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加齢による肌の変化を遅らせる!【皮膚のバリア機能に着目した老化対策】

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(写真:イメージマート)

【皮膚の老化メカニズムと炎症の関わり】肌の健康を保つための最新知識

今回は、肌の老化について最新の研究結果をご紹介したいと思います。

近年、肌の老化と炎症の関係が注目を集めています。加齢とともに肌には様々な変化が現れますが、その背景には慢性的な炎症が関わっていることがわかってきたのです。

老化による肌の変化は、大きく内的要因と外的要因に分けられます。内的要因としては、加齢に伴う細胞機能の低下や、ホルモンバランスの変化などが挙げられます。一方、外的要因には紫外線や大気汚染、喫煙などのストレスが含まれます。これらの要因が複合的に作用することで、肌の老化が引き起こされるのです。

特に紫外線は、肌の老化を加速させる大きな要因の一つです。紫外線を浴びると、活性酸素が発生し、コラーゲンなどの真皮成分が傷つきます。また、DNAにダメージを与え、シミやソバカスの原因にもなります。こうした紫外線のダメージは、炎症反応を引き起こし、肌の老化に拍車をかけてしまうのです。

【慢性炎症が引き起こす肌トラブルとは】

肌の老化に伴って起こる炎症は、通常、目に見える症状を伴わない低レベルの慢性炎症です。この慢性炎症は、肌のバリア機能の低下や乾燥、シワ・たるみの悪化など、様々な肌トラブルの原因となります。

例えば、加齢によって肌のバリア機能が低下すると、外部からの刺激に対する抵抗力が弱まり、肌は炎症を起こしやすくなります。炎症が起こると、肌の保湿力が低下し、乾燥や敏感肌の原因となるのです。

また、炎症によって分泌される炎症性サイトカインは、コラーゲンなどの真皮成分を分解する酵素の活性を高めます。その結果、真皮の弾力が低下し、シワやたるみが目立つようになってしまうのです。

さらに、肌の慢性炎症は全身の健康にも影響を及ぼす可能性があります。実際、乾癬やアトピー性皮膚炎などの炎症性皮膚疾患の患者さんでは、心血管疾患のリスクが高いことが報告されています。肌は体内最大の臓器であり、肌の状態は全身の健康状態を反映しているのかもしれません。

【肌の老化と炎症を防ぐ生活習慣とスキンケア】

それでは、肌の老化と炎症を防ぐために、私たちにできることは何でしょうか。

まず心がけたいのが、生活習慣の改善です。バランスの取れた食事、十分な睡眠、適度な運動を心がけることで、肌の健康を保つことができます。また、ストレスをためすぎないことも大切。ストレスは炎症を悪化させる要因の一つなので、上手にストレス解消する方法を見つけましょう。

もちろん、紫外線対策も欠かせません。外出時は、日焼け止めを塗ったり、日傘を差したりと、紫外線を避ける工夫が必要です。室内でも、窓ガラスを通して紫外線を浴びている可能性があるため、日中はカーテンを閉めておくのも良いでしょう。

スキンケアでは、肌のバリア機能を維持することが重要です。バリア機能が低下すると、肌の炎症を引き起こしやすくなってしまいます。バリア機能を保つには、肌の保湿に加え、刺激の少ないマイルドな洗浄料を選ぶことが大切。セラミドやアミノ酸などの保湿成分が配合された化粧品を使うのもおすすめです。

また、肌のバリア機能を高める成分として、近年、注目されているのがオーファン核内受容体(NR4A1)です。マウスの実験では、NR4A1を活性化させることで、肌のバリア機能が改善し、炎症が抑えられることが明らかになっています。今後、NR4A1に着目した新しいスキンケア製品が開発されるかもしれません。

【最新の研究から見える今後の展望】

最新の研究からは、肌の老化と炎症の関係性がますます明らかになってきました。例えば、加齢に伴って肌のpH値が上昇することで、炎症が起こりやすくなることが報告されています。また、老化した肌では、抗炎症作用を持つタンパク質であるクロトの発現が低下していることも明らかになりました。

こうした研究結果を踏まえ、肌の老化と炎症の予防法の開発が進められています。例えば、pH値を調整する化粧品や、アンチエイジング遺伝子の発現を促進する成分の探索などが行われています。今後、老化による肌の変化を遅らせる新たなアプローチが見つかるかもしれません。

加齢に伴う肌の変化を完全に止めることは難しいですが、生活習慣の改善とスキンケアを工夫することで、老化のスピードを遅らせたり、炎症を抑えたりすることは可能です。特に、バリア機能の維持は肌の健康を保つ上で非常に重要だと考えられます。肌の老化と炎症の関係性について、今後さらなる研究の進展が期待されます。

参考文献:

- Hu, L., et al. (2017). J Invest Dermatol, 137(6), 1277–1285.

- Ye, L., et al. (2019). J Eur Acad Dermatol Venereol, 33(11), 2197–2201.

- Wang, Z., et al. (2020). Aging, 12(7), 5551-5565.

- Dang, H., et al. (2022). Int J Mol Sci, 23(6), 3326.

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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