したら大型契約を狙う手がある。
もともと、今年4月には「FAになったら、長期契約を結ばずに、毎年1年契約を繰り返していく。好きなときに好きな場所でプレーする自由を持っておきたい」と自身のユーチューブで爆弾発言。安定を求めて長期の大型契約を求める選手が多い中、メジャーの中でも唯一無二なユニークな考えの持ち主なバウアーは、これまでの常識にとらわれない契約プランを口にした。
もっともレギュラーシーズンが終わった10月になると、バウアーの代理人は「あらゆる種類の契約を検討する」と長期契約を受け入れる可能性も強調した。
バウアーが1年契約を受け入れる可能性は消滅していないので、「変わり者」のバウアーが2021年の1シーズンを日本でプレーしようと考えても驚きは少ない。
ただしバウアーが日本でプレーするためには、メジャーのトップクラスの投手に相応しい待遇を用意する必要はあるだろう。
来季の最高年俸投手はギャレット・コール(ニューヨーク・ヤンキース)の3600万ドル(約37億8000万円)。7人の先発投手が3000万ドル(約31億5000万円)以上の年俸を手にするが、バウアーの実力はこの7人と同じレベルにある。
となると、バウアー獲得に必要な資金は年俸31億円以上。今季のプロ野球のチーム総年俸のトップは42億円のソフトバンクで、2位は36億円の巨人。3位の楽天は31億円で、バウアー獲得に最低限必要な金額と同じである。
仮にバウアーを抜いた楽天の来季総年俸も今季と同じ31億円だとすると、バウアー一人でチーム総年俸の半分を占めてしまう。とてもアンバランスな年俸分配図となってしまうが、楽天は他のスポーツで同じような球団経営を行っている。
サッカーのJリーグを見てみると、今季のチーム総年俸のトップはヴィッセル神戸の47億円。2位は浦和レッズの15億円なので、神戸は浦和の3倍以上の予算を誇る。
神戸の年俸の内訳を見てみるとイニエスタが32億5000万円で、一人でチーム総年俸の7割を占めている。
プロ野球よりも選手総年俸が安いJリーグ・チームの運営に47億円を費やす楽天ならば、プロ野球に60~70億円を出せないことはない。
イニエスタが世界サッカー界の至宝であるように、29歳のバウアーは選手として全盛期で、世界の野球界の至宝と言っても過言ではない。日本のプロ野球チームが一人の選手に対して30億円以上の年俸を払うのであれば、36歳のイニエスタに32億5000万円を払っている楽天以外には考えられない。
多くの読者はバウアーに30億円を払うのであれば、楽天出身でバウアーと同じくFAの田中将大を20億円で呼び戻した方がいいと思うだろう。
バウアーと田中のどちらが日本球界を盛り上げ、楽天に大きな経済効果を与えられるか?
その答えはいうまでもなく明らかである。